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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第五部 『帝国』編

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373 「浮遊大陸(2)」

「無事だったみたいね」


「うん。見物一つで、ヒヤヒヤさせるなあ」


「不意の災害相手じゃ、仕方ないでしょう」


「ごもっとも。それより迎えてやろう」


 そう言っている間にも2体が飛行船に近づき、そして中央の甲板の後ろから順番に着陸、いや着艦してきた。


「大丈夫だったかー?!」


「危機一髪! けど、スリルがあって面白かった!」


 最初に着艦してきた悠里は呑気なものだ。

 あの崩壊を、アトラクションか何かと勘違いしてるんじゃないだろうか。

 ただ、雷龍のライムも乗っている当人も、土埃で全身かなり汚れてしまっている。

 何かで拭いたらしいゴーグルだけが光って見えるのが、少し違和感あるくらいだ。


「うへーっ、酷い目にあったー」


「私の我儘で本当に済まない」


「もういいよ。貴重な体験ではあったしねー」


 続いて着艦してきたヴァイスも白ではなく、本来の鷲の色に少し近づくほど土埃を浴びた状態だ。

 乗っている二人も似たようなもので、シズさんなど、自慢のロングヘア、耳、そして5本の尻尾が黒銀ではなく、薄茶色になっている。

 だから、ちょっとイタズラが過ぎて悄気しょげた犬のような雰囲気がある。


「散々だったみたいですね」


「3人とも、魔法で綺麗にしましょうか?」


「助かる。多分だが、下着の中まで土埃が入り込んで、かなり不快なんだ」


「じゃあ、服ごとクリーニングでいい?」


「お願いしまーす」


「わ、私もー」


 外で遊び倒した後のような姿だけど、中身が現代日本人なせいか流石にたまらないらしい。

 指にしている浄化の指輪でも似たような効果は得られるが、これほど汚れてしまうと時間がかかるので、ハルカさんの魔法、というより神官の魔法は便利だ。

 オレも以前、何度かお世話になったものだ。


「災難でしたな。ですがご無事で何より」


 するとそこに、ゴード将軍が歩み寄ってきた。

 一応は見舞いなんだろうけど、多分崩壊を間近で見た感想などを聞きたいのだろう。

 表情が真剣すぎた。


「ご所望のものはこれだろ?」


 そして待っていたとばかりに、シズさんが懐から何かを取り出す。

 半透明の水晶のような大きめの結晶体だ。

 一見、魔力が結晶化した大きな魔石にも見えるけど、違うものを結晶化したものだ。もしくは、自然に生成されたものだろう。


「お気付きでしたか。外縁部の崩壊に偶然立ち会えることは非常に珍しく、もしやと思っていたのです」


「半ば偶然だが、浮遊大陸の魔力の流れを追っていたし、崩れる時は自力で発光していたから見つけるのは簡単だった。もっとも、確保するのは少しばかり骨が折れたがな」


「後で、ヴィイスのアクロバットにお礼言ってあげてねー」


「必ず。それで、その浮遊石の結晶をお借りしても構いませんか」


 ボクっ娘の軽口に真面目に答えているのは、少しおかしみを感じてしまう。

 けどシズさんは、水晶を持つ手を差し出し軽く片眉を上げる。


「お借りするではなく、むしろこちらがお返しするという方が正しいだろう。何しろ貴国の大地の一部だ」


「かたじけない。この礼はいずれ必ず。それと、魔法で綺麗にするだけでは、ご婦人方にはご不満もおありでしょう。聖都に到着の際は、神殿に赴かれる前に浴場をご堪能ください」


「浴場? 『帝国』の誇る公衆浴場ですか?」


 ハルカさんの声が、半オクターブくらい上がった。

 嬉しさが声に乗っている。


「左様です。その特上のものが聖都には御座います。今回のお礼の一端という程でもありませんが、それを皆様にご用意させて頂きたく思います」


「おっ、太っ腹!」


「浴場って、スーパー銭湯?」


「そのちょー豪華なやつ。ビックリするよ。ボクも『帝国』に来たら通い詰めになるくらい」


「へーっ、楽しみ」


 飛行組が盛り上がっているし、年長組も嬉しそうだ。

 ゴード将軍は、堅物なばかりでもないらしい。いや、騎士や貴族なのだから、ご婦人方の扱いを弁えているだけだろう。


 そしてその日の夕方には、聖都こと空皇の聖地へとオレ達が便乗していた飛行船が到着した。

 上空から見た聖地リーンは、ウィンダムと街の構造は基本的に似ていた。


 巨大な神殿を中心とした宗教都市で、北側には巨大な森林があり、南側に門前町が広がっている。

 街の規模はウィンダムの倍くらい大きく、空皇の象徴色であるオレンジ色の屋根が特徴的だ。

 そしてどこか、ローマとかギリシアっぽい建造物が多い。


 ちなみに空皇は男性神で、名前のごとく風を司る。他に風に関連する事も掌り、特に雷と天候を司っている。

 そしてすべての空を飛ぶ職業の聖地でもあり、巨大で立派な飛行場が隣接しているし、そこには実に沢山の飛行船があり、騎乗用の飛行生物がたむろしている。


 空港の一角には、神殿が管理する空を飛ぶ生き物、魔物の牧場や飼育地のような場所まである。

 北に広がる森林も、空を飛ぶ物達の為のものだ。


 そして天候を司る為、天候祈願で訪れる巡礼者はかなりの数に上るのだという。

 ただし、浮遊大陸から人の住む領域で一番近いのはオクシデントなので、必然的にオクシデントからの巡礼者が殆どとなる。

 例外は、大巡礼として聖地を回る人と、空を飛ぶ職業の人達、それに飛行船を個人で動かせる金持ちくらいだ。


 そしてオレ達の聖地巡礼だけど、神殿の方の受け入れに準備が必要なので、翌日午後にして欲しいとの連絡を受けた。

 そこで『帝国』が用意してくれた迎賓館にまずは泊まり、翌日は船で約束してもらった浴場へ赴き、さらに多少の観光旅行と洒落込む予定を立てた。


 神官の格好をしなければ目立つこともないし、『帝国』が巡礼の際の「雑音」は可能な限り遠ざけてくれるとの事なので、今回のお参り自体はウィンダムの時よりも楽そうだ。

 ただし、『帝国』のご要望には多少は応えないといけないので、その面倒を考えると相殺といったところなのかもしれない。


 そしてその日はもう夕暮れ間際だったので、ヴァイスとライムを飛行場の『帝国』専用の龍舎に預けて、オレ達は迎賓館でのんびりさせてもらう事とした。

 しかも迎賓館には、『帝国』ご自慢の大浴場ほどではないけど立派な浴場があった。そして女子達は空の船旅の間は風呂とは無縁だったので、大層ご満悦だった。


 相変わらずオレは一人湯となるが、こちらは付き添いとって、『帝国』が気を利かせたのであろう召使いの人を断るのが、ちょっとした修羅場だった。

 何しろ、綺麗どころを何人も用意していたし、断ると無礼にも当たるので、ハルカさんの口添えとオレが巡礼中はみさおを立てているという嘘でなんとかクリアすることができた。


 とはいえ、操を立てたという苦し紛れの一言で、その後みんなから色々弄られたのは言うまでもない。


 ホント、変な気を使わせないで欲しいものだ。


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