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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第4部

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327「デートの続き」

 そしてシズさんに威勢良く送り出されて、今は玲奈の家の前にいた。

 和風のちょっとしたお屋敷っぽい古民家で、立派な屋根付きの門扉があって塀や高い生垣がぐるりと囲んでいる。

 敷地面積は優に百坪はあるだろう。白壁の土塀で覆った時代劇風な蔵まで見る事ができる。

 

「やっぱり、驚くよね」


「……うん。レナってお嬢様だったんだな」


「え? 全然違うよ。築二百年くらいって曾おじいちゃんが言ってたけど、古いだけだよ」


「だけじゃないだろ。こんなに大きいのに」


「そうかな? 周りにはちょくちょくあるよ」


 確かに、シズさんの神社から玲奈の家まで、いかにも古そうな家や、敷地の広い家は何件か見かけた。他にも車の入れない細い道や不自然な区画、お寺、小さなお堂なども見かける。

 シズさんの神社もそうだったけど、この辺りも古い農村から発展していった住宅地なんだろう。

 そこでふと思った事を聞いてみた。


「ちょっと変な事聞くけど、レナんちは家以外に土地とかある?」


「え? ウン。家の裏は事務所と月極の駐車場になってるよ。それがどうかしたの?」


「ホラ、前にシズさんとの会話で庄屋だったとか言ってたから、畑や広い土地があるのかなと思って」


「ああ、なんだ。昔の話だよ。ご先祖様の日記には、自分ちの田んぼを通るだけで隣村に行けたとか書いてたけど、明治時代からは農業より商売に力を入れたから田畑をどんどん売って、曾おじいちゃんが子どもの頃にあった戦争の後、残りは殆ど取り上げられたって言ってた」


 戦争とは第二次世界大戦の事だろう。戦後すぐの農地改革とかいうやつの影響の筈だ。

 まあ、今はお嬢様じゃないということで、こっちはちょっと安心する。

 いや、ここで安心してはいけない。中途半端に安心すると、碌な事が無いのは向こうで散々体験してきたことだ。


「なるほどねー。じゃあ、戦争の後は家と駐車場だけしか残らなかったんだ」


「ううん。戦後も兼業で農家もしてたよ。でも、50年くらい前にこの辺りが住宅地になっていったから、それで残りも売っていったんだって。

 それでも昭和の時代は兼業農家だったけど、バブル経済の頃に地上げ屋が買い叩きに来たから、おじいちゃんが追い返す気で吹っかけたら言い値で買われたって。今はそこに大きなマンション建ってるよ」


「バブル経済って30年くらい前だっけ?」


「教科書に出てくるよね。あ、それでね、そのあとは家と裏の小さな畑だけになって、家で食べる分の野菜とか作ってたけど、周りから臭いとか言われて駐車場にしちゃったんだって。私が小さな頃まで畑があったんだよ」


 玄関の鍵を開けて中に入りながら、玲奈が丁寧に説明を続けてくれる。

 そして門扉をくぐって中に入ると、十分手入れされた広く立派な庭があった。少し横目に見ると、縁側に広がる庭にはかなりの大きさの池がある。

 しかも玄関とかそこかしこに、警備会社のマーク入りの監視カメラとかセンサーがある。

 かなりの厳重さだ。


(池付きの立派な庭なんて、個人の家で見るの初めてだよ)


 そうして玲奈は、意外に頑丈そうな玄関扉を閉めると二匹の大型犬の手綱を解いてやる。そうすると、犬達は玲奈に軽く挨拶するような仕草を見せると、ゆっくり歩き庭の一角の自分たちのポジションへと歩き去って行った。

 それを見送りつつ思ったのは、この家ならジャーマンシェパードもお似合いだという事だ。


 そして今でこそこの屋敷と裏の駐車場だけだというが、今の話を聞く限り恐らくこの家の資産は、時代が進むにつれて土地以外の資産や財産に変化して、今も相当な額で存在しているに違いない。

 それとも会社などを経営しているのかもしれない。

 でなければ、これだけの屋敷を奇麗な形で維持できないだろう。


 ただ玲奈を見る限り、金銭感覚とかはオレとたいして変わらないので、お金持ちやお嬢様といった生活とは、この古く大きな家以外は無縁に思える。

 そして玲奈はと言えば、少し恥ずかしげだ。


「ね、古い家でしょ。ネズミとかゴキブリとか大変なんだよ」


「猫でも飼うしかないな」


「猫なら3匹飼ってるよ。でもほら今時の猫だから、あんまりネズミとか捕まえてくれないんだよね」


「犬に猫にって、他にも色々飼ってそうだな」


「うん。あの池には色んなお魚もいるよ。あと亀とかも。おばあちゃんが動物好きなの」


 そう言いながら嬉しそうに少しはにかみ笑顔な玲奈を見ていると、オレもちょっとほっこりする。

 おばあちゃんだけじゃなくて、玲奈も動物好きなのがよく分かる。

 しかし次の発言は唐突な爆弾だった。


「……それより、この後プランないよね」


「う、うん。ショッピングモールでいいかなってくらいにしか思ってなかった」


「じゃ、じゃあ、ちょっと上がってく?」


 お願いする時に見せる上目遣いモードだ。しかも今までと髪型が違っているので、破壊力が数段増している。

 よく見れば、服装も気合い入り気味な感じだ。ボクっ娘の真似をした時のようにホットパンツという事はないが、肌の露出も多めだ。


「い、いいのか?」


「う、うん。それにショウ君は、もうシズさんの部屋にも入ってるでしょ。それに向こうじゃ、ハルカさんの部屋にも行ってるんだよね」


「ハルカさんの家には行ったけど、泊まった部屋は使ってない客間だったな」


「それもだけど、エルブルスの方は?」


「あの部屋は領主の部屋で、今まで全然使ってなかった。それにこれからは、一応オレの部屋になるのかな」


 自分で言ってて、ハルカさんの部屋は確かに拝んでいない事に気づいた。と言っても、あまり使ってない部屋と言っていたし、そこまで興味があるわけじゃない。


「そうなの? じゃあ、ハルカさんの部屋は入ったり見たりしてないの?」


「うん。ノヴァでは急がしすぎたから。あっちで誰かの部屋に入ったのって、ゴーレム博士のオタク部屋くらいだな」


「そうなんだ」


 そう答える玲奈の声は、少しホッとしていた。

 オレがハルカさんの部屋に入っていない事なのか、入っていないのなら自分も入れなくて構わないと思っているのか、それはこの次の言葉次第だろう。


「で、オレがレナの家に上がっていいのか?」


「う、うん」


 少し安堵した後のオレの質問に、気を取り直して少し上気した顔を向けてきた。

 そして玲奈の家に上がると、誰もいないというお約束な事は無かった。

 三世帯どころか四世帯同居で、ひいおじいちゃん、おじいちゃん、おばあちゃん、玲奈の両親に加えて、父方の弟さん、つまり玲奈の叔父さんも同居していた。


 ただ子どもは玲奈だけで、玲奈が婿養子を連れて来なければ、叔父さんの子孫に家が継がれるらしい。

 と言っても同居の叔父さんは、いわゆる「こどおじ」の独身なので、どうにも天沢家の未来は現時点では不透明なようだ。


 そして玲奈の家に上がったが、案内されたのはリビングの一つ(リビングと居間という形でリビングが二つある!)で、玲奈の部屋には入れてもらえなかった。

 ていうか、いきなり自分の部屋に入れるシズさんが大胆すぎるのだ。

 そうして広い家の廊下を歩いている時だった。


「ん? 何の音?」


「なに?」


「いや、何か機械っぽい音が沢山したから」


「ああ。あの部屋パソコンが一杯動いてるから、年中部屋を冷したりしてるの」


 そういってすぐ先の部屋の扉を指差す。

 確かに音はその部屋から地味に聞こえてきている。


「在宅の仕事部屋とか?」


「うん。自前の会社してて、裏の事務所も一応会社の社屋になってるの。でも、おじいちゃんパソコン好きだから、あの部屋は半分趣味。リンゴの会社のパソコンと株なんて、創業当時から沢山持ってるんだって。倉の奥に一杯あるよ」


「へーっ、通勤が楽そうだな。IT系の会社?」


「おじいちゃんが、何だっけ? デイトレーダーってやつ。15年くらい前のITバブルの時に汗が止まらないくらい大当たりして、そこから脱サラで会社してるの。その頃に買った金塊の山とか、銀行で見せてもらった事もあるよ」


「凄いな。けど、金なら向こうで見慣れたかも」


「アハハ、ほんとだね」


 それで話は済んだけど、その部屋にも人の気配がある。

 他の部屋にも人の気配はあるが、玲奈の家族の誰かと顔を合わせる事はなかった。みんな遠慮しているのかと思ったけど、後で聞くと玲奈が事前に言い含めてあったらしい。

 ただ、オレとしては家の人に悪印象をもたれたく無いので、出来る限り行儀良く過ごした。

 それを玲奈に笑われたりもしたが、初っぱなで悪印象は避けたいところだ。


 もっとも、幸い家に上がるという以上ではなく、小一時間ほど他愛のない話をして家を出た。

 その後は、ショッピングモールに移動してウィンドーショッピング、本屋、少し背伸びしたレストランでお昼をして、ミニデートも終了だ。




 そして少し早めにバイト先に行くと、タクミは既に到着して着替えていた。


「お疲れ、機嫌良さそうだな」


「玲奈とミニデートしてきたからな」


「……ショウのその切り替えの良さは、大したもんだな」


 言葉も表情も本気で感心してるっぽい。

 けどここは混ぜっ返すべきだろう。


「なんだ、珍しく嫌味か?」


 あえてちょっと煽ってみるが、苦笑が返ってきた。


「違うよ。マジ羨ましいだけだって」


「タクミは空気読み過ぎなんだよ。向こうで、昨日宿の部屋に来なかったのもそのせいだろ。こっちはマジで一人寂しく寝てるってのに」


「ハルカさんは?」


「悠里の抱き枕にされてるんじゃないかな」


「もう一人の天沢さんは?」


「いつもシズさんの抱き枕にされてる」


 この言葉だけだと、ハーレムパーティーじゃなくて百合パーティーだ。

 さしずめオレは、下男といったところだ。


「アハハ。で、ショウはボクを抱き枕にし損ねたのか」


 下男どころか、もっと酷い事言われた。


「そんなキモい事しないって。まだ分かれる前に、二人の時にちゃんと話したかっただけだよ」


 オレの気遣いを無駄にしやがってというオーラを送ると、やっぱり苦笑された。


「サンキュ。でもこうして会えるのに、向こうで話さなくても構わないんじゃないか」


「かもしれないけど、出来るだけ向こうの事は向こうで話したいって思うんだ」


「なるほど。それが切り替えるコツってやつだな」


「どうだろ? まあそう思っていいかもな」


「了解。で、向こうで話すか?」


 そこで少し考える。タクミは見た目はいつも通りだけど、少し陰があるように思えるのは気のせいだろうか。

 オレには、行きたくて堪らなかった異世界に行けたのに、向こうでの現実を前に少し気持ちが沈んでいるように思えた。


「うん。向こうで話そう。とはいえ、昨日の夜タクミのいないところで決めた明日の予定だけ言っとくよ」


「分かれるのにか?」


「『帝国』への出発は、多分もう数日先だ。まずは『帝国』の商館に行って、行きますよって伝えにいくんだ。多少の義理があるし、ハーケンに来た目的の一つだったんだ。

 だから基本オフの予定。ギルド巡りとか稽古とかなら数日つき合えると思う」


「了解。で、サンキュ。でも冒険者ギルドは、向こうの面子で知り合ったビギナー連中に連れてってもらう約束してるんだ。とはいえ、稽古の方は魅力的だな。ちょっと考えさえてくれ」


「おう。他には? 何でもつき合うぞ」


 そこでタクミ少し沈黙があり、それまでより真面目というか何かを決断した顔で再び口を開く。


「数日街に滞在するなら、シズさんにアプローチかけたい。だから、ちょっと協力して欲しいんだけど」


「現実ではかけないのか?」


「日本一の大学に美人モデルだろ。流石にちょっとな」


「一緒だと思うぞ。中身は一緒だし。それに向こうでも、齢300才の爆炎の獣人魔導士って設定だぞ」


「それ300才以外本当じゃないか。でもまあ、向こうだと少し気軽に声とかもかけられそうなんだ」


「それはなんか分かる。たださあ、タクミがケモナーとは知らなかったよ」


「バレたか」


 二人してニヤリと笑い合い、そしてオレの着替えも終わったので現実での仕事にかかる事にした。


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