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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第五部 『帝国』編

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370 「第三者の告白?(1)」

 『夢』から目覚めると、いつもの天井、いつもの部屋。

 普通に寝て起きた時と同じように、オレの部屋の中で普通に目覚める。


 『夢』以外に何の接点もないので、本当に異世界に一日置きに行っているのか、それともやたらと明瞭な夢を見ているだけのか疑問に感じる事すらある。


 けどその『夢』は、違う場所にいる複数の人が同じ場所で同じ体験をする事ができる。

 その事は間違いなく、オレ自身は『夢』の向こう側はもう一つの現実だと強く感じている。


 一方で、数日前のシズさんの引越しを手伝うというちょっとした事件はあったけど、現実は平凡な日常が続いている。

 そして起きると、日課の『夢』の記録をすぐにも始める。

 このおかげで机に向かう事が多くなったし、何より早起きするようにもなった。


 そして記録するのに手馴れてくると、早起きした分だけ朝にゆとりが生まれたので、時間がある時はジョギングやちょっとした筋トレなどをするようにもなっていた。

 何だか、少しだけ「意識高い系」な気がしないでもないけど、『夢』の自分に比べて現実の自分が頼りなく感じたからで、自然とトレーニングをするようになっていた。


 なお、一週間の基本的な放課後スケジュールは、月、水が部活、火、木がシズさんの家庭教師、そして金土日がバイトもしくは土日の片方が完全オフだ。

 そして今週は祝日もないので、このスケジュールで動いている。


 ただ今日は、いつもと少し違っていた。

 文芸部の鈴木副部長から、朝直接電話があった。

 名指しはオレのアナザー講演会が始まってから何度かあったので、特に気にせずに応答する。


「お……」


「月待! 俺もエントリーだっ!!」


 オレが挨拶をしようとする間も無く、スマホの向こうで絶叫があった。

 何だかデジャブを感じるが、エントリーの言葉が何を現しているのかは明らかだ。


「お……おめでとうございます。獲物は何ですか?」


「れ、冷静だな。というか、聞く事はいきなりそれか?」


「まあ、喜びの言葉を延々と聞くより建設的かな、と」


「ま、まあ、そうなんだが、もう少し喜ばせてくれてもいいだろ」


 何だか理不尽を感じなくもない返答だけど、オレとしては内心また面倒が増えたなあ、という程度だ。


「それはみんなの前で言って下さい。それと多分ですけど、ノヴァでの戦争でドロップアウトがかなり出たっぽいから、緊急召喚の可能性が高いと思います。あと、出現先はノヴァかノヴァの近くでしょうね」


「流石よく知ってるな。連絡して良かった。それで他には?」


 喜びたいと言いつつも、副部長は意外に冷静だ。

 タクミより扱いやすくて助かる。


「そうですね、緊急召喚での前兆夢は期間が短いらしくて、早いと1週間、最大でも3週間くらいです」


「なるほど。それで確か、前兆夢は出来るだけ粘った方が良いんだよな」


「はい。技術や魔法が増えやすいみたいですし、もしかしたらユニークにも関わっているかもしれません」


「ユニークかぁ。欲しいなぁ」


「まあ、適正か運って説も強いんで、期待しない方がいいかもしれませんけどね。それで獲物は?」


「長モノだった」


「長モノ? 槍ですか?」


「槍に斧か何かが付いてた。多分ハルバードとかの類だと思う」


 ファンタジーに造詣が深い副部長らしい分析だ。

 こっちも手間が省けて助かる。


「なら戦士職ですね。魔法の属性はゼロか1つと思います」


「魔法は、まだ分からなんな」


「魔法職曰く、属性3つは初期装備がスタッフとかロッドで、最初から魔法が使えるのが分かるそうですよ。だから、副部長は戦士系の職で間違いないと思います」


「なるほど。で、起きてる間にする事は?」


「いや、特には。取り敢えず、前兆夢の戦闘とかでビビらない事。ビビり過ぎると弾かれて終わりです」


「分かった。気合い入れていく。それと、また個別に相談に乗ってくれな」


「了解です。じゃあ、失礼します」


「ああ、また部室でな」


 朝から騒がしいが、鈴木副部長はタクミより冷静なのでちょっと助かった。

 けどこれで、側にいれば召喚されやすいという説が、さらに強まってしまった。

 噂を聞きつけて、さらに人が押しかけなければいいのにと思いつつ登校していると、教室に入る前の階段で玲奈を見かけた。


 オレのクラスが入っている主校舎の一つは4階建て。

 2階が3年、3階が2年、4階が1年で、屋上はあるけど普段は鍵が閉められていて使えない。

 けど、その屋上に向かう登り階段の踊り場に玲奈が居た。しかも見えにくい場所だったので、気になって少し覗き込むとさらにその奥に男の影。

 自然と足がそちらに向かい、階段を半ばまで登った辺りで話し声も明瞭に聞こえるようになる。


「あの、お話ってなんですか?」


 何の用か本気で分かってない声だ。

 小首すら傾げている。

 多分正面からだと、かなり可愛く見えている筈だ。


「あのさ、俺と付き合わないか? 2学期に入ってから、気になってたんだ」


「えっ? ええっ?!」


「声デカイって。それで?」


「ちょっといいですか?」


 思わず声を挟んでしまったけど、タクミにも誓ったし、ここはナイトとしての務めを果たすべき時だ。

 それにオレは彼氏だ。


「なんだ一年坊主? 空気読めよ」


 少し睨み合うけど、向こうでの経験のせいか、以前と違ってなんとも感じない。

 だからさらに数歩踏み込みつつ、言うべき事を言う。


「玲奈はオレの彼女なんですが」


 見れば相手は2年生だった。うちの高校は、ネクタイが年ごとに変わるので分かりやすい。

 とはいえ、顔も名前も知らない先輩だ。

 一見ガタイ大きめなアスリート系だけど、アクセサリーなどチャラい空気がそこかしこから漏れ出している。

 大方、見違えた玲奈を見かけて、たまらず告りに態々1年の階まで追いかけてきたと言ったところだろう。


「そうなのか?」


 そのチャラい先輩は、オレにではなく玲奈に顔を向ける。

 その表情は疑念に溢れている。

 その上、少し強めの表情だ。

 その顔には書いてある「俺に恥かかせんなよ」と。


 それもその筈で、玲奈がびっくりしてオクターブの高い大きな声を上げてしまったので、登校途中の一年生のギャラリーがかなり足を止めていた。

 興味本位で階段を少し登って来る者までいる。しかも続々と人が集まり始めている。

 一気に晒し者状態だから、ここで自分に都合の良い言葉を言わせたいのだろう。

 けれども、周りの空気はオレに優位だった。


 「何?」「イジメ?」「喧嘩?」「修羅場か?」「確か、あいつら付き合ってるよな」「じゃあ、あの2年生が割り込んだ、みたいな?」「なんだ、あの2年生、空気読めない奴?」「プッ!」「格好悪うぅ」


 俄かに出来たギャラリーからは、そんな声も聞こえてくる。

 どうやら、オレと玲奈が付き合っているという話は、1年の少なくともこの校舎で相応に知れ渡っているらしい。

 それはそれで恥ずかしいけど、今回は助かった。


 ただ野次馬の声の中に、明らかに聞き覚えのある声があった。

 間違いなくタクミの声で、しかも目立つ感じでお呼びじゃない2年生をディスっている。

 これでは2年生は、いい晒し者だ。


 流石のチャラ男も、この状況はまずいと感じたらしく、返事も聞かず「は、話は改めて」と言って、急ぎ立ち去ろうとする。

 けど、玲奈の方が一枚上手だった。


「待ってください。私、あの人と付き合っています。だから大沢先輩とはお付き合い出来ません。御免なさい」


 どもったりも噛んだりもせず、ちゃんと目を向けて話しかけるのは、玲奈としては大きな進歩だ。

 しかもその言葉を受けて、玲奈がこっちに歩いきて、「行こう」とオレを誘って二人してその場を離れる。

 オレを連れて行く時に手を取る事までしたのは、大沢とかいう2年生に見せるためだろう。


(立派になって)


 と内心思いそうになるほどの、成長ぶりだ。

 ただオレの手を握る彼女の手は、熱いくらいに火照っていたし、小刻みに震えてすらいた。顔も少し紅潮している。

 だからオレは、励ます意味を込めて少しだけ強めに握り返す。


 そして最後に、チラッと大沢なる2年生のチャラ男を見ると、晒し者でめっちゃ恥ずかしそうにしつつも、こっちをスッゲー目で睨みつけてきていた。

 自業自得だろとしか思わないけど、しばらくは玲奈の側にできるだけ居た方が良いのではと思える程だ。


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