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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第4部

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363「友の死(1)」

「キャッ!」

「シズ様っ!」

「クッ!」

「タクミンっ!」


 まさに、オレが最後の一撃を叩き付け『魔女の亡霊』の成れの果ての本体を切裂いた時、連続した悲鳴が後ろから飛び込んで来た。

 そしてその間に、色々な何かと何かがぶつかる音も連続して響いたけど、最後の音は聞きたくない音だった。

 聞き間違えでなければ、誰かが大きく負傷する時の音だからだ。

 何しろ、自分自身の体で何度も聞いてきた音だ。


 そしてオレ達が『魔女』の成れの果てを切り捨てた時、「バ・カ・ナ……」と消えつつも呟いて消滅していった。

 そしてその言葉も、オレの目の前からではなく後ろから聞こえた。


 『魔女』の成れの果ては自分人身の本体を囮にし、シズさんを乗っ取るなり行う為の攻撃を、シズさんに向けて放っていたのだ。

 最後にオレの脇を抜けていった太い塊が、それだったらしい。


 その様は前衛からはよく見えてなかったが、後衛にとっても一瞬の出来事だった。

 だからこっちに言葉で知らせる余裕もなく、咄嗟でハルカさん、アイの順番で身を挺して阻止を試みるも、一番前に出たハルカさんは防御全開で楯をかざすも、盛大に弾かれて壁に派手な音を立ててた叩き付けられた。


 マンガやアニメなどの創作物のように、当人は無事だけど後ろの石の壁に亀裂が盛大に入って破壊されるという情景は、この異世界でもなかなか見られるものではないだろう。

 ソニックボムの衝撃波を受けた地龍だって、地面にペシャンコになっていた。

 どれほど頑丈な生き物でも、普通ならミンチかジャムかせんべいになっているような程の衝撃を受けた筈だ。


 つまりハルカさんが受けた打撃はそれだけ強く、さらにハルカさんの防御は石の壁よりずっと頑丈ということだ。

 しかも防御全開状態なので、強く弾かれた程度ではハルカさんの防御自体に問題はなかった。


 それでもオレが見た時には、立ち上がって顔を上げたときその額から血を流していた。

 以前よりも、かなり強くなっている筈のハルカさんが怪我をしたのを見るのは久しぶりだ。

 後で聞いたが、『防殻』の中の当人も激しく振り回されて、自分で構築していた『防殻』に頭をぶつけたらしい。


 一方で、二番目に阻止を試みたアイの方が状態は酷かった。

 外装の鎧の半分近くが破壊されて、体の形の維持が一部出来なくなっていた。

 崩れながらも、シズさんの元に半ば地面を這いながら近寄る姿が痛々しい。


 そして誰かに突き飛ばされ尻餅をついた状態のシズさんの数メートル横、本来ならシズさんが立っていた場所に、なぜかタクミが血まみれで倒れていた。

 しかもタクミの前後、特に後ろは、赤い絵の具をぶちまけたようになっている。

 オレとしては一番意外な情景なので、一瞬事態が飲み込めなかった。


 「タクミンっ!」と叫んだのは、シズさんより少し前で弓を射かけ続けていたボクっ娘だ。

 咄嗟に接近中の『魔女』の成れの果ての本体を射撃していたけど、殆ど効果は無かったそうだ。

 そしてボクっ娘は、砲弾のような魔力の塊の真ん中に、紛い物の本当の中枢と思われる球形状の魔力の塊を見たという。



「済まない! オレが対処していれば」


「ショウは悪くないよ。あれに対応できたら、それこそ神速とかだよ」


「けど」


 そこで言葉に詰まるも、そこでオレはタクミの姿を認めた時点で駆け寄っていた。これで敵がまだ生きていたら、無防備な背中を見せたオレがやられていたところだ。

 オレの無警戒をよそに、アクセルさんはちゃんと警戒を怠っていなかったそうだけど、それが戦場での正しい姿だ。

 オレに答えたレナも、周囲の警戒は怠っていなかった。


 けどこの時のオレは、心に不意打ちを受けた状態でそんな事も頭から抜け落ちていた。


「どうしてタクミが?」


「タクミンだけじゃないよ」


 少し遅れて近づいて来たボクっ娘の言う通り、城門の方からは今も続々と『ダブル』がやって来ている。

 見ればジョージさん達もいる。

 つまりタクミは、増援の中でも最初に堀を渡って来た一人で、さらにその中の誰よりも先にシズさんの危機に駆けつけたということだ。


 後で聞いたが、王宮の崩壊でジョージさん達が援護を決意したが、まだ火災が収まっていないので耐火魔法と防御魔法をかけてから王宮内に入ったので、このタイミングになったとの事だった。


 そしてこっちに突撃して来ようとしたのであろうジョージさん達が、ダッシュ直前の姿で固まっていた。

 そしてジョージさんをそうさせたほど、タクミの動きは速かったということだ。

 火事場の馬鹿力的なものなのだろうけど、こんなところでお話の中のキャラみたいに覚醒したような動きを見せなくてもと、埒もないことを思いそうになる。


 そして『ダブル』のみんなが来つつある事、そして彼らがそれ以上動いていないことから、もう大丈夫なのだろうとようやく判断に行き着いた。

 変な魔力の気配も、もう感じられない。

 念のため振り向くと、目の合ったアクセルさんが小さく頷く。

 それで安心して、タクミの側にしゃがみ込んだ。


「オレの見てないところで活躍してんじゃねーよ」


「ボクの一世一代の活躍見てないとか、ってショウもボコボコだな」


 オレが抱え込んだタクミが、オレの姿を見て力なく笑う。ダメージが大きすぎて、痛みを感じないのに体に力が入らなくなっているのだ。

 体に開いた穴は、恐らく心臓かその近くの大動脈を直撃したと思われ、手拭いで押さえつけたくらいで、血は止まりそうもない。貫かれた場所を考えたら、背骨もやられている筈だ。

 それに、何となく察する事ができた。

 こっちでの生死を賭けた毎日のせいで、タクミのこっちでの体から命がこぼれ落ちようとしているのだと。


「タクミほどじゃないよ。それで?」


 オレが視線を向けたハルカさんが、静かに首を横に振る。

 内臓の傷でも、すぐに治せば多少の致命傷でも治せるとハルカさんは言っていたが、それを通り超えているという事だ。

 最初から何も治癒をしない時点で、彼女には分かっていたのだ。


 そんなやりとりを、タクミがぼんやりと見返す。


「そっか、ドロップアウトか。けど、痛みがないって本当なんだな。体にデカイ風穴空いてるのに、全然現実感ないよ」


「それが『ダブル』のいいところだからな」


 タクミがそこまで言ったところで、タクミを挟んで反対側にもう一人しゃがみ込み、そしてその手をタクミの頬に当てた。

 シズさんだ。


「ありがとう。タクミ君は私の命の恩人だ。庇ってくれなければ、『魔女』の成れの果てに殺されているか、体を乗っ取られていたところだった」


「じゃあこれで、ショウには並びましたか?」


「ああ。一気に追い抜いたよ」


 そう言うと、タクミの顔にさらに自らの顔を近づけ、そして口を耳元に持っていく。

 そしてオレにももう少し近寄れと、他から見えないように手で小さくゼスチャーする。

 何となく察しは付いた。


 そこでオレは、一瞬だけクロに視線を向けると、クロも頷いて静かに近づいて来た。

 当然だけど、タクミの体を再生、いや新たに創造するためだ。


「タクミ君、私がこちらで一度肉体が滅びて、この姿で蘇った話はしたな。賭けになるが、タクミ君にも同じチャンスがあると思うんだが」


 その言葉に、クロがゆっくりと頷く。

 しかし、目線だけシズさんに向けていたタクミが、しばらく目を閉じて考え、そして静かに横に振る。

 そしてここでも、周りの状況、空気を読んで小さな声で返す。けど読んだのは、それだけじゃないようだった。


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