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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第4部

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324「友の決断(1)」

 タクミを見つけてから3日間、旧ノール王国の南部を中心にしてタクミを魔物に慣れさせる事を一番の目的にして、魔物狩りに精を出した。


 今はこの地を治めているランバルト王国がさぼっているのか、思った以上に魔物は多かった。

 逆にランバルトの兵士の姿はないし、それどころか人の姿を見る事が無かった。

 それに一部の村落は、破壊が激しいように思えた。

 けど、ランバルト王国に近い南の方に行かないようにしたおかげか、タクミを見つけた時以外に亡者に出逢う事は無かった。


 また、間に一日置いて、タクミの槍の稽古も能力を測る意味を込めてじっくりやってみた。

 タクミは現実で今まで格闘技系の習い事はした事は無いが、中学時代は運動部だったらしく体の動かし方はそれなりに分かっていた。


 あと、一応って感じになったが、他の『ダブル』が出現していないかも探したが、荒廃した大地が広がるだけで、気が滅入るだけだった。

 まるで終末の後の世界のようだ。



 その間現実では、一度オレの講演会があった。

 けどタクミの事は伏せて、大量召還で呼ばれた『ダブル』の一人を見つけたという程度にぼかしておいた。

 ハーケンに行ったのも、『帝国』に向かう算段をつけるためと説明した。


 また、大学はまだ夏休み中という事もあって、あくまで学校から交流などの理由でちゃんと許可をもらった人に限ってだけど、夏休みのようにやって来ている人もいた。

 その中にリョウさんこと山田さんもいたが、レイ博士とうまくやっているようだ。

 けど、樹海でのパワーレベリングはまだせずに、まずはエルブルスのみんなの肖像画を描くべく、迎えに来た竜騎兵に乗ってエルブルスに居るとの事だった。


 レイ博士は、あと便の船でも色々持ち込んで、ドワーフ達と飛行船にかかりきりらしい。また、かなりの数のゴーレムも、エルブルスに持ち込んでいるそうだ。

 ゴーレム作成とかの仕事をほっぽり出していいのだろうかと思ってしまう。


 博士のことはともかく、こちらでも山田さんの描いた絵が何点か紹介されたが、オレ達個人については顔など分かりやすい外見的特徴は頼んだ通りぼかしてあった。

 それでも良く描けているということで、とても好評だ。

 オレ的には、ガトウさんやホランさんを絵という形であっても現実世界で見れた事は感慨深かった。


 まあ、オレにとってそれより嬉しいことは、文芸部本来の活動を蔑ろにしすぎたと顧問に指摘されたので、講演会が毎週火曜日の週1回になったことだ。

 何しろ二学期からは、シズさんの家での勉強と週末を中心にしたバイトがある。

 これに講演会が週2回に、それ以外で本来の部活となると、それこそ休む暇もなくなってしまう。


 もっとも、『夢』の向こうでは、毎日が日曜日もしくは毎日が全力稼働といった感じなので、緩急が付いていて特に忙しいと言う感覚もなかった。

 そしてその日の『夢』の向こうだけど、数日ぶりにハーケンに戻ってきていた。




「新たな仲間達の門出にかんぱーい!」


「「かんぱーい!」」


 何だかしょっちゅう宴会をしてる気がする。


 場所は、ハーケンの冒険者ギルド1階のホール。

 ギルド自体の業務時間は終わって、内輪だけが集まっている。

 主に大量召還でやって来たビギナーの半数程度と、それを拾って回っていた『ダブル』の面々だ。

 顔見知りは何人か居たが、自警団の人達はいない。


 なお、タクミは最後のグループの中でも最後の一人らしく、もう通常の召還以外で来るとしたら、大量の戦死者を出したノヴァ方面だろうという事だった。


「結局、何人くらい新しくこっちに来たんですか?」


「探し出せたのは、タクミを入れてちょうど2ダースってところだ」


「この3週間、もう探してばっかりだったな」


 テーブルを囲んでいるジョージさんとレンさんは、苦労したと言いたげな表情でしみじみと口にする。

 それをオレとタクミが聞いている。

 別のテーブルでは、それぞれの女子達が集まって女子会中だ。

 どうやら、新顔の悠里に話題が集中している。

 ドラグーンが珍しいという事もあり、他のテーブルからも声がかかっていた。


「で、タクミ、兄弟達と行動を共にしてみてどうだった?」


「大変でした」


 シミジミといった口調で言われてしまった。

 けど、返す言葉も無い。


「だろうな」


「実感こもりすぎだろ」


 二人が言葉と共にウンウンと頷いている。


「それと今のボクじゃあ、ショウ達のお荷物以下なのは嫌でも実感させられました」


「……なあ兄弟、加減してやらなかったのか?」


 ヤレヤレな表情と声で、ジョージさんがオレの肩に手を置く。

 レンさんは、タクミの肩を優しく叩きながら飲み物を注ぎ足している。

 二人とも分かってやっているのだけど、オレが悪者みたいだ。まあ、そうなんだけど。


「レナ曰く、オレ達全員が周りから見てハードトレーニングが当然と思いすぎてるみたいで、指摘されるまで無茶させてしまいました。ホント、マジごめんな」


「いいよ。でも、ショウは最初からあれくらいの事を毎日していたんだろ」


「いや、流石に毎日魔物を追いかけ回してたわけじゃないって。普通は一日置きくらいだったかな?」


「1日で最高の戦闘回数記録は?」


 レンさんは、そんなヌルく無いだろ的な表情だ。

 そこでもう少し記憶を掘り返す。


「ノール王国に最初に行った時は、ハルカさんと二人で1時間に1回くらいのペースで戦った事あります」


「森の中にでも閉じ込められたのか?」


 そう聞いてくるという事は、体験したかそういう前例があるのだろう。オレにも未遂で似たような体験はあった。


「半ばそういうのもありましたけど、前進する為でしたね」


「それでも前進止めなかったのか?」


「そんなとこで夜を迎えたくないでしょ」


「そりゃごもっともだが、それってオレ達と出逢うくらいの時か?」


「ですね。ジョージさん達と出逢う前後です」


「あの頃のあそこは、雑魚ばかりとは言え魔物だらけだったもんなー」


 レンさんとジョージさんが、しみじみといった表情を浮かべている。

 そして一通り感慨に耽ると、思い出したと言わんばかりの顔へと変化する。


「そう言えば、タクミを見つけた時にアンデッドの集団に襲われてたって話だが、旧ノール王国の南の方は相当ヤバいらしいぞ」


「南のランバルト王国辺りで、亡者が溢れているらしいって話ですか?」


「知ってたのか」


「タクミを探している時に、悠里達がアースガルズ王国の哨戒中の兵隊から話を聞きました」


 両手を飛行機っぽくするゼスチャーを添えると、空でランデブーしたってのも分かってくれた。


「なるほどな。ただ、当のランバルトから情報が出てこない。で、冒険者ギルドが方々に探りを入れると、あの国自体が混乱中らしいって話が出てきた」


「そうなんですね。アースガルズも情報が入らないから、境界線の警備を強化してるらしいですよ」


「だが、おかしな話だ。仮に国が機能してなくても、こういう場合は神殿が迅速に動く筈だ。アンデッドが溢れたなんて話が出れば、神殿騎士団が動かない筈がない」


「白血球みたいな連中だもんな」


 男4人、いやタクミはまだよく分かってないので、3人が腕組みしそうな感じで思わず考え込んでしまう。

 まあ、考えたところでどうにかなるわけでもないので、下手の考え休むに似たりというやつだけど。


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