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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第4部

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308「ハルカの旧友」

「なんか便利すぎて、ここが『アナザー・スカイ』だってのを忘れそうだな。どっかのアミューズメントパークに来たみたいだ」


「それ、何か分かる。ここ他と違うよな」


「だよな。ハーケンでもちょっとそんな雰囲気あったけど、それでもやっぱりこっちの世界って感じがしたけど、ここは半分現実世界だ」


「買い物には便利だけどなー」


「フフっ、やっぱり兄妹だな」


「シズさんっ! たまたま意見が一致しただけです!」


 シズサンの突っ込みに、悠里がマジ返ししてる。

 ただ、オレの気持ちに偽りはなく、ここはオレがこの世界で過ごす場所じゃないというのが偽らざる心境だ。

 ここは来る場所ではあっても住む場所じゃない。


「なんか、レナの言葉がしっくりきたよ」


「んー? ボク何か言ったっけ?」


 そう言って首を傾げる。まあ、確かに主語抜きじゃあ分からないだろう。


「たまに立ち寄る街だって言ってただろ」


「ああ、それか。ショウもそう思うの?」


「うん。最初にこの街に来なかったせいかもしれないけど、なんか地に足をつけにくい感じがする」


「空を見上げ、異世界なのを実感する世界だがな」


 シズさんの言葉に、全員が何となく空を見上げる。

 まだ昼間だけど、東の空の地平線近くには、白く大きな月が早くも上りつつある。

 『アナザー・スカイ』の由来となる、巨大に見えるこの世界の月の一つだ。



 この時点で、既に諸々の買い物はほぼ終わっていたので、ちょっといい感じのレストランで食事を済ませると飛行場へと戻った。

 そして飛行場に戻ると、既にリョウさんが待っていた。


 足下には、かなりの量の荷物が置かれている。

 しばらくレイ博士の家に厄介になるので、その準備のための荷物だ。仕事の状況によっては、住み込む事も考えているらしい。

 今朝も、現実世界で学校通うために上京した時みたいだと、少し興奮気味に話していた。



「ごめんなさい。話が弾んじゃって」


 戻るなり頭を下げたハルカさんが戻って来たのは、昼の三時頃。7つ半の鐘が鳴った後だった。

 しかも彼女と一緒に、二人の女性が同行していた。

 その後ろでは、護衛に付けたクロが、大量の荷物を抱えつつも器用に恭しい一礼をする。


 同行者の一人は、ハルカさんと似た神官の法衣をまとった、ふわふわ栗毛の柔らかな雰囲気の女性だ。

 ちょっとだけ、こういうイメージの女の人が本当にいるんだと思わせる雰囲気を持っている。


 もう一人はショートヘアの黒髪の闊達なイメージの人で、現実世界でよく見かける普通のお姉さんっぽい。衣装もファンタジー感は少なく、どこか現代風だ。

 そして二人とも、それぞれオレ達に興味深げに視線を注いでいる。


「ハルカ、紹介してもらえる?」


「どっちが彼氏さん?」


 元気な口調の関西なまりの言葉に、数歩離れた場所にいたリョウさんが首を強く横に何度も振る。

 そうすると、彼氏発言の元気そうな女性が、オレにさらに強い視線を注いできた。

 柔らかな雰囲気の女神官も、同じように品定めを始めている。


「彼はショウ。順にレナ、シズ、ユーリちゃんね。あっちの彼は、レイ博士の家まで送る人よ」


「初めまして、私はハナ。見ての通り神官です。ハルカちゃんがいつもお世話かけています」


 そう言って両手を体の前に添えて丁寧に頭を下げる。どう見ても、日本人のお辞儀だ。


「うちはルリ。ハルカの昔の冒険仲間や。それにしても、ごっついパーティーやなあ」


 ルリと名乗った関西なまりの元気な口調の女性が、オレ達の向こうにいるヴァイスとライムも見ながら、目を大きく開けて感心している。


「初めましてショウです」


「ボクはレナ。あっちの白いのが相棒のヴァイスだよ」


「悠里です。よろしくお願いします。あの子はライムです」


「シズだ、よろしく頼む。で、彼女達も博士の家に?」


「いいえ、お見送りだけよ。オタク博士の家は嫌だって」


 その言葉に、ハルカさんの友達達が小さく笑う。

 3人は自然な雰囲気で、友達同士と言った感じがする。


「そっかー、これが今のハルカのパーティーかぁ。もう次元が違うって感じやね。

 あ、ご免な。うちは冒険リタイア組で、こっちで普通で暮らしてるねん。居酒屋してるから、今度ノヴァに来る時に寄ってんか。サービスすんで」


「私はタカシさんの神殿に勤めています。本当ならハルカちゃんにも来て欲しいのだけど」


「嫌よ、あんな性欲魔人のところ」


「既婚者には手は出さないから大丈夫。私もそうだし」


 なるほど、こっちでの既婚者の友人というのがこの人なのだろう。


「アッハハハハっ! ハルカ変わらへんなー。ショウ君、ハルカの相手は大変やろ」


 ルリさんは、喉の奥が見えるくらいの勢いで元気に笑う。そしてそういう仕草の似合う人だ。

 しかもさらに、右手でオレの二の腕をバンバンと勢いよくたたく。


「そんな事ないですよ。世話をかけてるのはオレの方ですから」


「アララ? 君、ほんまに今時の子かぁ? 殊勝すぎへん?」


 ルリさんが、元気にポンポンと言葉を投げて来る。

 今は陽気な居酒屋の女将っぽいが、『ダブル』としては戦闘職をしていた感じがする。


「まだ高校入ったばかりです。だから、何も知らないんで、教えてもらう事ばかりですよ」


「そおかぁ。けどハルカやったら、昼間の事しか教えられへんよな。ハルカ、ほんま宝の持ち腐れやから」


「フフフっ、ハルカちゃんは慎重なのよ。だから大切にしてあげてね」


 二人の言葉は、単にハルカさんと仲が良い以上の感じだ。

 お互いをとても大切にしている雰囲気が、口調からも伝わってくる。

 ハルカさんも「もうっ」とか言って拗ねているが、二人に甘えているだけだ。


「も、勿論です。ていうか、してらもってるのはオレの方ですよ」


「いい子ね。皆さんも、ハルカちゃんをよろしくお願いしますね」


「ほんま頼むで。ハルカは自信家なとこあるから、危なっかしいんよ」


「もう昔と違うわよ」


「ほんまかいな」


 なんだか、外野のオレ達は半ば3人の会話を見ているだけだけど、シズさんもボクっ娘も優しい目でハルカさんを見ている。

 悠里だけは少し呆気に取られているが、これは人生経験の差だろう。

 そうして暖かく二人に見送られて、ノヴァの飛行場を後にする。



「あの人達が、前言ってたハルカさんの友達なんだな」


「そうよ。あとこっちに残ってる親しい友達は、リンとマリを含めて数人ね。評議会と神殿には、顔見知りや知り合いは結構残ってたけど」


 ライムの背に3人タンデムに乗りながら、のんびりとした会話を交わす。


「意外に残らないんだな」


 心からの言葉だけど、ハルカさん、シズさんにとってはそれが当たり前といった雰囲気だ。


「10年くらいが限度って言うけど、実際のところ5年残る人は少ないってのが体感的な感想ね。命を落とすか飽きちゃうってのがやっぱり多いし」


「この世界で、何かやりたいとかの目的があるって人が少ないって事か」


「何かをしなくても、無くしたくない生活があると残ってる場合も多いわね。ハナがその口ね」


「ルリさんは?」


「ルリは変わってる方かも。今は普通にお店してるだけだけど、私よりずっと長いし」


「私、ライムとずっと一緒に居たいです」


 オレ達の前でライムを操る悠里が、かなり真剣な表情でこっちを見ている。

 こいつにとってライムは、現実世界で死んだ飼い猫のライムの生まれ変わりだからだ。

 ハルカさんもそれを知っているので、目を細めて優しく微笑んでいる。


「飛行職の人は、ユーリちゃんみたいな人が多いみたいよ」


「えっ? ライムみたいなのが多いんですか?」


「生まれ変わりかは分からないけど、相棒が好きで離れられないって人がね」


「あ、なるほど。それ分かります。私も、ライムが生まれ変わりじゃなくても、離れたくありません」


「その気持ちを忘れない限り、大丈夫と思うわ」


 ハルカさんの優しい言葉に「ハイっ!」と元気に返している。

 まあ今の悠里ならそれで十分だろう。


「なに満足げな顔してるの?」


 一番後ろのオレに、ハルカさんのいつもの半目の視線が突き刺さって来ている。

 満足げな顔かどうかはともかく、オレ自身は何の心配もないということを、ちゃんと伝えるべきだろう。


「そりゃあ、オレはドロッップアウトの心配の必要はないなーって思っただけ」


「一回ドロッップアウトしかけたくせに」


 まだ半目の視線のままだ。

 この件に関して、オレは頭があがらないのを知っての事だろうが、責めているわけじゃなくて、何か言葉が欲しがっているだけだろう。


「それを言われると弱いけど、もう大丈夫」


「なに? 試練を超えたオレ様はもう無敵とでも言うの?」


 からかい半分の言葉だ。こっちに向けた横顔も、同じ様にからかう感じだ。


「違うよ。オレにはハルカさんが居る。それにみんなも」


「ハイハイ。ていうか、そういう浮いた台詞を口にするなら、私だけに限定しなさいよ」


「あのー、そう言うのは、出来たら二人きりでしてください、ハルカさん」


「あっ、ごめんなさい」


 一番前から悠里の配慮した声というのも珍しいが、そう言えばハルカさんが二人きりじゃないのにイチャイチャするのも珍しかった。

 昔の友達に会えたのが嬉しくて、テンションが上がっていたのだろう。


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