292「空の眷属達」
そうして飛行場でしばらく待っていると、次々に2騎一組で、竜騎兵と疾風の騎士が戻ってきた。
今回の戦いでは合計30騎が参加して、今はうち3分の2が偵察に出ていたそうなので、10カ所もしくは10方向の偵察をしていた事になる。
そして10分ほど待っていると、最後から2番目に戻ってきた他より大柄な巨鷲は、その足に飛龍の首を抱えていた。
乗っているのは大柄な見た目30から40歳くらいの男性、ハゲ頭は兜で判らないが「空軍元帥」だ。
今の偵察で、戦果を挙げてきたらしい。
「おお、これはエルブルス辺境伯達じゃないか。良き知らせに感謝するぞ」
なかなかに上機嫌だ。それ以前に、二日前と違って、どこか対等に応じてきている気がする。
「こんにちは空軍元帥さん。何かいましたか?」
「うむ。少佐、本陣に帰投の報告を頼む。私は辺境伯と話がある」
「ヤヴォール」
敬礼して去る空軍元帥の部下から、何か聞き慣れない返事が出てきた。
まあ気にしたら負けだろう。
「わざわざすいません。それで敵の援軍ですか?」
「ああ、辺境伯の言う通り、ではないな。予想通りだった。昨日戦った連中より多いんじゃないかな。けど空軍力は貧弱だ。
これは辺境伯達が、連中の先遣隊のトカゲどもを叩いてくれたお陰だな。あまりに貧弱なので、あの通り私も敵の首を所望してきたところだ。乗っていた悪魔の方は、我が天鷲が喰ってしまったがな」
なかなかに上機嫌にまくし立てていく。
大柄なデブでハゲだけど、目元のイメージが戦闘中のボクっ娘と少し似ている気がする。
見た目はともかく、このおっさんも空の眷属だ。
「そうでしたか。敵発見と戦果おめでとうございます。それと、オレ達は別件で来たんですが、今しがた空からの追撃がある場合に協力要請を受けたところです」
「なんと、それは心強い。しかし、辺境伯の家臣達が見えないようだが?」
「オレ達は、西のレイ博士の館を拠点にしてます。だから、明日早朝もそこから、出発、じゃなくて出撃予定です」
「なるほどな。では、明日の朝空で落ち合えるということか。となれば、あの派手女はまだ戻ってないようだが、何もなければ辺境伯には我が空軍の左翼をお任せすることになるだろう」
「元帥、あの派手女、が戻ってきたみたいだよ」
会話に加わらず樹海の空を見ていたボクっ娘が、視線を変えることなく報告だけ口にした。
かなり平坦な口調で、関わりたくないというオーラすら放っている。
それによく考えると、さっきから空軍元帥と話しているのはオレだけだ。
それに疾風の騎士達も、見た限り全員男性だ。空軍元帥には、女性から距離を置かれる何かがあるのかと思わず勘繰りたくなる。
まあ、オレがどうこう言うことでもないだろう。
それに今は火竜公女さんの帰りを待って、大まかでも話を決めた方が明日段取りやすいというものだ。
「アラ、揃ってお出迎えなんて痛み入りますわ」
「フンっ、辺境伯が飛行場に居られたからだ」
形としてはオレと空軍元帥で出迎えていて、ハルカさんたちは一歩下がった場所にいる。
話はもう決まっているし公式の場でもないので、シズさんもサポートなどする必要も感じてないのだろう。
「アラ、そうですの? それで、揃ってお出迎えの理由は何かしら?」
「言うまでもないだろう。辺境伯達が知らせてくれた敵の情報が知りたい」
「せっかちね。会議で報告致しますのに」
ポンポンと会話を続けそうなので、少し強引に割り込まない無理だと悟って突撃する事にした。
「あの、すいません。オレ達、今からレイ博士の館に戻らないといけないんです」
「アラアラ、それなら先にお話しした方が良さそうね。それでは、明日の追撃にエルブルス辺境伯も参加されるのかしら?」
「ええ、今さっき要請を受けてきました。明日は1日戦闘に加わります」
「それは頼もしいですわ。それで?」
言葉とともに両手を「パンッ」と胸の前で軽く合わせ、嬉しそうに微笑む。
「うむ、辺境伯達には左翼を任せようかと思う。私と男爵婦人で、中央と右翼だ。それで、そちらにも連中はいたか?」
「ええ、概算で4000から6000と言ったところね。もうお帰りのようでしたわ。そちらにもと言うことは、魔物の方々は私達をサンドイッチにする積りだったのね」
「フンっ! 明日は空からプレスしてやる!」
両手を上下でパシッと叩き、空軍元帥が問題発言だ。
これはボクっ娘がした禁忌を、同じように破ると言っているに等しい筈だ。やはり魔物相手だと、問題もないのだろうか。
火竜公女も、咎めるより興味深げな表情だ。
「今日はしてこなかったの?」
「中途半端にしても、ばらけていて効果半減だ。囲って、追い詰めて、それからプレスだ!」
そう言って再び両手を「パンっ!」と元気よく合わせる。
「一網打尽、ね。元帥が好きそうな作戦だこと」
「ああ、その通り。一撃で捻り潰してやる」
空軍元帥が肉食獣のような獰猛な笑みを浮かべる。
一方、火竜公女は空軍元帥の言葉に肩を竦める。
「私達は、獲物を追い立てる猟犬役って事ね」
「いつも地上戦では主役なのだ。たまには良いだろう」
「たまには、ねえ。少年はそれでよろしくて?」
流し目の様にこちらを見てくる。何か言えということだけど、深入りしない方が良さそうだ。
「オレ達は竜騎兵がほとんどですし、基本手伝いをするだけですから」
「少年が良いと言うなら、私も受け入れましょう。魔物なんて誰が倒しても同じですし、楽に勝てるならそれに越したことはありませんものね」
「決まりだな。では男爵婦人、作戦会議に向かおうではないか。それでは辺境伯、また明日戦場で会おう!」
「はい。明日よろしくお願いします」
「こちらこそ。また明日、空でお会いしましょう」
先に歩き出した空軍元帥を、火竜公女とその部下の人達が追っていく。
周囲でそれとなく見ていた人たちも、ノヴァの有名人が去るのに合わせるように散っていった。
(これでようやく、今日はお役御免か)
周りの様子を見つつ思ったが、みんなも同じだった。
「お疲れ様」
「じゃ、帰ろっか」
「皆にも、明日のことを伝えないとな」
「早く帰りましょう。日が暮れちゃいますよ!」
すでにライムの背に乗っていた悠里が急かすので、オレ達も急いで帰るのが良さそうだ。





