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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第3部

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263「火竜公女(1)」

 そうして会議が終わり解散となった直後、ジン議員がオレ達の方にやって来た。

 ジン議員が、オレ達の窓口というか担当にされている感じだ。


「ジン議員、ご配慮ありがとうございました」


「なに、これくらい配慮にも当たらないさ。空軍元帥は腕は確かだけど、些か欲張りで有名だからね」


「些か、では済まないでしょう。私達も空軍から独立したいほどですのに」


 ハルカさんがジン議員にお礼を言っていると、火竜公女がお供のイケメン竜騎士二人を従えて近づいてきた。

 言葉遣いから少しばかり演技がかっているが、それがとても似合っている。


「これは火竜公女。それとも男爵婦人バロネス、もしくはテスタロッサの主人殿とお呼びした方がいいかな?」


「好きに呼んでくださいな。それより、紹介して下さらないの?」


 そう言いつつ、横目でオレを見てくる。興味津々な感じで、目が少し輝いている。


「これは失礼。エルブルス辺境伯、こちらがノヴァが誇る竜騎士団をまとめている火竜公女殿だ」


「お初にお目にかかります、エルブルス辺境伯。故あって名は明かせませぬが、何卒ご容赦下さいませ」


 そう言って、優雅にこっちの世界での挨拶をする。自然な仕草で、態度も堂に入っていた。


「ぜ、全然構いません。火竜公女さん初めまして、ショウって言います。身バレで言いますが、オレはただの高校生だから、こっちの作法とかは出来れば止めてください。それとジンさん、エルブルス辺境伯とか堅苦しい呼び方は、家臣がいない時は出来れば止めてください」


「アラ、可愛い。でも、貴族なら慣れていた方がいいですわよ。私も男爵の位と領地を持っているので、『ダブル』同士でも公の場では振る舞い方を練習していますの」


「そういうのは、今の所ハルカさん達に任せてるから、今は勘弁してください。今のオレじゃあ、小学生の学芸会にしかなりません」


「それくらいにしてあげて。でないと本名言うわよ」


「それは勘弁して。久しぶりハルカちゃん。ところで、少し変わった?」


 一瞬の強ばった表情のあと、火竜公女の表情と態度が砕けて、雰囲気がぐっと和らいだ。

 ハルカさんとも、名前の呼び方から見て、少なくとも顔見知りということだ。


「久しぶりだからそう思うだけでしょう。男爵婦人バロネスは変わらないわね」


「演技に磨きがかかったって言って欲しいなあ。これでも努力しているのに」


 話し振りからして、二人の仲は良さそうだ。それにヒエラルキー的には、ハルカさんの方が少し下っぽい。


「ハルカさん、知り合い?」


「ずーっと先輩。同じ貴族で評議員同士ってことになるから、こうして対等に話してくれてるのよ」


「数少ない女の子の幹部の一人だからね。それにハルカちゃんは、私の好みなの」


 公女さんがしなだれかかろうとするのを、ハルカさんが手で軽く振り払う。似たような事を今までもしてきたと分かるやり取りだ。


「ハイハイ、好きに言ってて。それより、何か用があるんじゃないの?」


「ショウくんとショウくんの家臣の皆様に知己を得たいかなと。同じ竜騎兵だしね」


 その言葉と共に流し目をしてくる。かなり色っぽいが、ちょっと演技が過ぎているように思えてしまう。


「それもそうね。いいわねショウ」


「うん。じゃあ、ガトウさん達呼んでくるよ」


「領主はここでジッとしてなさい」


 動き出そうとしたオレの首根っこを掴んでその場に据えると、彼女が少し離れた場所にいるエルブルスの人たちが固まっているところに向かった。


 そして姿が遠のくと、火竜公女さんがぐっとオレに身を寄せてきた。上目遣いだけど誘惑するのではなく、瞳は興味津々といった輝き具合だ。

 そしてこうして側に来ると、意外に小柄な人なのが分かった。

 靴で多少底上げしているけど、平均身長以下だろう。


「それで少年は、どうやってあの堅物を口説き落としたの?」


「……最初に聞くことがそれですか?」


「私もかなり興味ある事だがね」


 側にいたジン議員まで乗り気だ。

 側のシズさんは涼しげな顔をしているだけで、何も話そうとはしない。

 ここでは『ダブル』ではなく獣人で通しているので、我関せずなのは仕方ないにしても、助け舟もなさそうだ。


「……一言で言えないくらい頑張った積りです」


「それだけ?」


「本当に勘弁して下さい。マジで話せない事もあるので」


「なら、そこは聞かないであげる。それで、どっちが告ったの?」


 もう公女でもなんでもなく、ドラマなどで見るような飲み会での女性上司のようだ。

 ただ態度は自然で、確かに火竜公女は演技していたのだと分かる。彼女の後ろのイケメン二人も、オレに若干の同情の視線を向けつつ苦笑気味だ。

 そして総合的に見て逃げ場はなさそうだった。


「あー、もう、オレですよ。三回も告りましたよ。これでいいですか?!」


「切れない切れない。よく言った少年。いや、よくやった。でも、あの難攻不落の堅物を、よく口説き落とせたわね」


 ウンウンと満足げに頷いている。

 本当に陽キャな人だ。


「まあ、ハルカさんの旅に同行して、認めて欲しくて頑張ったお陰だと思ってます」


「あー、なんか分かる。あの堅物、結果を出す頑張り屋さんは好きだものね」


 再び深く頷くが、今度は納得といった頷きだ。

 それにしてもリアクションが大きい人だ。


「私から言わせれば、頑張りすぎじゃないかと思うけどね」


「おっ、ジン議員は何かご存知?」


 すでにオレに腕を絡め始めているが、顔と視線がジン議員に向いたので、ちょっと一息だ。


「先週ルカ君達が戻った時に、一通り話は聞いている。あと、今日のショウ君の戦いぶりでも確信したが、試用期間中と言うのが冗談としか思えない強さだからね」


「そうですか?」


「おっ、少年はおとぼけ系主人公なのかな?」


 公女さんが再び攻撃の手をオレに伸ばしてくる。

 しかしそれは寸前で終わりを告げた。


「何浮気してんだ、このクソが!」


「ショウで遊ぶのはそれくらいにしてあげて」


 オレの窮地に駆けつけたのは、騎兵隊ではなく竜騎兵隊の面々だ。当然悠里も一緒だったが、この状況を見られたのは失敗だった。オレ悪くないのに。


「アレ? あなたもショウくんの彼女さん? やるな少年」


「違います。妹です」


 悠里が即答で訂正した。

 オレも公女さんに脇を小突かれながらも強めに頷く。


「アラ珍しい、兄妹揃って『ダブル』なんだ。しかも蒼い龍の騎手よね」


 そう言ってオレから離れて、悠里に右手を差し出す。

 自然な動きだったので、悠里も思わずといった感じで手を握り返す。

 これは役者が違い過ぎるようだ。


「あ、はい。えっと火竜公女さん、ですよね」


 悠里は最初は火竜公女とは気づかなかったようで、態度が一変している。それに会議を遠目で見ていたのなら、このギャップに戸惑うのは分かる。

 けど、そのまま呑まれてしまったのは、まだ子供だからだろう。


「そうよ。よろしくね。特に次の戦闘は期待させてもらっていい?」


「全力で頑張ります」


 そして呑まれたまま、火竜公女さんと握手したままお辞儀までしている。


「うんうん、期待させてもらうわね。今のノヴァで、ブレス吐けるドラゴンがパートナーなの実質私だけだから、こき使われてるのよねー。これで楽になるわ」


「残念ながら、悠里ちゃんは今回だけよ」


「えーっ、なんでー」


「私、大巡礼中なんだけど、悠里ちゃんもお供してくれるの」


「そうなんだー。あれ? じゃあハルカは、なんでノヴァに来たの? 神殿のスケベ野郎に許可でも必要だったの?」


 体をクネらせたと思うと、人差し指を顎に当てたりと忙しい人だ。

 それにこの人も、ノヴァの聖人に言い寄られた人らしい。


「せっかく来たから大神殿には挨拶くらいする積りだけど、ノヴァ自体はショウをエルブルスの領主にするついでに寄ったようなものね」


「なるほどねー。けど、いいタイミングで来てくれたわ。私は東に行ってて不在だったけど、ほんと助かった。ねえジン議員」


「ええ、ショウ君の判断と皆様の奮戦には、感謝してもし足りない程だ」


 と、そこで、火竜公女さんが優雅に竜人たちに向き合う。


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