371 「第三者の告白?(2)」
「び、ビックリした。まだドキドキしてる」
教室に入って玲奈の席までエスコートすると、玲奈はへたり込むように座ると、開口一番そういった。
そんな彼女に、オレは思わず頭を軽く撫でてしまった。
「オレが言うべきだったのに、しっかり言ってくれてマジ有難う」
そうすると、ハッとしたようにオレを見つめ返してくる。
眼鏡越しに大きく開かれた瞳が今にも溢れそうだ。
「そ、そんな事ないよ。私が言われた事だから、私がちゃんと返事しなきゃって思っただけだから」
「だとしても、あの場でしっかり言えたのは凄いと思うよ」
「そ、そうかな?」
そうして顔を赤らめる。
俯いているので表情は判りづらいが、可愛いのは間違いない。
「あのさ、朝からいつまでイチャイチャしてるの?」
油断してた。
ここは教室のど真ん中だ。しかも目の悪い玲奈は前の方の席なので、ほぼ全員の注目を集めてる。
そして軽く周囲を見た後で声の主へと顔を向けると、声をかけてきたのは玲奈のグループのリーダー格の伊藤だ。
ニヤニヤと嬉しそうに笑みを浮かべてる。
「まあ、廊下で何かあったみたいだけど、そのせい?」
「そんな感じ」
「あっそ。ま、程々にね」
オレの素っ気ない返答に同じく素っ気ない返事と、恐らくアドバイスを短くだけど添えてくれた。笑みも消えて、表情もほぼ真面目だ。
こう言う陽キャなアドバイスは、隠キャのオレとしては有り難く受けないといけないだろう。
「うん。サンキュ。それじゃ」
そう言って今度は自分の席へと向かうも、その途中クラス男子の陽キャグループに捕まってしまった。
軽く小突かれ、軽くジョークを言われる程度だけど、オレとしては誤魔化し笑いくらいしか返せない。
ただ擦れ違いざまの耳元に、男子グループのリーダー格の近藤から「大沢先輩、気をつけとけ。あの人根に持つから」と小声で忠告があった。
それに小さく頷いて席へと着くが、その日は玲奈を出来る限りエスコートするも特に何もなかった。
それより今日は、文芸部でオレの講演会がある日だ。
そして予想に反して、鈴木副部長は静かだった。
カミングアウトもしてないらしい。
(まあ、前兆夢で弾かれたら恥ずかしいし、出現してから話すんだろ)と思いつつ他に視線を向けると、タクミと視線が合う。
そしてオレから側に行って、グータッチを交わす。
「朝、大変だったな」
「まあな。それと援護射撃サンキュ」
「なんだ、聞こえてたのか」
「あの先輩に聞こえるように言ってたんだろ」
「まあね。それよりアレ何?」
そう言って今度は、オレと一緒にタクミの側に来てた玲奈に顔を向ける。
「う、うん。話があるって大沢先輩に今朝下駄箱で声をかけられて、何も話さずにそのまま階段の屋上まで行って、あとは多分見てた通り」
「そっか。ボクが、もう少し早く気付けてたら、取り敢えずは未遂で済んでたのか。で、遅れたナイトは何してた?」
「普通に登校して玲奈を見かけたってタイミング」
「じゃあバラバラ登校だったのか。なあ?」
「うん。分かってる。なあ玲奈、しばらくで良いから、朝はどっちかの駅で待ち合わせしないか?」
「え? えっ?」
オレとタクミは同じ回答に既に辿り着いていたが、玲奈はそうじゃなかったらしい。
「大沢って先輩、クラスの男子が言うには根に持つタイプらしいんだ。これ以上告ってくるとかはないだろうけど、何かあってからじゃ遅いから」
「なんだ、あの先輩の事知ってたんだ」
「タクミこそ」
「ボクの情報網は、ショウより広いからね。それに、ボクも出来る限りは協力するよ」
「助かる」
「あ、あの、話が先に進みすぎてるよ」
玲奈がたまらず声を挟んでくる。
何か問題があるんだろうかと一瞬思ったが、確かに玲奈の了解はまだだった。
「ダメか?」
「ダメじゃないけど、その、良いの?」
「良いに決まってるだろ。で、どうしよう?」
「えっと、じゃあ、私の方が一つ手前になるから、私がショウ君の方の駅に一度降りようか?」
「それは面倒だろ。基本の電車の時間と車両を決めといて、あとはその日の朝連絡取りながら登校しよう。それでもダメな時だけ、一度ホームに降りてくれないか?」
「じゃ、じゃあ、それで」
「その連絡、ボクにも回してくれ」
「じゃあ、このグループで連絡回すよ」
「それが無難だな」
「で、なんか知らんが、そっちの話は済んだか? そろそろ始めて欲しいんだが?」
鈴木副部長からお小言をもらってしまった。
そして講演会の間は大人しかった鈴木副部長だけど、帰る間際に首根っこを掴まれて、みんなには打ち合わせだと言ってしばし拉致られてしまう。
玲奈と一緒に帰る約束があると言って逃げ出さないと、延々と抑えていたぶん吹き出たような高いテンションな鈴木副部長の話に付き合わされるところだった。
とはいえ、鈴木副部長が『夢』の向こうに出現するのは三週間も先。しかもオレ達はノヴァからは遠く離れているので、こうしてオレが相談を受ける以外に変化はないだろう。
そしてこれで一日の予定を消化出来ていれば良かったのだけど、バイト先で急の休みが出たので夕方遅めからだけど臨時で入る羽目になった。
タクミも同様に動員されていて、しかもキッチンじゃなくてフロアのサポートに入っていた。
「ウーっ、疲れた」
「まだ週半ばなのに、なに疲れきってんだよ」
リビングで下手っているオレにそうのたまうのは、風呂を済ませたばかりの悠里だ。
まだ暑い季節の風呂上がりとはいえ、相変わらず節度について問いたくなる格好をしている。
「別に良いんだよ。起きたら元気になってるだろうし、ストレスは向こうで発散するから」
「そんなの聞いてないっての。それと、部屋以外で向こうの事で私に話しかけんな!」
それだけオレの耳元近くの小声で叫ぶと、妹様はオレとは違うソファーに腰掛け、そしてオレが見ていた番組を変更した。





