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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第4部

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354「こう着状態(1)」

「目についたヤツは倒しきったけど、変わらないなあ」

「もう半分崩れてるし、城ごと燃やしてもいいんじゃないのか」

「だよな。エロ狐に頼めば一発だろ」

「この国、もう滅びたも同然だしな」


 城の堀の外側で、ベテランの『ダブル』達が口々に言い合っている。

 そして『ダブル』達がだべっているように、状況はこう着状態だ。


 王宮につながる落ちた跳ね橋辺りで不健康な顔を並べていたアンデッドの皆さんは、一体残らず魔法か魔力の籠った矢、投石などで倒されていた。

 かなり強いとされる死霊騎士でも、接近戦をしなければただの的だ。


 今倒したのは、元はこの国の騎士、役人、使用人、さらに神殿騎士などなど分け隔てなく、合わせて50体以上。

 最初の王宮への突入の時の戦闘とシズさんの魔法を加えれば、優に200体以上を倒している筈だ。

 しかもその前に、最初に澱んだ魔力のもやに覆われていた町の区画にいたアンデッドも数百体倒している。


 にも関わらず、王宮を覆う澱んだ魔力の靄はまだ残っている。かなり縮小したけど、中心となっている王宮を覆う靄に多少晴れた程度だ。

 そしてこれが吹き払われない限り、王宮内へ突入は危険だった。

 神殿騎士達がアンデッドとなったのは、あの死霊術師の言う事が正しければ、倒した亡者の魔力を間近で浴びたのに加えて、この靄の中で長時間過ごしたからだ。


 シズさんとハルカさんの推測では、短時間に大量の魔力を浴びて魔人になってしまう状況を、死霊術の魔法で亡者に変化させるのではないかとの事だった。

 そして魔力総量の多い者は、自身の魔力が多い事そのものと、大量の魔力のある場所に対して耐性が強いので、短時間なら平気なのだろうというのが推測上での回答だ。


 この国の騎士やここに駆けつけた神殿騎士は、せいぜいBランクだった筈だし、その説には一定の説得力がある。

 そしてオレ達は、多少不快に感じたくらいで何ともなかった。悪影響や後遺症も見られない。

 ここから考えて、やはり魔力総量の多い者には効果は薄いと推測できる。




「考えられる可能性は二つだ」


 『ダブル』の冒険者達のたむろする場所から少し離れた場所で、作戦会議と言うより対策会議が行われていた。

 そしてそこで、色々とハルカさんと推論を重ねたシズさんの言葉が響く。


「人を亡者に変じるとヤツが言う魔力の靄、もしくは瘴気が晴れないのは、あの中に我々が察知していない大量の亡者がいるか、別の魔力の供給源があるかだ」


「別の供給源があるとなるとお手上げだね。それでその推論の根拠は?」


 シズさんの断定に近い推論にアクセルさんが言葉の呼び水を注ぐ。それにシズさんが小さく頷く。


「3ヶ月前のウルズでの『魔女の亡霊』だ」


 強く言ってから一旦言葉を切り、さらに話を続ける。


「あれは、特殊な魔導器から無限とも言える魔力を供給されていた。そしてあの魔導器は、その前に戦乱で大量に発生した澱んだ魔力を、一旦は吸収していたのではないかと考えられる。

 だからこそ、あれだけ『魔女の亡霊』に魔力を供給できたんじゃないだろうか、と」


「で、今の状況が似てるのよね」


 ハルカさんの言葉は、納得したという言葉ではない。

 昨日の夜から二人でちょくちょく話し合っていたので、思わず口に出てしまっただけだろう。


「そうだ。だが、ここはウルズほど酷い状況じゃない。それに対処もかなり早かった筈だ」


「けど、ウルズの時は、あんな靄は無かったですよ」


「その代わり、ウルズの大きな地下遺跡は酷い魔力だったわ。我ながら、よく平気だったと思うほどよ」


「私は短時間でも酔いそうだったわ」


「ウルズの件は今はいいでしょう。それで?」


 マリアさんまで加わったオレ達の会話が脱線しそうになったので、アクセルさんが修正する。


 なお、話し合いに年少組は加わっていない。

 少し離れて聞いているけど、最初からお手上げゼスチャーをされた。オレもそうしたかったが、視線で首根っこを掴まれた感じで参加している。


 また、マリアさん達4人のうちマリアさんも加わっているけど、これは冒険者ギルド代表としてであり、また『帝国』からの委託を受けているからだ。

 しかし、その『帝国』の指揮官のランドーさんは、『帝国』兵の亡者が確認されていないという事で会議には参加していない。


「ウルズの状況と似ているなら、やはり魔力の多い者はあの中での耐性が強いと見るべきだ。しかし解せない点もある。

 別の供給源は、魔導器などではなく、別に亡者の群れがいるんじゃないだろうか? 『帝国』兵の亡者もまだ見つかっていないだろ」


「確かに」


 ここでハルカさん以外の全員が頷く。

 『帝国』兵だけなら、この奥にまだ潜んでいる可能性もあるけど、『帝国』兵が別働隊の亡者の群れを連れ回しているというのは、混乱したランバルトの現状を考えると十分にあり得る。

 現にオレ達も、一週間程前にタクミが亡者の群れに襲撃されているのに出くわした。

 けど別の疑問もある。アクセルさんが小さく挙手する。


「しかし、今の我々が感じ取れないほどの遠方から、魔力を供給するなど出来る事でしょうか」


「大規模な装置なら、周囲から魔力を集める事は十分可能だ。ハーケンの浮島の姿勢制御室に、似たような装置がある」


「そうよね。けど、その手があって別働隊がいるなら、昨日あの死霊術師が力を失って逃げ出したのは、少し解せないのよね。町の中の亡者の魔力も利用出来なかったわけだし」


「これもハーケンで暴走した魔導器からの推測だが、王宮内に本体と言える装置が設置されていて、そこから補機や端末への魔力供給は一定距離以上離れても使える。だが、限定条件でしか使えないという可能性が高いんじゃないだろうか」


 そこでシズさんは一旦言葉を切って、「それに」と言葉を続ける。


「それに王宮の方は、ここから魔法で調べた限りでは、大量の魔力の供給源となる魔物や亡者、魔導器はないと推測できる」


「大量の魔力は隠せるものでもないものね」


 ハルカさんの言葉にシズさんが答えるが、どうしても推論や推測の域を出ないけど、最後のマリアさんの言葉はこの世界共通の常識だ。

 だからこそ、シズさんも色々と推測をしているわけだ。

 それにハーケンでの話は、オレ達にとって納得もし易い。

 でも、一つ疑問がある。


「少し話を戻しますけど、王宮内に『我々が察知していない大量の亡者』の可能性は低いって事でいいんですか?」


「そうだ。今マリアさんが言ったように、大量の魔力はパッと見程度は誤魔化せても隠せはしない。

 皆が持つこの魔力を抑える指輪も、放射を抑えているだけで、魔法で調べられたら簡単に分かってしまう。ましてや、大量の亡者や強大な魔導器の魔力は、調べればすぐに分かる」


「つまり、答えは実質一つなんですね」


「ああ。ヤツは王宮の何処かに何かを設置していて、外部から魔力の供給を受けている。そしてあそこに居座っている限り、供給元を断たない限り倒せない、これが私がハルカと一緒に考えた推論だ」


「問題は、ヤツが供給源にしている亡者の集団が、どこにどれだけ居るかって事ね」


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