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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第4部

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322「スパルタ・レベリング(1)」

 オレ達の目の前で、4人の美少女が静かに寝息を立てている。

 オレは結構見慣れているが、なかなかの絶景だ。


 4人はたき火を挟んだ反対側で毛布にくるまっていて、ごく僅かに揺れる火の照り返しを受けて彼女達の影も僅かに揺れている。

 魔導器のキューブが魔力で人化しているゴーレム扱いのクロとアイは外で番をしているので、今はタクミと実質二人きりだ。


 一巡目を少し長い目にした上での夜番の二巡目で、すでに向こう、現実で普通に一日過ごした後なのだけど、タクミのテンションはまだかなり高いままだった。

 最初の夜番のシズさんと悠里が起こしてくれたが、オレが先に悠里に足蹴同然で少し手荒く起こされた後に、シズさんに起こされたタクミは、二、三度目をしばたたせ現実感がないという表情をしていた。

 まあ、憧れの女性に初めて起こされたのだから、男の子としては色々思うところもあるだろう。


 そのタクミは、木材ばらして作った薪を焚き火に足している。


「なあショウ」


「なんだ?」


「ホントに異世界なんだよな」


「オレは別の世界だと思ってる。けど、それこそ単なる症候群の一種って思う人もいるらしいし、ゲームみたいだって思う人も多いみたいだから、心の持ち様じゃないかな」


「腹ぺこになったりトイレしたりとかでヴァーチャル・ゲームって感覚はないけど、まだ現実感は持てないな。ショウみたいになるのは、どうしたらいいと思う?」


「そう言われててもなあ」


 こっちに来た頃のオレのような感覚からくる質問かと思えば、思いの外深刻な質問を投げかけられてしまった。

 けどオレは、がむしゃらに走って来ただけで、今寝てるみんなの方がタクミの質問に答えをくれそうだ。


 タクミもそれは分かっているのかもしれないけど、敢えてオレに聞いてきたって事は、オレの言葉を聞きたいのだろうくらいは分かる。

 少し考えて、思いついた事を口にする事にした。


「この世界の人と積極的に接して、出来れば仲間や友達とか深い関係になったらいいんじゃないかな? みんなは、だいたいそんな感じだし」


「ショウもか?」


「どうだろ? 突然領主になったりもしたけど……あ、でも友達は一人出来た」


 自身の言葉で、アクセルさんの姿が思い浮かぶ。

 一見完璧イケメンで笑顔を絶やさない人だったけど、話していると普通に人間臭かった。


「こっちの人の?」


「うん。正確には友達になってくれたんだけど、その人と色々話して現実感持てたところはかなりあったよ」


「なるほどなあ。旅して魔物倒してってだけじゃダメなんだな」


「どうだろうな。ほとんどの『ダブル』は、現実でのストレス発散場所くらいにしか思ってないって言うからな。地に足をつけて生活してる人は別だろうけど」


「うん。ちょっと方向性が見えた気がする。でさ、話変わるけど、いつもこんな感じか?」


 一転して少し軽い口調になった。

 次の話題は、男女の事、エロい事だと察しの付く話し方だ。

 中学生の頃の部活で、泊まり込みの時などにあった雰囲気だ。中学の修学旅行でも、似たような事はあったかもしれない。


「信頼関係が大事って身に染みて分かるだろ」


「それはそうだけど、ぶっちゃけよく我慢出来るな。しかも最初は、ハルカさんと毎日二人きりだったんだろ」


 何だか尊敬のこもった目線だ。取り敢えずドヤっておく。


「おう。めっちゃ努力したぞ」


「努力だけで済むのか? ショウって聖人君主かゲイのどっちだ?」


「どっちでもないよ。ハルカさんとはつき合ってるし」


 オレの言葉に、タクミがハルカさんの方に顔ごと視線を向ける。

 その先ではボクっ娘と二人で寄り添った状態で寝ていて、仲のいい姉妹に見えなくもない。


「まあ、これだけ可愛ければ頑張れるかもな。でも、他の娘もめっちゃ可愛いじゃん」


「そういう事、寝てるとは言え目の前でよく言えるな」


 ちょっと呆れてしまう。そういうシチュエーションじゃないと、オレはまだ無理だ。


「そりゃあみんな今は向こう、現実にいるから起きる心配もないんだろ。ある意味安心して話せるんじゃないのか?」


「そりゃそうかもだけどさ」


「で、ハーレムじゃないんだよな」


 何度も聞いた質問に、思わずガックリくる。


「タクミまでそれ聞くか? んなわけあるか。それと、みんなに失礼だから、冗談以外でそんな事言うなよ。あと、悠里は妹だ。

 それに、向こうでも話したけど、オレのヒエラルキー一番下だし」


「これだけ男女比があれば、男の立場はないよな。じゃあさ、オレがシズさんにアプローチしてもいいんだな。なんかさ、シズさんもショウに気が有るように見えるんだけど」


 タクミがシズさんに気が有るのは分かっていた事だけど、寝てるとは言え当人を前によく言えるものだ。

 それにハーレムの件は、今の言葉を言うための前振りだったのだとオレにも理解出来た。


「シズさんは、オレとハルカさん、レナに恩を感じてくれてるだけだよ。まあ、今のタクミよりは親しくはあるだろうけどな」


「恩ね。やっぱり込み入った話?」


「色々な。けど、シズさんやみんなにも迂闊に聞いたりするなよ」


「分かった。でもさ、ショウから色々話し聞いてて、シズさんの加わった頃を考えると、けっこう推測できるんだけど」


「だとは思うけど、踏み込んでいい事とダメな事があるだろ」


 それくらいはタクミも分かっている筈だ。その証拠に小さく溜息をつく。


「……そう、だよな。でもさ、いずれ聞けたり、話してもらえるかな」


「うん。その辺は現実と同じだと思う」


「で、信頼関係って話に戻るのか?」


 タクミの言葉に強く頷く。

 分かってくれたようだ。


「うん。戦いになったら背中預けるし、信頼無しで無茶な戦いも出来ないぞ」


「ショウが言うと重みが違うな」


「だろ。だから今は、可愛い寝顔見るだけで我慢してろ」


「りょーかい、先輩」




 その翌日、ハーケンには戻らず野営した辺りで活動した。

 その日だけでなく、2、3日はタクミにこの世界での冒険を体験してもらうべく、また念のため他の新たな『ダブル』が居ないかを探すのが目的だ。


 移動するのは、何か言われた時の為にアースガルズの勢力圏もしくはそうと思われる場所に限り、アンデッドに出くわした時はタクミ以外で対処する方向で動く。

 そして魔物がいそうな森などに降りて探すが、オレ達はサポートに徹してタクミに色々と実地で教える事に終始する。


 ただし、ボクっ娘には一度ハーケンに行ってもらって、タクミを見つけた事の報告と数日間活動する為に足りない物、主に食料とタクミ用の旅の一式、それに昨日のアンデッドの鎮魂の為の諸々を調達してもらった。


 このためオレ達は、いかにも魔物が沢山出そうな森の側で降りて、そこから森へと入る。

 ライムのいる悠里だけは別行動で、他の場所で魔物を探してもらっている。


 と言う訳で、森の中を進むのはオレ、タクミ、そしてハルカさんとシズさんだ。他にシズさんから決して離れないアイがいる。

 クロは念のため悠里付けてある。


「これって、ボクの為のパワーレベリングだよな?」


 前を歩かされているタクミが、横に並ぶオレに問いかける。

 隊列はオレとタクミが前列、真ん中にシズさんとハルカさん。後衛をアイが守る。


「体験実習くらいの気持ちだよ。それとオレもまだ三ヶ月だから、魔力自体の吸収率は高い筈だけど、どう思う?」


「そうね、ショウも魔力の低い魔物相手だと吸収率は大きく落ちてると思うわ。ねえ」


「そうだな。タクミ君に優先的に吸収されるだろうな」


「でも、倒すのは殆どみんなですよね」


 タクミは微妙な表情だ。一人前扱いしてないせいだろう。


「少数だと逃げられるし、多数で追うのは仕方ないだろ」


「まあそうだけど、アニメのミサイルみたいに魔法が沢山飛んでいくと、ちょっと自分の存在意義を疑うよ」


「気にするな。今はオレも同じ状態だ」


 軽く肩をポンポンと叩いてやる。

 けど、そこをハルカさんに指で頭を小突かれる。


「サボってないで、イザって時は守ってあげるのよ」


「分かってるって。……あ、次が来た。ちょっと多そうだな」


「ならちょっと待て」


 オレの高性能な視力が捉えた魔物の群れに対して、シズさんが言葉とともに探知の魔法を使い、正確に測定する。


「雑多な下級の魔物と魔獣の集団だな。私とハルカで左右に分かれて魔法で追い立てて、タクミ君の前に持って来よう」


「じゃ私は左に。ショウ、くれぐれも頼むわよ」


 言うが早いかハルカさんが走り出す。

 シズさんは、自力だとどうしてもみんなより遅いので、アイにお姫様だっこされて右側へと向かう。


「と言う訳で追い込み漁だ。溢れた分はオレが何とでもするから、前に来る奴らを接近戦で倒していってくれ」


「槍の魔法はダメかな」


「ダメじゃないけど、直に倒すのを慣れないと意味ないぞ」


「だよな」


 気弱げな苦笑いだ。タクミらしくないが、仕方ないところだろう。

 オレ的には、タクミがシズさんに良いところ見せたいと思っているんなら大丈夫と思える。けど、タクミはそう思ってないのか、思える程の余裕すらないのかもしれない。


「まあオレと違って、前兆夢で感覚とか諸々体験済みなんだろ。そんなに気負わずにいけよ」


「おう。サポート頼むな」


「ガンガン行っていいぞ。多少やられても、ハルカさんがすぐに治してくれる」


「気楽に言ってくれるなよ」


 タクミは冷や汗を少しかいているが、それでも口元に無理矢理笑みを浮かべるだけの根性はあるんだから大丈夫だろう。

 そう思いつつも、初戦で目の前しか見えないであろうタクミのサポートを徹底しようと、神経を魔物に集中する。


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