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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第3部

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276「悪魔の復讐、奇襲?(2)」

「また会ったな、確かゼノさんだっけ?」


「フンっ。魔人に敬称付きで呼ばれる筋合いはない」


 せっかく会話に応えたのに、鼻であしらわれてしまった。

 流石にちょっとカチンとくる。


「なら、乱暴な呼び止め方するなよ」


「貴様らには貸しが随分あるのでな」


「そんなに借りてた気は無いんだがな」


「戯言を! 散々我らの計画を邪魔立てしてくれた上に、今回の母なる森の焼き討ちも貴様らだろう。永遠の苦痛を与えても与え足りぬ程だ!」


 激オコどころかガチ怒りだ。むしろ怒りたいのは、前の戦いで左腕を斬られたこっちなのに、機先を制された気分だ。

 お陰で少し冷静になれた。


「散々って、2回だけだろ。大げさな奴だな」


「今回だけで5回だ! 11日前の我らの同胞への襲撃、10日前の西の拠点殲滅、5日前の世界竜の膝下での戦闘、3日前の中央戦線への介入、そして今日の母なる森の焼き討ちだ!」


「よく覚えてるなって、ちょっと待て。エルブルスのことを何でお前が知ってる?」


「我らにも空を駆ける者たちはいる」


(つまり今回の一件は、予想した通り全部連動してたってことか。それをオレ達が行く先で潰している事になるんだから、怒って当たり前か。その上、今日の大火事の犯人も知ってるなら尚更だな)


 思わずハルカさんと横目の視線で、どうするか決めようとした時だった。


「ハルカさん! ライムを助けて!」


 オレ達の後ろ数十メートルから、悠里が泣きそうな声で悲痛な叫び声だ。治癒薬ではどうにもならないようだ。

 とっさにハルカさんと視線を交わす。


「一人で支えられる?」


「お喋り好きそうだし、しばらくトークを楽しんどくよ」


「じゃ、ライムを応急処置してすぐ戻るわ」


「頼む。クロ、ハルカさんを守れ」


「畏まりました」


 そう言って、オレの腰に入れてある魔法で強化された袋の中から独りでに飛び出て実体化したクロが、既に走り出したハルカさんを素早く追いかける。

 それを視線で少しだけ追って、どうやら待っていてくれたらしいゼノに視線を据える。


「悪魔のくせに、騎士道精神旺盛なんだな」


「卑劣な魔人に劣るわけにはいかぬからな。それに飛龍に罪は無い。さて、貴様の強さに免じて、我ら全員に嬲り殺しにされるか、私に一騎打ちで討ち果たされるか、選ばせてやろう」


「オレと遊んでていいのか? 泣いて家に逃げ帰る途中じゃないのか」


「先に見つけたのはそちらだろう」


「不意打ちしてきたのはそっちだろうが!」


 こっちは気配すら判ってなかったから、明らかな誤解だ。

 もしかしたら、ボクっ娘が追いかけた目標と関係があったのかもしれない。


「まだ戯言をほざくか。我らを逃すまいとした策といい、ここで待ち伏せていた事といい、今ここで倒させてもらう!」


「そこまで恨みを買った覚えは無いんだけどな」


「何を言うか!」


「えっ?」


 話を長引かせるため挑発し、それにゼノが乗ってきたところで、剣を携えた悠里が駆けつけてきた。

 手には、ファンタジーゲームにありがちな、トゲトゲした見た目の大きな剣を手にしている。


 聞けば、滅びた上位龍の骨を長い年月をかけて魔力を染み込ませて作った逸品だそうで、切れ味は並の魔鉱を軽く上回るそうだ。

 しかも元が骨なので、見た目と違ってかなり軽い。


 ただ当人は、登場いきなりでの敵からの罵声で気勢を削がれている。

 とりあえず今は、話の腰を折らないでくれと願わずにはいられない。


「下がっていろ娘。魔人であろうと、女を切る趣味はない!」


「何言ってやがる、ライムをあんなにしたくせに!!」


「ここは戦場。貴様もノヴァの軟弱者と同じのようだな」


「んだと!」


(アララ。今度はこっちが挑発されてるようなもんだな)


「下がってろって。取り敢えず、こいつはオレに用があるそうだ」


「お前だけではないが、まあいい。まずは貴様だ。今回のみならず、今まで何度も我らの計画を阻止した報いをこの場で受けてもらうぞ」


「今までって、あんたと会うのは2回目だけどな」


「まだ言うか。調べはついている。北の地を魔界化する計画を、初期段階で阻止したのも貴様らだろうが!」


「ん? 話が見えないんだが?」


 いや、マジで。時間稼ぎ以上の理由で、話を聞きたいところだ。

 そうすると、オレのおとぼけ顔が癪に障ったらしい。話してくれそうだ。


「まだシラを切るか! ノールの『魔女の亡霊』を滅し、あの地を浄化た件。北と大陸の連絡を寸断するべく進めていた、ハーケンの破壊計画を阻止した件。

 そのどちらにも、白い大鷲を操る疾風の騎士と黒い剣を持った剣士、それに高位の神官が居たという。すべてが貴様らを示しているではないか!」


 ちょっと聞きづてならない事を、この悪魔ゼノは話し始めた。時間が許せば、じっくり腰を据えて聞きたいくらいだ。

 けど、さすがに魔物側としては長話している場合でもないようだ。「ゼノ様、この場で話されることでは」と下級悪魔の1体がたしなめている。

 オレの方でも、妹様が置いてけぼり状態だ。


「何の話してるんだ?」


「お前は、ここであいつらがライムの方に行かないようにしてろ。理由はともあれ、あの悪魔はオレに落とし前に一騎打ちか百人斬りをしろとさ」


「ハァ? 訳わかんない」


 そんな事を言うので、敵の目の前でヒソヒソ話をする羽目になった。


「(向こうが勝手に時間稼がせてをくれてるんだ。乗ってやらない手はないだろ)」

「(わ、分かった。……無理すんな)」

「(死ぬ気はないよ)」


「説得は済んだか?」


「ああ、オレがお前の手下を全員なます斬りにしてやるよ。かかってきな!」


 そう言うが早いか、手下の下級悪魔Aに飛びかかるように斬り込む。

 ゼノのすぐ横を飛び抜けた先にいたのは、多分魔法使いの上位ゴブリンをさらに洗練させたローブ姿の魔法使い風のやつだ。

 色々と装備を付けているが、どうせ誰かから奪ったものなのだろう。ライムへの魔法もこいつかもしれない。

 見れば魔法の防壁も張り巡らせている。


 だかこっちは魔力相殺を十分込めてあるので、魔法による防御に自信を持っていた風な笑みはそのまま、その素っ首を跳ね飛ばしてやった。

 悪魔への対象法はみんなから聞いておいたが、流石にこれなら再生もできない筈だ。


 そしてそいつの頭が地面に落ちるのがゴングとなり、百人斬りが始まる。


 いや、始めたくはないんだけど。


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