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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第4部

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337「都市攻城戦?(2)」

 そしてライムの方に方針を伝えると、すぐにも行動を開始する。


「じゃあ、ライムが盾になります。付いて来てください!」


 というわけで、ライムを前にしてヴァイスが続き、ゆっくり旋回しながら北の橋の後方から低空で接近していく。

 もちろんだけど、翼を振って友好の合図を送り続ける。


 そして弓や槍、魔法の矢の射程より少し手前で、ハルカさんが魔法で作り出した神殿の旗を掲げ、そしてゆっくりと2体が地表に降り立つ。

 当然だけど、すぐに飛び立てる態勢のままで、降り立った場所も少し小高い見晴らしの良い場所だ。

 街の外周と戦場からも相応に離れている。


「責任者もしくは指揮官に話があります!」


 身分を告げた後、そう呼びかける。

 空から2体の巨大生物が飛来したことで、戦場の喧騒は停滞気味なっていたので、シズさんの魔法で音声を拡大したハルカさんの声も向こうに届いたようだ。

 数分待つと、数名の武装した男たちがこちらに向けて歩いてくる。

 それを見てこちらも、オレを先導としてハルカさんがヴァイスから降りる。

 クロもヴァイスの上で人型にして、一緒に降りて後ろに控えさせる。

 他はそれぞれの背で待機だ。



 そうして空と地上から眺めた限りだけど、素行が今ひとつな事が多い傭兵にしても、胡散臭そうな連中が多いように思えた。


(これ、まともな交渉になるのか?)


 しばらく待っていると、オーガ並みにガタイのデカイ男を真ん中にして、数人の武装した男達がオレ達の方に近づいて来る。

 リーダーは、背中に大剣を背負った身の丈2メートルに達する巨漢で、卑下た雰囲気と獰猛さを合わせたような不快なイメージを放っている。

 当然男だけど、今は兜を脱いだ全身甲冑なので、女性の可能性は……流石になさそうだ。


「ここは戦場だ! 神官なんざお呼びじゃない、消えろ!」


 あと20メートルといったところで立ち止まると、巨漢が口を開いた。ガタイのでかさに似合うだけの大声だ。

 それに、こちらへのマイナス感情を隠そうともしていない。

 しかも態度も言葉に合わせたように、横柄で粗雑なイメージしか受けない。


 取り巻きの男達も殺気立っていて、剣こそ抜いていないが、槍持ちなどは手に持つ武器を今にも向けてきそうだ。

 しかし、近づいて来た連中に魔法職は見受けられない。魔力が多そうなのも、巨漢だけだ。


(バカっぽいやつばっかりだけど、ボーンゴーレムを作ったヤツがブレーンって事もないのかな?)


 オレの値踏みをよそに、ハルカさんも負けじと応戦する。


「戦場である以前に、亡者が溢れているではありませんか。まずは、双方が協力して亡者の鎮定を行うべきでしょう」


「そんなもん、お前ら神殿の都合だろ。こっちは依頼を果たしているだけだ!」


「ならば、街中にいる神殿及び神殿騎士団と連絡を取るので、その間の休戦を求めます」


「馬鹿か! そんな簡単に戦闘が止められるか! だいたい、お前らが勝手に来たせいで、こっちは戦闘の調子が崩されてみんなイライラしてる。とっとと消えろ。邪魔だ!」


「亡者がいる以上、我々も引き下がれません」


 その言葉に、巨漢の側にいた男の一人が巨漢に耳打ちをする。

 身なりが他と少し違うので、副官かなにかだろう。少しはまもとな言葉を期待したいところだ。

 そして代理として、その副官が巨漢の許可を受けて口を開いた。


「貴様は巡察官だろ。なら、どこかの大神殿なりに報告に戻れ。

 それと、一応我々の知る限り、この町に神殿騎士団が来たという話は聞いてないし、町の神殿が亡者に関して何か言って来てもいない。神殿は人の争いに関わらないなら、他所から来たお前らに出来ることはない」


 副官は多少まともだけど、それでもかなりの言い草だ。

 しかし、巨漢の指揮官ほど馬鹿でもないようだ。しかもハルカさんの様子を見る限りでも、向こうに分があるようだ。

 けどそこに、ライムからヒラリと影が降りてきた。シズさんだ。


「一つ質問だが、あちらの亡者と貴様らは無関係で間違い無いか?」


 巨漢も副官も微妙な表情を浮かべる。

 その態度からも、亡者の発生に便乗したとかの理由なのだろうと思える。

 そして副官は再び後ろに下がり、巨漢が口を開いた。よく見ると歯が汚い。きっと口も臭いに違いない。


「当たり前だろ。亡者に知り合いなんているのは、死霊使いくらいだ」


「それは何より。では、あちらの亡者を我々が勝手に鎮定するが構わないな? ちょうど場所も離れているし、迷惑はかけないと約束しよう」


 向こうが言葉に詰まる。予想外、想定外の言葉のようだ。


「ち、ちょっと待って。俺の一存では決められない。雇い主に聞いてくる」


「鐘半刻待とう。良い返事を期待する。それでよろしいですね巡察官様」


「ええ。それでお願いできますか隊長さん」


「あ、ああ、ちょっと待ってろ」


 巨漢とその取り巻きが、回れ右して慌てて戻って行く。

 来る時は余裕があったが、この分かりやすい醜態は、言葉だけでなく巨漢がここのボスじゃない事を示している。

 それを見つつ、みんなに提案すべき事が頭をよぎる。


「もう少し距離を取るか? こういう時、お話だと不意に襲ってきたりするだろ」


「賛成だ。ボーンゴーレムを作るか操るヤツも居る筈だから、最低でも高位魔法の最大射程圏外がいいだろう」



 というわけで、少し距離をとってしばらく待つ。

 もちろん警戒を疎かにするわけではなく、片方は常に空にあってオレたちの上空をゆっくりと旋回している。

 距離を取った事も警戒も無駄になれば良いとは思ったが、嫌な予測は得てして当たり易いようだった。

 

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