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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第4部

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342「死霊術師(1)」

 バルドルの町を攻めていた連中のボスを倒し、しばらく傭兵達が慌てて逃げ散る様子を見守っていると、理由は不明ながら、不意に近くでゾワゾワするような不愉快な魔力を感じた。


 みんなも同じだったようで、すぐにも警戒を強めて周囲に視線を巡らせる。

 そしてその不愉快な魔力はすぐに分かった。


 倒したばかりの魔法使いと口臭男からだ。

 しかも魔法使いの方は、魔法防御のような膜を形成していて、簡単には手が出せないようだ。

 というより、手を出したくない。

 口臭男の方は、風穴の空いている胸の辺りから澱んだ魔力が盛大に漏れ出してもいる。


 しかも飛行組の近くの魔法使いは、すぐにも立ち上がり笑い声を響かせてきた。


「偉大なる我が、この程度で滅せると思ったか!」


「ライム! クソっ! アンデッドだったのかよ!」


「ヴァイス、距離あけて!」


 とっさに二人が相棒を飛び立たせて距離をとる。しかも、すぐにも体制を整えて攻撃に移る動きだ。

 こっちも近い方の口臭男に対応するべく、とりあえずの戦闘体制を取る。


「おいデカ物。早く起きて仕事をしろ! この役立たずめ!」


「オ、オ、オオオオオォォォォッ!」


 口臭男の方は、なんとか立ち上がろうとしているが、声は声にもならず意味のない音しか漏らしていない。動きもぎこちないし、瞳は開けられているが虚ろでどこも見ていない。

 魔力も体中から漏れ出していて、まるで穴の空いた風船だ。

 さっきまでの威圧感やパワーは微塵もなく、亡者としても失格な動きだ。

 ついでに言えば、さっきまであった人としての存在感がない。


(胸に何か仕込まれてたのかな?)


 と推察をめぐらすも、今は口臭男よりも魔法使いの方だ。

 けど分析はオレの担当ではないので、念のため口臭男を警戒しつつ知恵者二人の言葉を少し待つ。


「貴様、死霊術師か!」


「この外法使い!」


 シズさんとハルカさんが同時に遠くの魔法使いに鋭い声をかける。


「そうとも、我こそは偉大なる死霊術師ネロ・ディナック! 我の真の姿を暴露せしめた事は褒めてやろう。お前達をくびり殺す準備をしていたので挨拶が遅くなったが、貴様らが我の可愛い三頭龍を倒した屑どもだな!」


「なんだ、あの出来損ないは、お前のしもべだったのか。良くお似合いだな」


(て言うか、自分から準備をしていたからとか、言い訳するか普通?)


 オレですら、目の前のヤツがバカだと思ったが、シズさんはそれを利用して煽りにかかった。

 バカな上に、何かを話しそうだからだろう。

 バカ相手には良い手段だ。

 シズさんも、オレ達に目で合図してきたので、その気のようだ。


「だがその可愛い子もいなくなった。そこの木偶の坊も、せっかく我が力を授けてやったのに役立たずのようだ。代わりにお前たちを繋ぎ合わせるとしよう」


「それは御免被る。代わりに炎をくれてやるから、その場を動くな」


「炎程度で我を滅せると思うなよ。……炎? そうか、貴様ら大樹海で魔物の軍と戦っていた連中だな」


 死霊術師が、自分の言葉に疑問を感じて少し考え込んでから、爆弾発言をしてくれた。

 これにはシズさんも意外だったらしく、「貴様も大樹海にいたのか?」と思わず芸のない返事となった。


「そうとも。魔物共にこちらでの事で力を借りたのでな、少しばかり手を貸してやったまで」


「では、あの亡者となった魔物たちは?」


「我が偉大な魔法の成果よ。今もホレ、あそこでうごめいている奴らもそうだ」


 シズさんの再度の質問に、得意げに答えてくれた。

 馬鹿な上に自己顕示欲や承認欲求も強いと見える。


(それにしても、とんでもない話が出てきたぞ)


 既にまともな人の姿ではない元魔法使いが、北の橋の方を指差した。

 しかも、画面の向こうでよく見かける断崖絶壁に立つ犯人や玉座に座る悪役のように、ペラペラと話し始めてくれた。


(悪魔ゼノが言っていた悪事の一端は、こいつが片棒を担いでたってのか? ハーケンの一件も、こいつがあの因縁野郎3人組にアイテムなり渡したとかのお約束かもしれないな)


 ヤツの雰囲気から、もっと話すかもしれないので、しばらくは煽り上手なシズさんに任せるべきだろう。

 取りあえずオレは、中途半端に復活しつつある口臭男を、もう一度念入りに切り刻むことに専念する。

 動きがまだのろいので、首を刎ねておく。そうすれば、亡者も滅多な事では動かないからだ。


 そしてその間も、シズさんが話を聞き出そうとする。というか、向こうから話してくる勢いだ。

 ボッチだから、誰かに聞いて欲しかったんじゃないかと疑うレベルだ。

 それによくよく考えなくても、アンデッドを作る魔法使いとか、どう考えてもボッチだろう。


「あの亡者達もお前が?」


「そうとも。と言っても、墓を丸ごと復活させ、後は放置だがな。良く育ったものだ」


 そう言って、嬉しそうに高笑いしている。

 なんとも、三下悪党に出くわしたものだと呆れそうになる。


「同じ事を各地でして来たのか?」


「流石にそこまではせぬ。神殿に目を付けられては面倒だからな。だが、このような荒廃した場所は、我が実験の場としてうってつけよ!」


「なるほど。お前は利用しただけか。では、『帝国』兵の亡者も貴様か?」


「何の話だ?」


「『魔女の亡霊』は?」


「噂を聞いて利用しようとこの地に訪れた時には、滅された後よ。惜しいことした」


 とぼけたり嘘をついているようには見えないが、話半分と聞いておくべきだろう。

 みんなの表情もそう言っている。


「それは残念だったな。で、貴様の要件は実験だけか?」


「それが聞きたいのであろう。それにしても狐、なかなかの魔力を持つではないか。神官などではなく、我と手を組まぬか?」


「そうもいかぬ。ところで、魔物とはどこで手を組んだ」


「この地だ。この辺りに混乱をもたらしたいと言うので、手を組んだ。単なる利害一致だ。ハーケンでは愚かにも失敗したようだが、魔導器など色々用立てしてやったものよ。おかげで我は、必要な大金が手に入ったがな」


(まあ、ペラペラと。こいつが黒幕の片棒担ぎは確定か)


 なんか脱力しそうになる。

 大きな陰謀の一端を、こんな口軽なボッチが担いでたとか、苦労させられた身としてはげんなりさせられる。

 しかし、ペラペラと喋るのも終わりらしい。

 態度が少し変わった。


「それよりだ、これだけ話してやったのだ、手を組まぬというのであれば、このまま生き長らえられると思うなよ。貴様ら全員、そこの役立たずの変わりに我の新たな僕としてやるので、動くでないぞ」


 どうやら死霊術師ネクロマンサー変じてリッチとでも呼ぶべき元魔法使いのアンデッドは、自分の負けは無いと考えているらしい。


(魔法使いだから魔力差は分かっているだろうに、どうにも解せないな)


 それほど強い魔力は感じないが、亡者の群れで押しつぶせるとでも思っているのだろう。

 けどそれなら、こっちは飛んで逃げればいいだけだし、早くも頭が腐っているのかと思えて仕方ない。

 しかも、どこかで聞いたようなお約束な台詞ばかりで正直興ざめだ。こっちの戦闘意欲を落とす意図があるなら、その点では成功していると言えるだろう。


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