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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第3部

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265「配置変更(1)」

 現実世界で1日を過ごして目覚めると天幕の中だった。


 現実世界では、ここ数日特に変わりはない。

 午前中にシズさんちで勉強して、玲奈と少し過ごし、その後は夜までバイト。後は帰って風呂に入って寝るだけ。

 少し変わったのは、早朝か深夜、もしくは両方に悠里が家族に気づかれないようにオレの部屋に来るようになったことだ。


 もちろん変な理由ではなく、悠理にとって足りない情報、欲しい情報を求めての事で、この日は夜に襲来があった。

 とはいえ大したことは話さず、オレとしては人のベッドでゴロゴロするのを止めてほしいと思ったくらいだ。


 そうして1日を平穏に過ごして、次に目覚めると魔物との戦争の中に戻って来る。



 いつもの異世界だけど、あまり広くはない天幕の中は、オレ以外みんな女子達だ。

 オレ的に悠里は除外するにしても、現実では決してありえない状況だけど、今までの事もあるのでかなり慣れてきた気がする。

 それにテントだし装備のかなりもつけたままなので、尚更エロい事を思うような状況でもない。


 当然だけど少し離れた場所で寝ていたし、寝ぼけて抱きつかれていたりなどというラッキーイベントも特に起きていない。それに、ボクっ娘はもう起きているらしく、天幕にはいなかった。

 オレも寝ているみんなを起こさないように、そっと天幕を出る。


 外はまだ日が昇っていないが、既に活動を開始している人達もいた。軍隊は24時間活動しているし、ましてや今は敵地の目の前なので不寝番や見張りの数も多い。

 それにボクっ娘だけでなく、他の疾風の騎士たちも朝は早い。

 簡易飛行場の方は、早くも少しざわついている。


 少し先に見える魔の大樹海はまだ薄暗いが、なんとなく澱んだ魔力の気配が全体から漂ってきている。

 なんとなくそんな樹海を眺めていると、誰かが近づいて来る気配があった。


「よう坊主、早いな。それとも眠れなかったか?」


「おはようございます、ホランさん。ぐっすり寝ましたよ」


「おう。それにしても、4人も相手にしたってのに元気だな」


 そう言ってニヤリと笑う。皆と一緒に寝た事を言いたいらしい。


「ご期待に添えなくて悪いですけど、そういうのはないですよ。だいいち、悠里は妹だし」


 そう返すと「ガッハハハ」と陽気に笑う。まだ寝ている人も多いのに、ちょっと迷惑じゃないだろうか。


「そういやそうだったな。だがよう、何もなしってことはないだろ。戦場だし、こう、なんか、猛るだろ」


「分からなくもないですけど、ないですよ。ハルカさんに締め上げられたくありませんから」


「嬢ちゃんが一緒だと、逆に何もできないか。いや、スマンスマン」


 さらに陽気に笑うが、ホランさんを見ていて、ちょっとした好奇心というか疑問が湧いてきた。


「どうした? 俺の顔に何か付いてるか?」


「いえ、お返しってわけじゃないですけど、獣人の好みってどうなのかなって思って」


「俺たちゃあ、獣みたいなのと人みたいなのがいるからか? 他の連中からよく聞かれるよ」


 やはりみんな思う事なのだ。何でも無い声色での返答だ。ならば、と思う。


「ホランさん的に、シズさんはどうなんです?」


「いい女だな。狐じゃなきゃ即口説いてた」


 シミジミとした口調で、シズさんの姿を思い浮かべているような感じだ。

 しかし言葉は、ある事実を語っている。


「つまり、獣寄りか人寄りは関係がなくて、種族が違うとダメなんですね」


「理解が早くて助かるぜ。ただ抱くだけならともかく、種族が違うと子作りが無理だからな」


「死活問題ですね」


「そう言うこった。だから俺達は、それぞれに分かれて生活する事が多いってわけだ。それと、女はよほど強い奴以外は、外には出さないようにしてる」


 少し真面目な話になり始めたので、真面目な疑問もこのまま聞いてしまう事にした。


「なるほど。それってやっぱり、人との関係とか考えてですよね」


「エルブルスの辺りに人は少ないが、他からはいい話はあまり聞かないからな」


 確かにそうだ。人がシズさんを見る目は、この道中でも何度も嫌な感じなのを見て来ている。


「ですよね。それじゃあ、エルブルスの領内に、人はあまり入れない方がいいですか?」


「そうだなあ、ノヴァの連中は問題無いだろうが、他は仲がいいとは言えないからな」


「矮人とは仲は良さそうですよね」


 自分で言って改めて気づいたが、エルブルスは異種族間の関係が良さそうというか自然体だった。


「矮人は見た目に拘らないからな。付き合いやすい連中だ」


「なるほど。ちょっと分かりました。ありがとうございます」


「どうってこと無いさ。そうやって直に聞いてくれる方が、嬉しいってもんよ」


 思いもよらず真面目な話までしてしまったが、その日の朝の事件といえばそれくらいだった。




 その日は魔物の襲来もなく、ノヴァの方が軍の再編成と移動の準備で1日使った。

 活発に活動しているのは空軍を中心とした偵察だけど、損害もなくすぐに動けるオレ達は、予備兵力という事で偵察にもかり出されずに待機状態だった。

 これでは宝の持ち腐れもいいところだ。


 朝の時点で協力したいと言ってみたが、空軍元帥曰く「辺境伯らは地理に詳しくないだろう」の一言で断られた。

 ただ、「私の配下になるなら、今後の手柄についても考えるぞ」と勧誘も忘れていない。

 しかし、こちらにその気はないので、断る以外に選択肢がなかった。


 けどそれが良くなかったらしく、飛行場の使用すら制限を受けてしまった。これはオレの落ち度だ。

 けどそうだとしても、半ば偶然とはいえ窮地に救援に駆けつけた友軍に対して失礼だろうとしか思えない。


 そして飛行場が実質使えないので、この場から立ち去りでもしない限りやることがなかった。

 さすがに見かねた火竜公女さんの計らいで、竜騎兵の人たちと少し連携の訓練ができたくらいだ。


 そして周りの雰囲気や聞き耳で分かったのは、やはりオレ達がノヴァの『ダブル』達から嫉妬を買ってしまったという事だ。

 彼らから見て、派手な手柄を立てすぎたのだ。

 シズさんの予想では、次の出番は恐らく無いだろうとの事だ。



「もう、帰ろっか」


「けど私、火竜公女さんに頑張るって言っちゃった」


「でもさあ、声がかからないと頑張りようがないよ」


「だよなー。なあ、何とかしろよ領主様!」


 飛行職組は、昼を回る頃には早くも戦意喪失状態だ。

 竜人たちは淡々としているが、血の気が多い獣人達は自分達だけで訓練して気を紛らわせている。


「夕方の会議でかけあうよ」


「変わらないと思うぞ」


「それなら、オレにも考えがありますよ!」


 一見のんびりと椅子に腰掛けているシズさんの冷静な一言に、思わず声を荒げてしまう。

 だから、後ろから頭をコツンと叩かれた。

 叩いたのは、勿論ハルカさんだ。


「声を荒げる相手が違うでしょ。それに待つのも仕事よ」


「ハルカさんは大人だな」


「何、今度は私に嫌味?」


 少しご機嫌斜めな声でそう言った彼女だけど、本気で怒ってはおらず、むしろ少し困ったような表情だ。


「ごめん。けど、愚痴の一つも言いたくなるよ。ハーケンの人達とは大違いだし」


 その言葉に、みんなも小さく嘆息する。


「まあ他のギルド支部の連中は、ノヴァのこういうところに愛想を尽かした連中も多いからな」


「飛行職が、優遇しても半分くらいしかノヴァにいないのは、窮屈なところがあるからだしね。ボクも苦手だし」


 ボクっ娘もシズさんも、この状況はある程度予測ていていたみたいだ。


「ノヴァ良い街なのになあ……」


「その街を守る為と思って我慢してね」


「ハイっ! ハルカさん」


 悠里はハキハキとハルカさんの言葉に返したが、その日オレ達にとって状況が好転することはなかった。


 午後遅めの会議では、もう少し明確な役割分担を求めてみたが、危うく空軍元帥の指揮下に入れられるところだった。

 しかも少しでも積極姿勢を見せたら、一部の『ダブル』がマイナス感情を多分に含んだ視線を向けてきた。


 中には小声で、「割り込み野郎め」、「まだ手柄が欲しいのか」、「外野のくせに」、「僕にあれだけの戦力があれば」などと、会議に行くまでに聞こえるように呟いてる者までいた。

 それでいて、こちらが声の主に視線を向けると、殆どの者が顔を背けたり俯むいたりする。

 正面から言われた方がまだマシで、図々しく言いたいことを正面から言ってくる空軍元帥の方が好感を持てたほどだ。


 しかし、その会議でジン議員がオレ達に配慮してくれた。


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