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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第4部

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232/402

350「突入開始(1)」

「ライム、いっちゃえー!」


 悠里の号令で、目の前に靄が迫る大通りに陣取ったライムが、悠里が手にしている大量の魔石から魔力を供給された電撃咆哮ライトニングブレスを、最大威力以上で放射する。


 今回の第一撃であり、景気付けの号砲だ。


 けど、澱んだ魔力のもやの向こうに魔物もしくはアンデッドの気配を沢山感じたので、ガチで倒すための一撃でもある。


 そして大量の魔石を用いた雷撃のブレスの威力は、上位龍にすら匹敵する一撃となった。

 放射する場所は、小さな町とはいえ街の中央を貫く大通りなので、道幅は10メートルほどある。

 この国の人の話では、発射地点から真っ直ぐ入り江沿いにある王宮まで約70メートル。王宮の正門前の堀まで通じている。


 そしてブレスの最大投射距離もほぼ同じなので、正門前まで電撃咆哮ライトニングブレスが通った。

 さらに言えば、黒い靄は直径150メートルほどの半球形に覆われていて、王宮正門がちょうど中心辺りになる。


 電撃咆哮ライトニングブレスは、大通りとその周辺の目の前の靄のかなりを吹き飛ばすと、そのまま道いっぱいに直進し、さらには横道、路地などへも伸びていく。

 放電の圧力で、弱い造りの屋根とか看板とか、小さな小屋などが破壊される様子も見える。

 熱で火事にならないか心配になるほどだ。


 靄の中は薄暗いが、放電による派手な発光で情景もよく見えた。

 そして道には、亡者アンデッドが犇めいていた。しかもゾンビ中心なので、見た目の不気味さは強烈だ。

 大通りのやつは大半吹き飛ばすかそのまま倒したというのに、遠目に見ただけでドン引きの人も一人や二人ではない。


 そしてゾンビの出で立ちだけど、夜に靄が襲ったというだけあって、多くが寝巻き状態だ。

 魔力量的には死霊騎士クラスの亡者もいるが、殆どが武装してないので迫力に欠けている。

 丸腰の死霊騎士とか、何かの悪い冗談としか思えない。


「うへー、凄い数。ソニックバスターが使えればいいのに」


「人が住んでる場所で使うのは禁忌なんだろ。それより遠距離攻撃よろしく!」


「今日のボクはオマケみたいなもんだけどね」


「第一陣掛かれ!」


 ボクっ娘との緊張をほぐすための掛け合いの直後、アクセルさんの号令が響いた。

 その声と共に、すでに魔法の投射態勢を整えていた魔法職と、魔物や亡者にも効果のある弓矢を持つ弓手が、一斉攻撃を開始する。


 魔法職は、『ダブル』を中心に20名ほど。

 弓手の数の主力は、亡者対策をしていたアクセルさんの率いるアースガルズ王国軍だ。

 ランバルトの兵士は、昨日の城壁での戦闘ですでに同種の攻撃手段が尽きているか、魔法使い自体がいないので、殆ど存在感を発揮できていない。


 ちなみに今いるランバルト王国だけど、総人口は約20万。人口面では小国だけど、国土は北の半島の南端部に広がっている。

 国に仕えるCランク以上の魔力持ちは人口学的には80名になる。ただし、女性は騎士になれないし、戦える年齢の者、つまり強い騎士は30名程度しかいない。

 これに弱い魔力持ち、魔力なしの騎士を含めて、1000名ほどで騎士団を構成している。

 装備と訓練で戦闘力は随分違うので、魔力が無くても戦力価値は相応に高い。


 空中戦力は、伝令用の天馬や飛馬を除くと翼龍乗りが4、5人いるだけ。竜騎兵はいない。この辺りは獅子鷲の生息域でもないので、この乗り手もいない。

 また、第二列以上の魔法を使える魔法使いも、国に仕える者はあの死霊術師だけだ。

 何でも、あいつは一部だけど第四列が使えたらしい。だから、この国の人にみせた以上と考えないといけない。

 これからの戦いを思うと一定の用心は必要だ。


 国全体としては都市国家レベルだけど、オクシデントの小国だとどこも似たり寄ったり。治癒職を含めた魔法使いは少なく、国とは関係のない神殿は小規模のものがあるだけ。

 神殿騎士団は連絡員程度しか駐在せず、しかも神殿、神殿騎士とも現在は連絡不通だ。


 そして問題なのは、半年ほど前のノール王国を滅ぼした戦争で、攻め寄せた諸国の軍隊の主力を務めるも大損害を受けている点だった。

 しかも戦争後にも、お宝目指して『魔女の亡霊』や亡者の群れとも激しく戦い、そしてさらに損害を上積みしていた。


 オレ達が行く前のウルズの廃墟には、元ランバルト兵の亡者もけっこう居たらしい。

 ランバルト国境側のノール王国の村落も、あの口臭男の傭兵団が一部で無茶苦茶した事もあって、戦災が酷かったと言う。


 そして現状のランバルト王国軍は、実質的に半分程度の戦力に激減していた。

 特に魔力持ちの損害が大きく、騎士団は半数以下に減っている。聞けば騎士団長、筆頭騎士までが前の戦争で戦死していて、騎士団は実質的に壊滅状態だそうだ。


 そこに来ての今回の騒ぎで、首都の中心部にいた貴族、騎士が全員が、靄の中で行方不明状態で精鋭に当たる人達が戦力外だ。

 さらに新領土の治安維持や国境警備などを差し引くと、王都の騎士は黒い靄に覆われる夜に当直で町の城壁を警備していた50名程しかいない。

 普通の兵士の数はもっと多いが、ごく一部を除いて魔力持ちはいない。


 自力で何かをしたくても、何も出来ないと言うのが実情だった。

 昨日も夕方までヴァーリ傭兵団を防げる見込みは無く、オレ達とアースガルズ軍が来たのは神々の恩寵や加護だと感じたらしい。


 もしオレ達やアクセルさん達が来てなかったら、アンデッドハザードは都市一つを飲み来んでさらに酷くなり、事は小国一つで収まらなくなっていただろう。



 昨日、半ばトリビアとして聞いた事を思い出しつつ眺めている間にも、遠距離から亡者を叩く攻撃は続いた。

 ブレスの一撃で50体ばかり、さらに連射された弓や魔法で2、300体の新鮮なゾンビを中心とした亡者アンデッドが倒されたけど、それでも亡者は半分も倒せてなかった。

 完全にアンデッド・ハザード状態だ。


「第二陣掛かれ!」


 そうすると、アクセルさんの号令とともにやや近い距離からの遠距離攻撃が開始される。

 主力は遠距離投射型の魔法剣。この攻撃を弓手が支援する。

 この攻撃では、マリアさんの炎の魔剣攻撃が頭一つ抜けている感じだ。

 タクミも参加しているが、射程距離、威力共にやっぱりベテランにはかなり見劣りする。


 そしてさらに「第三陣掛かれ!」の号令とともに、騎士や兵士達の突入が開始される。

 アンデッド相手なので、燃やして倒すべく、たいまつや油壷を持っている兵士も少なくない。

 また武器の方も、剣や槍以外に鈍器を持っている者も多い。ゾンビ相手には、やはり剣より鈍器の効果が高いからだ。


 槍持ちの兵士も、突くのではなく掲げて上から叩く戦法で対応している。

 槍と言えば薙ぎ払う攻撃を思い浮かべるかもしれないけど、集団戦だと空間的に無理だし、上から落とす事での運動エネルギーは薙ぎ払う時の比ではない威力がある。

 魔力を持たない一般兵となれば尚更だ。


 そして激しい戦いがしばらく続くと、澱んだ魔力の靄の方は、亡者が減ると共に薄らいでいる印象を受ける。

 特に、ライムが一撃目を浴びせた大通りは、手前の方を中心にして吹き払われたままだ。

 日の光も届いているので、見通しも悪くない。


 そして亡者は、昼間、明るい場所は活動は出来るが苦手というお約束は、この世界でもそれなりに有効なので、通りの亡者は活動も低調だ。

 一般兵と魔力のそれほど高くない騎士たちの攻撃でも、十分に撃退されている。


 もっとも、強そうな亡者は、『ダブル』の冒険者達と、オレ達と言うよりオレと悠里以外の魔法か弓が倒していた。

 特にと言うかやはりと言うか、ハルカさんが第一撃目に叩きつけた『光槍撃』は圧倒的だ。相手が密集していると1本の光の槍で複数貫くので、20数体を一撃で葬っていた。


 魔力温存を言い渡されているシズさんは魔法の矢を2度ほど使っただけだけど、一回あたり数人分の7本も飛ばすので、こちらも相当すごい。

 ボクっ娘も、矢をつがえずとも魔力だけで引ける弓をじゃんじゃん射ていた。弓の性能が高いので、他の弓手よりも効果も高そうだ。

 合わせると、この3人だけで全体の一割に当たる50体ほどの強い亡者を葬っている。


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