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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第4部

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355「こう着状態(2)」

 シズさんが言葉を切った後を、ハルカさんが付け足す。そしてその重い言葉に、しばらくは誰も次の言葉を言い出せない。

 そこに最初に切り込んでいったのは、やはりアクセルさんだった。


「推論は分かったよ。それで、何をするべきだと考える?」


「化け物を引きつけている間に、別働隊で装置を壊す。もしくはこの城は包囲するに止めて、供給源を断つ。そのどちらかだ」


 つまり取るべき対策も二つという事だ。

 そしてアクセルさんが、何かを決めた表情で口を開く。


「現状では、シズさんの話は推論の域は出ていないけど、供給源が分からない以上、装置を壊すしかなさそうだね」


「なら、作戦としては、もう一度少数精鋭で中に突入し、まずは中の亡者を叩く。それでダメなら魔導器を探す。大きい筈だから、見つけやすい筈だ。そしてあの死霊術師を最後に叩く」


「順序はそれでいいだろうね。でも夜に強大な亡者の相手は危険だ。となると、時間は限られているから、今すぐにでも突入しないといけない」


 そう言ってアクセルさんが周囲を見渡す。誰も否定的な顔はない。オレもそうだ。

 代表してマリアさんが言葉にした。


「今度は私達も大丈夫、だと思う。それに『ギルド』のベテランなら靄も大丈夫でしょうから、ここに居る面子で中の亡者の掃討はできると思うわ」


 その言葉に続いて、ジョージさん達がいつもの様に加えていく。


「戦力分散は避けたいですね。一番の戦力のハルカさん達が親玉を抑えるとしても、町の外と違って飛龍も巨鷲も使えないですし」


「亡者の数は多いと考えるのが自然だ。一人でも多い方がいいだろう」


「問題は、あのネロとかいう亡者化している死霊術師だな。何人かで行動を抑えている間に、供給源を潰すか?」


「ギルドも合わせて20人ほど。短時間で多数の亡者を潰すとなると、他に手は回らないでしょうね」


 最後のマリアの言葉に、他の人達もそれが無難と言いたげだけど、決断は付きかねている。町の外の戦闘ではないが、またしても詰んでしまった。

 相手の持ち駒がいつも以上に分からないので、動くに動けないのはもどかしい。


 「昨日みたいに、誰か助けに来てくれればいいのに」と、少し離れた場所にいた悠里が誰に言うとも無く愚痴るが、誰もが同じ気持ちだった。

 しかし昨日はアクセルさんが居たが、アースガルズの本軍が来るのはもう少し先だ。

 誰かが溜息をついたが、その溜息は無理をするしか無いかという諦めに似た溜息だっただろう。


 そしてアクセルさんが、次の命令を出そうとした時だった。



「伝令! 伝令! 指揮官は何処に!」


 蹄が浮遊石と同じ能力を持つ空を飛べる天馬に乗る目立つ印を付けた兵士が、町を突っ切ってこちらに駆けてきた。

 誰もが朗報ならと思ったけど、伝令の兵士の雰囲気はとても朗報には思えなかった。


 そしてその伝令がアクセルさんを見つけると、馬を近くにまで寄せて慌てる様に降りて片膝を付く。


「伝令。ヴァーリ傭兵団を追跡中の第二中隊隊長より先遣隊指揮官マルムスティーン男爵へ。我、ヴァーリ傭兵団を発見せり。同傭兵団は、別の一団に包囲され交戦中。別の一団は亡者の大群なり。同傭兵団は、あと四半日は持たないと推察される。我、命令あるまで安全圏にて監視続行中。指示を請う。尚、高い魔力を持つ『帝国』兵装束の亡者を確認せり。以上です」


 紙を挟んだノートパッドくらいの薄い板に書かれた報告を伝令が言い切った。

 そして本来なら悲報に近い報告なのだけど、オレ達の雰囲気は変わっていた。


「これは、逃げ出した屑傭兵団に感謝しないといけないかもな」


 思わず出たオレの言葉に、みんなが苦笑した。

 オレ達が倒した団長共々悪名高い傭兵団だから、亡者に襲われて同情する雰囲気は無い。ざまあ見ろとまでは思わないが、精々が因果応報くらいにしか思っていない。


「私の推論の答え合わせになるかどうか分からないが」


「ああ、まずは危険度の低い順に対処していこう。これで靄が晴れるなら、それに越した事は無い」


 シズさんの言葉を、威勢良くジョージさんが継ぐ。

 そして問題はその次だ。


「誰が向かう?」


「我らが向かおう」


 シズさんの質問に対して応じたのは、『帝国』の飛行船と調査隊の指揮官という形で来ていた騎龍将軍オニール・ゴードさんだ。

 伝令が戻ったという話を聞きつけて、直接話を聞きに来たのだろう。


 彼の後ろには、2人の龍騎士や兵士が数名付いて来ていたけど、彼らの雰囲気から見て本来は間接的に話を聞くべき立場なのだろうが、かなり焦れていたのかもしれない。


「ゴード将軍が動いて下さるのでしたら、これほど心強い事はありません。しかし、ヴァーリ傭兵団は最低でも300名を数え、中には相応の腕利きもいます。それを包囲出来る亡者の群れを相手にするとなると、相応の戦力が必要でしょう」


 アクセルさんの言葉に、ゴード将軍が強く頷く。


「無論承知している。『冒険者』の方々には、契約通りご助力をお願いしたい」


「心得ているわ」


「ボクらも行くよ」


「ライムと一緒に戦えるもんね」


 マリアさんに続いて、さらにボクっ娘と悠里が名乗りを上げた。確かに、すぐに遠距離を叩きに行くなら、空の戦力は必要不可欠だろう。

 となるとオレ達も行くのだろうかと思ったが、シズさんの表情は違うと言っていた。


「残りは城を包囲。特に城門前は我々が残ろう。向こうもこちらの魔力を、ある程度は魔法でも察知できる筈だ。ここを蛻の殻には出来ない」


「そうよね。レナ、ユーリちゃん、頼まれてくれる」


「夕方までには全滅させて戻るね」


「傭兵だろうと亡者だろうと、ライムのブレスで瞬殺してきますよ!」


「お願いできるかな。でも、くれぐれも無茶はしないでね」


「ハイっ、アクセルさん! 任せてくださいっ!!」


 やり取りを見つつ(アクセルさん、悠里を張り切りさせすぎですよ)と思っていると、ジョージさん達がボクっ娘と交渉を始めていた。

 すぐに駆けつける為に、背に乗せてくれないかと言う事だ。


 ただ、一度乗ってみたいという感情がそこかしこに溢れていて、見ているこっちは苦笑しか出てこない。

 まあ、ジョージさん達なら安心して任せられるし、むしろ願ったり叶ったりなので、ボクっ娘も快諾している。


「レナと悠里を頼みますね」


「おうっ、任せとけ兄弟!」


「お荷物にならないようにするよ」


 ジョージさんは、もはや人気アトラクションを前にした子供の表情で、それを見たレンさんまでが苦笑気味だ。


「弓手は大歓迎だよ」


「俺も投げ槍くらい使えるぞ」


「じゃあ、どっちもヴァイスに乗って」


 そう言って忙しげに手招きする。

 別の方では、悠里がライムの背から身を乗り出している。


「魔法組はライムの背にどうぞ。一緒に空から爆撃しましょう!」


「ハルカ達じゃないのに無理無理。運んでくれるだけで十分よ」


「ですよね。お願いしますユーリさん」


 別の場所では、アクセルさんとゴード将軍が話している。

 聞けば飛行船だけじゃなくて、載せて来た2騎の竜騎兵も出撃させて、ボクっ娘と悠里と供に先遣隊とするらしい。

 ボクっ娘のせいでオレの中での評価は今ひとつだけど、『帝国』の竜騎兵といえばオクシデント随一の強さを誇るので、まずは安心していい戦力だ。


 オレ達は話が終わるまで待って、立ち去る間際にゴード将軍に「頼みます」と深めにお辞儀をした。


 そうするとゴード将軍は「お任せあれ。私には、この後皆さんを帝国に案内する仕事もあるので、手早く済ませて来るとしよう」と、将軍としては冗談に近い言葉を残して出発して行った。

 いや、もしかしてゴード将軍は、普通に冗談好きな人なのかもしれない。

 ちょっと分かりにくいけど。


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