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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第3部

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273「魔物の軍勢の崩壊(1)」

「戦線が崩れたー!」


「魔物が逃げてくるよー!」


 白いヴァイスと蒼いライムから、それぞれ黄色い声。しかし緊迫した声が響いてきた。

 戦場方向に偵察に出ていたボクっ娘と妹の悠里が、ほぼ同時に戻ってきたのだ。

 一方で、眼前の光景はそれだけで済まない状態になりつつあった。


「まずいぞ、領主さんよ。こりゃどデカイ火災旋風が起きるんじゃないか?」


 ラルドさんが、既に冷や汗を垂らして口にしたように、オレ達が作り出した森林火災は予想以上に燃え盛っていた。

 その事は作業を終えて1、2時間ほどした頃には明らかだったが、昼を回って戦況が動いた頃には大火事になっていた。

 十分離れていても、火勢が強いせいで顔に受ける熱が時間とともに強まっていた。


「そうですよね。オレ達も少し北に下がりましょう」


「短時間ならみんなを熱から守る事は出来るが、その方がいいだろう」


「火の専門家が言うなら、間違いないわね」


「ネタって分かってても、その振り方はちょっと傷つくぞ」


「ネタじゃないわよ。領主たるもの、判断の際は専門家から意見を聞くものよ」


「うっ、精進します」


 ハルカさんの軽い口調と演技のドヤ顔。オレも乗ったが、周りの緊張をほぐすためだ。

 そのくらい、目の前の火災はやばい気がした。

 ただネタ的には、一応オレは領主だから、家臣も居るところでは止めて欲しい気がする。オレのヒエラルキーが低い上に、尻に敷かれているのが丸分かりだ。


 見渡すと、案の定家臣の皆さんがニヤついていたり微妙な表情をしている。

 仕方ないので「ゴホン」とワザとらしい咳払いをして口を開く。


「じゃあ、っ!」


「あと一ついいー!」


 ヴァイスの上で聞いていたボクっ娘だ。

 こっちは容赦なく人の話の腰を折ってくる。


「って、なんだー! 何か見つけたのかー!」


「違うのー! 大火事の熱で気流が不安定だから、みんな気をつけてねー!」


「分かったーっ。それじゃあ、予備の場所に移動しましょう!」


「了解だ、坊主。それじゃ俺たちゃ走るか。行くぞ野郎ども!」


 言うが早いか、ホランさん率いる獣人の皆さんが駆け足で移動を開始する。

 領主としても、家臣と共に走るべきところだろう。


「なに走ろうとしてるの。領主は旗騎に乗る! 少しは偉そうにしなさい」


 走り出す直前に、ハルカさんに首根っこを掴まれてしまった。

 そしてオレ以外に、ハルカさんとシズさん、それに走るのは苦手なレイ博士とラルドさんも、それぞれ一度降りてきたヴァイスかライムに分乗して、5キロほど北に移動する。


 その辺りにちょうど他より少し高くなった場所があり、大きな岩が多く木々も途切れがちなので、周囲を見渡すにはちょうどいい。

 それに見晴らしが良くなるように、一部の木々は竜騎兵たちが降りる時に南側の斜面の辺りをなぎ倒してくれている。


 今居た場所も似たような感じで見渡すには最適だったのだけど、不測の事態を予測して予備の場所をいくつか目星つけていたが、それが役に立ったようだ。

 それにここまで移動すれば、火勢もかなり遠のいた。

 逆に魔物が拠点にしていた廃墟に少し近づくことになるが、今は蛻の殻なら気にする事は無いだろう。


 そして移動しつつ、臨戦態勢も整えていく。

 特にゴーレムは、移動を決めた時点で命令を与えて、ここへの前進を命じる。それでも到着は一番最後になるが、疲れを知らないし歩くだけで道を作るようなものなので、一石二鳥とも言える。


 竜騎兵は全騎上空に待機し、ヴァイスはさらに高い高度に移動して、敵の飛行戦力に備える。

 ただし全ての背には騎手しか乗らず、他は地上で配置につく。

 

 しかしオレ達のところには、敗残兵となった魔物の群れが殺到することはなかった。

 十分な距離を取って1日は繋がらない予定だった2か所の森林火災が合体してしまい、魔物の退路を塞いでしまったからだ。


 しかも、予想したように大規模な火災旋風が吹き荒れ始めて炎の竜巻となり、次々に森を飲み込んでいた。もはや線ではなく面で燃え盛っている。

 その規模は、長辺で10キロを優に超えている。

 竜巻旋風は、まるで炎の竜だ。

 ノヴァの軍から逃げている魔物の集団も、大きく迂回しなければ自分たちの拠点には逃げ帰れないようになっていた。



「これはマズイかもな」


 シズさんが魔法陣が2つ展開して、何か魔法を行使している。

 直接戦闘に関わるものではないので、どうやら何かを探る魔法のようだ。


「シズさん、何かわかりますか?」


「あくまで仮説だが、ここは魔の大樹海の南の端の方だが、それでも澱んだ魔力に満ちている。その魔力が、『煉獄』の魔法か、龍の吐息か、可燃性の魔力を含んだ油の魔力のどれか、もしくは全てに同調もしくは命令を受けた形になっている可能性が高い。

 エルブルスの時も少し感じていた事だったんだが、ここでは予想した以上だ。しかも連鎖的に拡大している。

 僅かだが、燃える境界の辺りに不自然な魔力の活性化も感じる。今、魔法で探ってみたが予想通りだった」


「シズも感じてたのね」


 ハルカさんが納得顔だ。


「ああ。最初は魔物化した動植物の反応かと思ったが、どうにも違う」


「仮に仮説通りだとして、この後どうなると思いますか?」


「同調の連鎖が続く限り、澱んだ魔力を濃く含んだ大樹海の火災は広がり続けるだろうな」


「それでもいいんじゃないの。元々、15年前の戦争で広げちゃったわけだし」


「魔物も一掃できて、その後の再開発もやり易くなるんだろ。万々歳じゃん」


 飛行職組の女子二人は暢気なことを言っているが、本当にそうなのだろうか。

 居合わせた全員が考え込むも、ここは知識豊富なレイ博士かシズさんに期待するしかないだろう。


 ドワーフのラルドさんは、顔を向けた途端にお手上げのポーズをされてしまった。ハルカさんも首を横に振るだけだ。武闘派の家臣の人達は、オレと同意見らしく誰かの回答なり仮説を待っている。

 自然、シズさんとレイ博士に集まる。二人もそれを意識したようで、互いに視線を交わし合っている。


「レイ博士、長年ゴーレムで森の開拓を指導してきたんだろ?」


「う、うむ。だが、カタストロフに匹敵する超大規模火災は全くの想定外だ」


「なら、ゴーレム達が伐採、開拓した魔の大樹海だった場所はその後どうなった?」


 シズさんの言葉に、博士が少し考え込む。


「澱む魔力が拡散すれば、たいていは元の大地だ。森も順当に再生するし、普通に開拓出来るぞ」


「……なるほどな」


「何か分かりましたか」


「いや、単純なことだけだ。理由が何であれ、樹海の木々を一度消し去ってしまえば、澱んだ魔力は拡散しやすくなる。それは樹海も同じだ。

 どうせ、澱んだ魔力から生まれた歪な樹木は、建材どころか薪にすら使えない。となると、この際燃え尽くしてくれる方が人の世のためということだ」


「燃えすぎて、人の世界の方にまで燃え広がらなければ、って条件が必要そうだけどね」


 最後にハルカさんがまとめてくれた。

 そしてオレに視線が集中する。


「とにかく今は、戦場から逃げている魔物と、オレ達の後ろにある魔物の拠点の動きに注意。無責任だけど、火事の事は後で考えよう」


「それしか無いわね」


「うむ。自分で火をつけておいて無責任だが、こうなっては人の手に負える火事では無いな」


「いざとなったら、エルブルスに頼めばいいじゃん」


 火事に関しては半ば諦めムードの中、我が妹様が暢気に他力本願な事を言ってくれる。

 けど、家臣の皆様は意外に賛成らしく、頷いている人も一人や二人では無い。

 まあ、いざという時あてに出来るのなら、それに越したことは無いだろう。

 その言葉でいくらか気が楽になった。


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