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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第4部

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338「傭兵団の去就(1)」

「それにしても参ったわ。戦争なんて」


「マジどうなってるんだろうな」


「さしずめ、国力が落ちた上に亡者の大群に襲われている小国なので、下克上なり考えた野心家がいた、というところだろう」


 シズさんが、二人のため息交じりの言葉に、一番有り得そうな推論を付け加える。


「けどそれなら、自分達の正当性を示すために、神輿になる人物を用意して旗の一つも掲げるものでしょう」


「そうだな。旧ノール王国の残党などなら効果覿面こうかてきめんだろう。だが、そうじゃない。何か理由があるんだろうが、そこが読めないな」


 そして自分の推論が単純すぎるので、ハルカさんの疑問を前に頤に手を当てて考え込む。

 けど、あんまり考え込んでいる時間はなさそうだ。


「で、どうするんですか?」


「最低限の話がついたら、まずは亡者を鎮定しましょう。まもとなら、ダメとは言わないでしょう。その後、何とか話をつけて街に入ってこの国、神殿、神殿騎士団、『帝国』の調査隊と接触する。後は得られた情報次第ね」


「ここまで事態がややこしい以上、それくらいしか考えつかないな」


 地上にいる3人をして、予想外の事態に軽くため息が出てしまう。

 しかしオレとしては、念のため確認したい事がある。


「一応確認だけど、『帝国』の飛行船は待たないのか?」


「亡者は昼間に鎮魂する方が楽よ。それに、見つけた以上、一刻も早く鎮魂しないと。ここは戦場だから広がりかねないわ」


 ハルカさんは即答だ。それにオレも頷く。

 ただオレとしては、一つ危惧があった。


「何にせよ、人との戦いにはなってほしくないな」


「それは同感ね。何百人もいるものね」


「私達なら、蹴ちらすのは難しくないだろう。強い魔力の反応は、今ところあの巨漢と連中の陣地にもう一つ、あとはあの骨どもくらいだ」


 すでに魔法で調べているので、シズさんの言葉は淀みがない。

 オレ達なら十分蹴散らせるという事だ。


「実力差ではそうなんでしょうけど、オレとしては悠里に人と戦ってほしくないですよ」


「家族としてはそうだろうな。だが、この世界で竜騎兵を続けるなら、いずれ人と闘う事なるぞ」


「そうよね。竜騎兵は人が扱える最強兵器の一つだもの。周りが黙ってないわ」


 二人の言葉に、思わず腕組みして悩んでしまいそうになる。


「ハルカさんの力でなんとかできないのか?」


「龍は神殿に所属できないのよね。だから私個人の友人や協力者ってくらいが限界。けど、それで大抵の問題は避けられる筈よ。とは言え、今は目の前の問題よね」


 と話している間に、「じゃあ次行ってくるねー」とボクっ娘がヴァイスと一緒に飛び立って、入れ違いに悠里がライムと一緒に降りていた。

 そして開口一番。


「私、人と戦うのは大丈夫。シーナの辺りは、エルブルスのお宝狙いの盗賊がけっこう居たから、そのへんは経験済み。だから、取り越し苦労だっての」


 ケロッと言ってのけた。

 空の上からでも、オレ達の会話を聞いていたらしい。


「マジか。オレ、最初に人と戦ったとき、めちゃ凹んだぞ」


「お前と違うっての。て、言うほどじゃないけど、悪党相手だったし。それに最初はライムのブレスで倒したから、実感すらなかったな」


「直接斬ったことは?」


「あるよ。まあ私は、誰かを守れなかったとかないし、それまでに普通の猛獣とかも斬ってたし、それにみんながフォローしてくれたから結構平気だった」


「そっか。けど、あんまり戦わないでくれよ」


「そんなの相手次第だろ。ていうか、その相手だけど、ヤバげじゃない?」


 衝撃発言だ。人と戦う『ダブル』は少ないというが、特殊な環境で過ごしただけあって、妹様は相当の猛者のようだ。

 けど、春から夏の間の一時期、一時期オレへの態度が強かった時もあったので、その辺で人と戦ったりしていたのかもしれない。


 けど悠里の言葉に、ハルカさんもシズさんも少なからず驚いているのだから、やはり人と戦って精神的に大丈夫だったというのは珍しいのかもしれない。

 と、悠里のことばかりにかまけている場合ではなかった。


 悠里の言う通り、空の番の最初の交替だから10分経ったくらいだけど、バルドルを攻めていた連中の方が騒がしい。

 見れば街への攻撃を中止して、陣形を再編成してる。


「話し合う気も逃げる気も無さそうだな」


「私達に亡者を叩かれたら、どの道連中の計画はご破産だろうし、街を攻めるどころじゃないだろうからな」


「退散してくれたら良かったのに」


 ハルカさんがかなり深く溜息をつく。

 確かに、これだけの人と戦うとなると憂鬱どころじゃない。

 しかし、こっちがヤられてやる義理もない。

 シズさんなど、最初からヤル気満々だ。


「とにかくこっちも戦闘準備をするぞ。集団で来たら、一撃で吹き飛ばすが構わないな」


 シズさんが、自らの魔法の呪具などのスタンバイを始め、視線でアイを呼び寄せている。


「集団で来られたら対処が難しいものね。ただ、こっちが最初の一撃ってのは止めてね。最悪大巡礼どころじゃなくなるわ」


「分かっている。だが、先制攻撃が一番なんだがな」


 軽く肩を竦めるが、シズさんなら挑発で相手に撃たせるくらいしそうだ。

 けど相手の動きは、その必要もなさそうだった。


「その最初の一撃を向こうがしてくれるみたいだぞ」


 連中の動きが完全にこちらに向かっていた。

 そして陣形を整えつつある。

 どうにも、戦闘は避けられそうにないようだ。

 それまでバルドルの町を攻めていた連中は、今度はこっちを攻撃しようと動いている。


 訓練はそれなりに行き届いているらしく、すでに遠巻きに半円状で囲まれつつある。

 距離は100メートルほど。一般的な長射程魔法の射程ギリギリと言ったところ。

 腕利きの魔法使いを相手にする時は、多方向からの一斉攻撃が基本なので、そう言ったセオリーは十分知っていると言う事だ。


 半円の左端の少し後ろには、馬に乗った2、30人の騎馬集団もいる。

 さっきの巨漢は前に出てきてないが、一斉攻撃のタイミングを計っているのだろう。

 こちらから手を出せないのを利用しているのだろうが、そもそも神官を攻撃する時点で、こいつらの行動はこの世界の常識や倫理から外れている。


 さらに上空を警戒する弓が多数あるし、敵の本陣辺りには魔力の感じと、魔法使いも数名居そうだと分かる。

 城攻用の大掛かりな武装は人が引くには大きな石弓が2つあるが、それもヴァイスとライムへの対抗のために空に向いている。

 しかし、巨鷲と飛龍を侮っているとしか思えない。

 三次元機動する相手に、弓は勿論大きな石弓は数がないと当たるものではない。


 とは言え、この数の差だ。

 こっちが一般人なら勝ち目はまるでない。

 そして向こうは、魔力持ちが弱い者を含めて10人に1人程度。平均D〜CにBがチラホラ。合わせて2、30人くらい。


 魔法使いらしいのは、反応の強い1人以外にも数人いるみたいだけど、魔力が低そうなのが2、3人いる程度だ。

 治癒専門の魔法職は、いるのかどうか分からない。


 騎乗生物は馬がほとんどで、全員が乗るには程遠い数だ。加えて、魔物の騎乗生物は殆どいない。

 飛行生物は、翼のない空飛ぶ馬である天馬が2、3頭見えるが、偵察や連絡用だろう。


 翻ってこっちはAランク2体に、他はSランク級ばかりが5人。相手から見れば化け物の群れだ。

 『ダブル』の算定方法だと、一般兵相手だと3000人分以上に匹敵する。

 そうして空からは、あまりにも侮られた状態に、半ば困惑した声が降ってくる。


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