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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第4部

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303「初デート(1)」

 朝、いつもの朝の日課の記録を終えて洗面台の鏡の前で髪に櫛を通していると、妹様も起きてやってきた。

 そして少しの間、洗面所の入り口辺りでオレを凝視する。


「……朝からテンション高くね?」


「いいだろ、今日は初デートなんだ」


「高校生にもなって初めてとか、恥ずかしいんですけどー」


 口調と仕草も合わせ、これ見よがしに煽ってくる。

 しかし、もうオレにその手は通用しない。


「恥ずかしくない。人それぞれだ」


 それでも少し胸を反らし気味に返してしまうと、一瞬どうでもいー的な視線のすぐ後、以外に真面目な表情に変わる。

 朝からよくそれだけ表情を変化できるものだ。


「ハイハイ。けどさ、玲奈さんとはいつも会ってるし、二人っきりの時間も結構作ってるだろ」


「それはそれ、これはこれだ」


「あっそ。まあ、それはいいけど、よく切り替えできるな」


 朝から妹様との言葉の応酬だけど、流石に今の言葉はオレには重いものがある。

 切り替えとは、あっち、『夢』の向こうでの事を言っているから。

 少し言葉に詰まっていると、妹様が苦笑していた。


「まあ、そういう顔できるなら、少しは見込みあるんじゃない」


「何の見込みだよ。オレだって色々悩んでるんだぞ」


「悩め悩め。勉強で悩まないんだからな」


 どうしてこうも上から目線なんだろう。

 1才の差だから、そんなに変わらないのは確かなので、こっちも子供じみた反撃を試みる事にする。

 

「言ってろ受験生。それと、今日の自習ちゃんとしとけよ」


「言われなくても分かってるっての。シズさんの勉強サボるわけないだろ!」


「それもそっか」


 妹の悠里に言ったように、今日はシズさんの都合で家庭教師は休みだ。その代わり明日悠里はみっちり勉強を見てもらう予定だ。

 オレ達も午前中は、今日の代わりに勉強を見てもらう。


 一方で夏休みも残す所あと数日なので、消化試合的雰囲気だ。

 けど今年は宿題は完了しているし、1学期の復習どころか2学期の予習も少しできているので、精神的余裕がハンパない。


 だから今日1日はデートを存分に堪能する予定だ。

 バイト代もたっぷり入って軍資金も豊富なので、なんでもござれの気分だ。

 思わず下着選びまで気合が入るほどだ。

 そして普段の数倍服選びと身だしなみに時間をかけて、待ち合わせの隣駅へと向かう。



 10分ほど待ち合わせ時間より早く到着して駅の改札の中側へ来ると、軽い違和感に襲われた。

 お互いを認めて近づいてくる女の子が、オレの想定から外れているように錯覚したからだ。

 いや、錯覚などではなく、玲奈ではなくボクっ娘のレナに見えた。


 そして改札を通り目の前まで来ると、さらに混乱が広がった。

 玲奈とボクっ娘を、足して二で割ったような姿だからだ。

 特に髪を切って髪型をガッツリセットした状態は、色こそ違えボクっ娘にそっくりだ。


 服装もTシャツの上にミリタリーぽい腰までの短いノースリーブのジャケット、下はホットパンツにオーバーニーハイ。

 靴はさすがにロングブーツじゃないけど、可愛いデザインの革のカジュアルシューズで服に合わせてある。


 メガネだけはそのままだったが、目の前に来るとメガネをゆっくり外す。

 ボクっ娘そっくりだけど、思った通り髪型を変えるとすごく印象が変わり、可愛さが前面に押し出されている。

 そしてメガネを外すとさらによく分かったが、いつもと違ってメイクもしっかりしていた。

 ナチュラルメイクというやつだけど、詳しくないオレでも気合いの入り具合も分かろうと言うものだ。


「ど、どう、かな?」


 顔を耳まで赤くして、さらに俯きながら上目遣いで聞いてくる様は、めちゃくちゃ可愛い。

 ていうか、耳や首筋が大きく見えてるだけで新鮮だ。

 思わずボーッと見とれてしまう。


「月待君? あの、私が誰だか分かる、よね?」


「あ、ああ、勿論! めっちゃ可愛いから見とれた」


 もう月並みな言葉しか出てこない。

 そしてオレの言葉に彼女の顔にさらに朱が刺すが、紅潮するとさらに可愛さがアップする。


「そ、そんな! でもね、分かると思うけど、もう一人の私っぽくしてみたの」


「うん。それも分かる。てか、最初は二人が混ざったのかと思ったくらい」


「混ざってないよ。あ、じゃあ、最初にボクって言ったら戸惑ってた?」


 少し悪戯っぽい視線がまた可愛い。姿を変えた事で、少し大胆になっている事自体も魅力的だ。

 けど、玲奈であってボクっ娘じゃなかった。


「かもな。けど、仕草というか全体の雰囲気はやっぱり違うから、すぐに分かったとは思う」


「ここまで似せても?」


 と、視線を落として自分の姿を見る。

 そして少し恥ずかしそうに顔を赤らめてもいる。

 玲奈にとって、露出度と体の線がかなり出る事の双方は、相当な冒険のはずだ。


「うん。そういうところは、やっぱり別人だと思う。玲奈は玲奈で、ボクっ娘はボクっ娘だよ」


「そうなんだ。シズさんに頼んで頑張ったのに、ちょっと残念かも」


「めっちゃ嬉しいよ。けどさ、その髪」


 残念と言いながら、メガネをかけ直す。さすがにコンタクトにはしてなかった。

 ただ、女の子が髪を沢山切るのは、相当覚悟や決意がいると聞く。髪型までが大きく違っていたら、もう並大抵ではないだろう。

 もしくは、そんな事もないという話もあるので、迂闊に髪を切った事を聞くのは失敗かもと思ったが、玲奈自身は特に気にした雰囲気ではなかった。


「うん、昨日シズさんに付き添ってもらって、シズさんの行きつけの美容院でセットしてもらったの。でもね、このセットは夏休みの間だけだよ。調子乗ってるって弄られそうだし」


「髪短くしただけでも、あいつに弄られそうだよな」


 1学期の終盤に玲奈がグループ入りしたメンバーのリーダー格の女子は、好意的だろうけど弄ってくるのは間違いない。

 他にも弄ったりする奴いる筈だけど、それを覚悟でバッサリと切ってきたのだ。

 そしてオレは、その覚悟を受け止めないといけない。


「その髪型は向こうで見慣れてるけど、あっちのレナと同じなのに雰囲気とか違うだけで全然違って見える。すげー可愛いよ」


「ホント? じゃあ頑張ってよかった」


「うん。もう、今日は全部奢らせて欲しいくらい」


「それはダメだよ」


 目でもダメだと言っている。これは逆らってはいけないサインだ。


「りょーかい。けど、飯とかここぞって時は奢らせてくれな。オレの懐は、今までにないくらい温かいからな」


「じゃあ、そこは期待してるね」


「おう。じゃ、行こうか」


「うん」


 手を差し出すと、彼女も最初だけぎこちなく小さな手で握り返してきて、あとは歩くときはずっと手をつないだままだった。

 流石に、まだ指を交互にする恋人繋ぎはしなかったけど、したら逆に恥ずかしかったかもしれない。


 それはともかく、そのまま電車を乗り継いで目的地へと向かう。


 第一目的は、海辺ではなく街中にある水族館。

 午前中はその水族館を楽しみ、リサーチしておいた店でお昼を食べたらそのまま付近で買い物、アミューズメント、スイーツが売りのカフェなどの予定だ。

 とはいえ健全な高校生なので、夕食までには帰宅予定だ。


 もう一連の流れは、青春ドラマなら軽やかなBGMに乗せて映像化されるレベルだろう。

 ていうか、爽やかな脳内BGMが流れてそうなほど舞い上がっている。


 向こうでは沢山の女の子と一緒に旅をしているが、こういう感じはハルカさんと出会った頃、オレが一方的に少し感じた事があるくらいだ。

 ただこっちでは、向こうのことは極力考えないようにしている。

 例外は玲奈の方から何か聞いてきた場合と、どうしても報告しないといけない事がある場合だけと、自分の中で決めている。

 なので何もかもが初体験と思って、高校生らしい清いデートというものを満喫した。


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