289「協力要請(1)」
魔の大樹海外縁にある中央砦に着くと、翼竜の先導で側に設置されていた簡易飛行場にすぐに着陸できた。
もうここでは、白い巨鷲と蒼い飛龍は有名になっている。特に市民軍の人たちは、飛んできた時に手を大きく振ってくれたりもした。
そして少し意外なことに、博士の館に向かう前の幹部会議の時と違って、『ダブル』の冒険者や騎士団に属している人達からも、すれ違い様に気軽に挨拶されたり、口先だけではない好意的な歓迎を受ける。
2日前とは雰囲気がかなり違っていた。
「なんだか、ボク達への雰囲気が違うね」
「だよな。ラスボス倒した上に森林火災で迷惑をかけたから、さらに評価が落ちているものだと思ってたけど」
「同じ戦場にいなかったからじゃない?」
「単に勝ち戦の影響じゃないのか?」
「そうよね。心に余裕も出ているだろうし」
みんな同じように思っているらしく、シズさんの言う通り勝ち戦というのが大きいように思える。
なお飛行場には、砦を守る最低限以外で巨鷲と飛龍はいなかった。ちょっと聞いてみると、みんな急ぎ偵察に出ていたからだ。
だから、火竜公女も空軍元帥も見かけることはなかった。
とにかく、オレ達5人プラス2体は飛行場に降りると、すぐにもジン議員かリンさんに会えるように話を付けてもらう。
ただしクロは、出るときにキューブにしてある。
アイの方は、近くで注意深く見ない限り、普通の全身甲冑の女性騎士にしか見えない。
それでも女性ばかりだからか、周りからの視線が多い。
そうして視線に晒され待っていると、すぐにも伝言を頼んだ兵士の人が戻ってきて、そのまま案内された先は天幕の中の作戦会議場だった。
先日と違って天幕なのは、会議をしている人数がかなり少ないからだ。
ごつい身体にごつい鎧の人は、総司令官のゲンブ将軍。額の広いお洒落さんが参謀や軍師格のニシ大佐だ。それにジン議員と冒険者ギルドのリンさんもいる。
他は、前の会議で見た人たちが数名いたが、役職を示す腕章などを見る限り、みんな大隊長かそれより偉い人ばかりのようだ。
それに初めて見る人も1人いる。
この人は他と違って揃いの軍服ではないので、冒険者ギルドか普通の人だろうと目星をつける。
「ジン議員に伝えていなかった火急の件があるとの事ですが?」
代表してニシ大佐が、オレ達に問いかけた。
そしてニシ大佐が口を開いたので、こちらもオレではなくシズさんが一歩前に出る。
これは、エルブルス辺境伯のオレは参謀より格上だぞという、オクシデント世界での上流階級の作法に則ったものだ。
「ジン議員が、火急の要件が出来たとの事で我らの前を後にされた故、伝えられなかった件を急ぎ伝えに参った次第。お聞きいただけるだろうか」
「勿論です。お伺いしましょう」
相手が獣人で『ダブル』ではないと思っているので、ニシ大佐は少し態度と姿勢を改める。
そして横のごついおっさん、ではなくゲンブ将軍とジン議員も首を縦に振ったので、シズさんがさっき話した内容のうち北の方の話と今後の推論を除いたものをこの世界の上流階級の言葉にして話した。
内容自体は同じなのに、何か異世界を思わせる。
こういう所は、以前この世界の国に仕えていただけの事はあると思わせる。
「なるほど、お話よく分かりました。加えて、よく知らせて下さいました。ノヴァ評議会並びに軍を代表して、エルブルス辺境伯にお礼申し上げる」
ゲンブ将軍が、こちらもオクシデント世界の作法に則ったお礼を口にする。
すごく堂に入っていて、態度や仕草には微塵の隙も感じられない。本当に、向こうで普通のおっさんの『ダブル』なのかと疑うレベルだ。
おかげで天幕の中は、すっかりこの世界の雰囲気になってしまった。
けどその雰囲気を、オレが初めて見る人が強引に強行突破してきた。
「まあまあまあ、お互いお堅い態度はそれくらいにして、もう少しお気軽にいかない? あ、私、冒険者ギルド委員の委員長してるタローって言うの。以後お見知り置きを」
一見軽薄そうな態度を見せるのは、少し軽そうな印象のお洒落な青年。ウェーイ勢なほど砕けた格好ではないが、渋谷か原宿にでもいそうな雰囲気だ。
タローと言っても、おとぎ話に出てきそうな要素と言えば、腰に差した日本刀くらいだ。
ただ口調以外も少しオネエっぽいので、新宿歌舞伎町な人なのかもしれない。
そして言葉の最後に、それぞれに握手を求めてくる。それがとても自然なので、思わずこちらも握手してしまう。
一見気さくな人だけど、油断ならないタイプじゃないだろうか。
同時に、『ダブル』には色んな人が居るんだと、今更ながら半ば感心する。
「ギルド長」
「タロー委員長、もう少し真面目な話を続けたいので、挨拶などは後回しにしていただけますか?」
ゲンブ将軍が、軽くなりかけた雰囲気を一言で再び自分達のペースに戻す。
そこにすかさず、ニシ大佐が一言を加える。
二人の見た目はかなり違うが、ちゃんとコンビになっているので内心感心させられた。
一方、タロー委員長も負けてないようだ。
「いやけどほら、皆さん冒険者ギルド所属だって言うじゃない。私としては、腕利きの子はちゃんと把握しておきたいのだけれど」
「タロー委員長、それは少し違う。ショウ殿はエルブルス辺境伯、ハルカ君は半ば名目だけど評議会議員。そして全員が、ハルカ君の従者もしくはエルブルス辺境伯領の者と見るべきだよ」
「アラ、そうなの?」
ジン議員の言葉に、代表してオレが出来るだけ重々しく頷いておく。
威厳はないだろうけど、意思は伝わるだろう。
しかしタロー委員長の雰囲気は、あまり意に介してはいないようだ。
「なあんだ、そうなの。凄いルーキーが沢山来たってみんな言ってたのに、残念」
「だから言ったでしょう」
タロー委員長がリンさんにたしなめられている。
これだけ見ていると、リンさんの方が立場が上に見えなくもない。
そうしてリンさんに連れられるように、話の邪魔にならないようにテントから出るようだけど、目的は遂げる気のようだ。
「それじゃあ、気が向いたら何時でもギルド本部に来てね。委員長権限で、みんなにはSランクあげちゃうから」
「委員長でも、委員会通さずにそんな規則破りしちゃダメでしょう。ごめんなさい、本気にしないでね」
言葉の最後をウィンクで締めくくるが、男からウィンクされても嬉しくもなんともない。
女性陣も半目で見返している。
悠里なんて、あれは絶対気持ち悪がっている。
リンさんも色々と苦労してそうだ。
というか、ジン議員の副官とかしている方が似合っているので、タロー委員長のお守りは正直勿体ない気がする。
しかしハルカさんが、リンさんには苦笑いで小さく挨拶を返すしかないところを見ると、これが日常風景らしい。





