379 「帝宮にて(2)」
そしてハルカさんを中心に多少面倒くさい手順などを経て、ようやく皇帝陛下への謁見となる。
「上級神殿巡察官ルカ様と従者の方々をお連れしました」
案内した騎士の言葉に、中から入室を許可する声。
そしてその声を受けて、扉の左右に待機してる騎士が両開きの扉を仰々しく開く。
正直、自動ドアの方が有難い。
そして部屋に入るが、周りの人達が諸々手配して、そして仰々しい言葉で誘導や紹介をするので、こちらは無言を通す。
これは無礼ではなく、皇帝陛下から言葉をかけられ許しが出るまで無言を通すのが礼儀だ。
更に言えば、あからさまに皇帝陛下や皇族を見てもいけないので、目を伏せがちに定位置へと着く。
部屋の奥、数段高くなった場所のにある豪華な椅子に皇帝が座っていて、隣にはお妃様と思える女性も座っている。
そしてその左右に大臣や将軍の代表っぽい人が、それぞれ1人ずつ立つ。
ファンタジー世界なら宮廷魔導師が居そうなものだけど、『帝国』にもそう言った人はいないようだ。
ついでに言えば、皇帝や王様を偉く見せるための道化も居ないし、BGM担当の宮廷楽士も居ない。
部屋は相応に広いのだけど、そこにいる人数を考えると少し閑散としている。
そしてオレ達は、数段高くなった玉座から真っ直ぐ伸びる豪華な絨毯の上で、前にハルカさんで、後ろに他4名が並ぶ形で跪く。
「巡察官殿、遠路よく参られた。顔を上げられよ」
皇帝陛下の第一声は、丁寧で上品なものだっだ。
超大国、軍事国家の皇帝だから、もっと偉そうだったり権高かと思ったが、声を聞く限り好感が持てそうだ。
かと言って、気軽に話しかけてくるような声でもない。
そしてなるべく控えめに顔を上げ、皇帝陛下と皇妃殿下を初めてまともに見る。
第一印象は、テレビで見た事のある欧米の王族と同じようなイメージだった。
上品で威厳は感じるけど、その辺を取っ払ったら普通の白人のおじさん、おばさんに見えたかもしれない。
それなりに顔立ちは整っているけれど、思っていたほどインパクトはない。
少し拍子抜けすると同時に、まあこんなもんなのだろうと納得もする顔立ちと雰囲気だ。
むしろ、ハリウッドや日本のアニメ的なものを想像していた自分が、少し恥ずかしくなるくらいだった。
けど、オレが最初に会った貴族がアクセルさんなので、そのイメージを持ち続け過ぎているだけだと、内心で自己弁護しておく事にした。
そしてオレの虚しい内心をよそに、皇帝陛下とハルカさんが言葉を交わしていく。
どこから来た、どこを巡った、これからどこへ向かう、なんと邪神大陸へ赴くのか、などが皇帝陛下の言葉だ。
それにハルカさんが、過不足なくそして礼儀を保って答えていく。飛行船でもシズさんと練習もしていたので、ハルカさんが心配したようなポカもミスもない。
(けど、こうして側から見ると、『帝国』の皇帝陛下よりオレの仲間の方がよっぽどお話の中の登場人物っぽいよな)
話を後ろで聞きながら思ったのは、その程度の事だった。
そして皇帝陛下との謁見後、別室に移動すると今度は、皇太后、皇太子、皇子数名、皇女数名、皇族の傍系など皇族が20人以上も待っていた。
こちらは迎賓室のような豪華な部屋で、お茶や酒、軽食とお菓子も用意された、砕けた雰囲気でのお茶会という趣向だ。
それぞれの偉い人たちのお付きの人も最小限だ。
そして大勢で何の用かと言えば、どんな巡礼者かとオレ達の事が伝えられているらしく、武勇伝や旅の話を聞きたいというものだ。
超大国の皇族と言えど現代人ほど娯楽がないので、外からやって来る安全な客人から話を聞くというのが娯楽になるのだ。
そしてオレ達が、オレ以外が若い女性というのが特にお気に召したらしい。
皇太后と皇女殿下、それに傍系に属する妃や姫様達は、ハルカさんとオレ以外の仲間と積極的に話たがった。
皇太子以下の男の方もオレ以外と話したがったけど、こちらは魔力総量の多い若い女性というのがお気に召したらしい。
中には粘着質な視線を向けて来る奴もいる。
つまりは、魔力総量の多い一族を産む為に、妃はともかく妾に出来ないかと値踏みしているのだ。
話などどうでもよく、オレ達に若く魔力総量の多い女性が多いと聞きつけ、この場にいる皇族も居るようだ。
その点は、名前も覚えていない傍系のおっさんの一人が言った段階で、ハルカさんが全員が従者契約をした従者だと強めに伝えたのだけど、それでも回りくどい言葉を言ってくる奴がいる。
だからオレは、一つカードを切る事にした。
向こうが権力を笠に着るなら、こっちにも手があるというヤツだ。
「そ、それが貴殿が世界竜に認められた証だと?」
オレがクロと同様に肌身離さず持っている、世界竜エルブルスから貰った領主の証だ。
「はい。これが私が世界竜からエルブルス辺境伯に認められた証になります」
「美しい竜の鱗ですな。念のため、魔導師に鑑定をさせて頂いても構いませんかな?」
「失礼だぞ第三皇子」
そう嗜めるのは、20代後半から30前半くらいの皇太子殿下。分別もありそうで、上品で落ち着いた雰囲気のオッサン、もといおじさんだ。
かなりの威厳と風格というものも感じる。
それに引き換え、まだ20代前後だろう小太りデブの第三皇子が正直ウザい。他にも数名ウザい奴は居たが、この中では第三皇子が一番ウザい。
仲間のみんなの顔は笑顔だけど、全員営業スマイル。内心についてはオレに分かるくらい不機嫌だ。
「いえ、それで信じて頂けるならいくらでも」
それで急遽お魔法使いらしい外見の年老いた魔法使いがやって来て、シズさんがするような鑑定の魔法を構築。
そしてシワシワの顔に驚愕が浮かぶ。
「確かに世界竜の魔力を感じます……これは凄い」
「本当なのか?」
「だから失礼だと言っている、第三皇子」
「分かっております、皇太子殿下。失礼したエルブルス辺境伯」
「いえ、ご理解いただけたのなら構いません」
「うむ。それと、そちらの事情も理解した。年若いご婦人方に無粋な事をお聞きして、面目次第もない」
「それは私の事を仰りたいのか?」
「皇族を代表して言ったまでだよ、第三皇子」
どうやら皇太子と第三皇子の仲は悪いらしい。
特に第三皇子が、第三者がいる場でも突っかかるところを見ると、もはや末期的に見えてしまう。
大方、後継者争いでもしているんだろう。
ギスギスした空気は、格好いいお姉さん達の胸踊る話に大層喜んでいた小さなお姫様がすごく可哀想だ。
なお、皇族の中にも、アニメやラノベに出てくるような、年頃のイケメンや美少女は居なかった。
皇女殿下の数人はかなりの美人さんだけど、写真などで見るヨーロッパの王族といった雰囲気だ。
勿論だけど、オレが望むような、ちょっとエッチな衣装の美少女など論外だった。
小さく可愛いお姫様はいたけど、良い意味で言う所の可愛さだ。
皇族だけに整った顔立ちの人が殆どだけど、テレビやネットで見かける俳優や女優のような見た目の人はいない。
逆に、権力者とそれに連なる人とはこう言った雰囲気なのだと感じさせる人は、一人や二人ではなかった。
こちらが無害な第三者だから回避できているけど、妾の事以外でも値踏みしたり計算高い視線を向けてくる人もいた。
こういうのを直に体験すると、正直、権力者にはなりたくないと痛感させられる。
その後、気を取り直して、主に小さな皇族の人たち向けに話を続けるも、2時間ほどでお茶会もお開きとなり、オレ達もようやく解放された。
そしてこの日は皇宮に泊まる事になった。
帝都での面倒ごとは終わりかと思ったけど、帝都の大神殿にいる聖女様がオレ達、じゃなくてハルカさんに会いたいとのことだからだ。
そして神殿の用向きとなると無視もできないので受け入れると、それならばと皇宮での宿泊を「勧められた」たというオチだった。
早く邪神大陸に行きたいものだ。





