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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第五部 『帝国』編

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376 「空皇の聖地(1)」

「服がない!」


 賊が去ってホッと一安心したところで、ユーリが絶叫した。

 そしてそれを聞いて、あられのない格好もつくろわわず、女子達がそれぞれ服や荷物を置いた場所へと駆け寄せる。


「ボクの服は無事。けど小物入れがぁ」


「私は下着以外全滅。あの服気に入ってたのに」


「私も残すは下着だけだ」


「申し訳ありません。一部の賊が皆様の服と荷物を漁っているのは確認していたのですが阻まれました」


「あの数だ、アイが気にする事はないよ。それに守ってくれて有難う。だが、ロクにこっちの命も狙わず、大した物がない服や小物を狙うとはな……」


 シズさんが濡れて肌にぴったり張り付いた浴衣姿のまま、半ば呟きつつその場で考え込む。

 他の3人も、似たようなあられもない姿で考え込んだり悔しがったりで、オレ達男二人は半ば置いてけぼりだ。

 そんな中で、微妙な状況に気づいたのはマースさんだった。


「何にせよご婦人方が無事で何より。ワシは警備の者を呼んでくるので、生きている連中を何かで拘束しておくように。ではこれにて!」


 知らせに行くと言うのに、最後が何やら別れの挨拶じみていた。

 そしてそれでオレは気づいた。

 逃げたのだ、と。


 けど逃げるわけにいかないオレは、マースさんを見送ったその視線を脱衣所の方に向ける。

 すると、ジト目な4人がオレにその視線を注いでいた。

 特殊な性癖があれば、まさにご褒美の一瞬だ。

 まあ、面白そうな表情が半分を占めていたのだけど。


「で、弁解は?」


 代表してハルカさんの低音ボイスが響く。

 当然、好意的である筈がない。

 バスタオルのようなものをさらに上から覆っているけど、それでも魅力的すぎる姿なのに、まともに視線を向けるわけにもいかない。


「変な魔力感じたから駆けつけたに決まってるだろ」


 目が泳いでなければと思いつつ、なるべく淡々と口にする。

 そのお陰か、みんなの視線はそのままながら、少し空気は和らいだ。


「ハァ。まあ多少は助かったわ。で、あの警備を呼びに行った人は?」


「一緒に風呂に入ってただけの人。多分『帝国』の騎士か軍人さんだと思う」


「一緒に? 貸切なのに?」


「男風呂はオレ一人だから、貸切じゃなかったんだろ。多分」


「それはそれで中途半端だな。まあ、それよりも生きているやつを拘束しよう」


「それとショウは、何か着るものとロープを探してきて」


「イエス、マム」


 それだけ答えると、軍隊っぽく回れ右を決めて、脱兎のごとくその部屋を後にした。




 その後、それなりに大変と言うか色々面倒臭かった。

 取り敢えずの服はすぐにも上等なものを用意してもらえたし、さらに採寸の上で新品まで贈ると『帝国』はお詫びの姿勢を示してきた。

 さらに『帝国』の色々な人からは平謝りされ、最後にはオレ達の案内人でもあるゴード将軍までもが深々と頭を下げた。

 それでいて事件の詳細については、特に聞かされる事はなかった。


 表向きは、高貴な人が浴場に入ったと考えた盗賊の仕業。

 けど、『帝国』の客人を接待中なので、単なる盗賊がそこまでリスクを冒す筈がない。

 もしあるとするなら、余程高価な物品をオレ達が肌身離さず持ち歩いていると言うガセネタでも掴んでいる場合くらいだろう。


 けどそうだとしても、相手は相当の手練れだった。

 装備からも、ある程度戦闘する事を前提としていたのは間違いない。

 戦闘力自体は、騎士に匹敵するが身軽だった。装備が軽装だったのもあるけど、基本的な身のこなしが騎士じゃなかった。手練れの盗賊でないなら、特殊な訓練を積んだ者の動きだ。


 そしてあの動きには、少し見覚えがあった。

 数日前に飛行船を襲ってきた連中だ。

 更に言えば、随分前に出くわした黒尽くめの連中の一部に似ている気がしてならなかった。



「ショウもそう思うのね」


 浴場の娯楽室で、『帝国』から取り敢えずの服をもらったみんなが寛いでいる。

 来た時と同じ服装は、オレと服を奪われていなかったボクっ娘だけだ。


「けど、女性だけ狙われてオレが狙われなかったのは、やっぱり殺すのが目的じゃないからかな?」


「でしょうね。ショウが強いって知ってるのは、この国だと『帝国』の一部の人だけでしょうし、殺害が目的なら一人のショウを狙うのがセオリーよね」


「犯人の黒幕は、その一部の人だったりして?」


 ボクっ娘が少し面白がった口調で言うけど、問題提起をしているだけなのはその目からも明らかだ。


「そのメリットが見えないわ。中途半端な襲撃で私達に不快な思いをさせて、『帝国』に何の得があるの? それに私がこの国の神殿に言いつけたら、問題になるだけよ」


「裏の事情はとにかく、目的は私達の荷物か服なのだろうな」


「じゃあなんてレナの服は無事だったんだ?」


「ソコッ! ボクをディスらない! どうせ、ボクが貧相な体だから、変態さん達が服を獲らなかったとか結論するつもりでしょ」


 分かってて言っているのがバレバレだけど、これは乗ってやるしかないだろう。


「オレも狙われてないぞ」


「うわっ、男と同じ扱いとか流石に酷くない?!」


「はいはい、ジャれるのはそこまでね。下着を残してる時点で、変態の線はないでしょ。それにレナは手ぶらだったじゃない?」


「そういう事だな。何か物品が目当て。しかも私達が肌身離さず持っているものが目的、という事だ」


「しかも嵩張らない物品ね」


「それって、もう答え出てますよね?」


 悠里が誰も言いたくない事を指摘する。

 そして全員の視線が、甲冑姿のアイに向く。

 クロに向いても良かったけど、クロはオレの腰なのでアイの方が目を向けやすいからだ。

 けどそこで気になる事があったので、オレはハルカさんを見る。

 そうすると目線を合わせた後で、腰にポンポンと手をやる。

 そこには、俺と同じように小さな袋があった。


「そうね。けど、これ以上は聖地で話しましょう」


「えっ? は、はい?」


 ユーリは怪訝な返事となったが、ハルカさんの一言で話しは別の場所でする事になった。


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