261「全体会議(1)」
そして夕方、日も傾いてきたので森の中での追撃戦も難しくなり、竜騎兵や疾風の騎士は夜の戦いは無理なので、その日の追撃戦は終了となった。
オレ達も、森の際にまで戻って一旦集合しつつある。臨時飛行場にも、エルブルスの竜騎兵たちが戻ってきつつあった。
「こうやって戻ってくるのなら、多少なりとも森を燃やした方が良かったんじゃないか?」
シズさんは相変わらず攻撃的だ。そう思っているのは、オレだけでは無かった。
「鎮火までコントロールできるのなら、その方が良かったかもね」
「多少ならできるが」
「エルブルスみたいに盛大に燃えたら無理でしょう」
「そ、それはそうだが」
ハルカさん言葉に、シズさんの旗色が悪そうだ。
基本的にシズさんは攻撃的なのだけど、その言葉をいつも受け入れていると、だいたい派手な事になるのはオレも少し学んできたところだ。
だからハルカさんの意見に賛成だ。
「まあ、燃やすのはいつでも出来ますよ」
「そ、そうだな。それにしても思ったより策士じゃないか」
二対一は流石に不利と踏んだか、シズさんがすぐにも方向転換を図ってきた。
こういうところは、頭の回転の早さを伺わせる。
「オレがですか?」
「ああ、そうだ。窮地に颯爽と登場して、敵の急所を突いて戦況を一気にひっくり返した。もうここで止めても、一番手柄は間違いないだろう」
「アドバイスをくれたのはシズさんでしょう。それに、一番手柄なんて正直どうでもいいですよ。けどまあ、エルブルス領の存在感を示せたのは良かったです」
「何を呑気に言ってるの。これで評議会が味をしめて、こき使われたらどうするのよ」
ハルカさんは少し難しげな顔だ。それはオレも思ったが、多少なら考えもあった。
「今回魔物を叩いて、さらに追撃するんだろ。なら、大規模な戦闘自体は、これが終わればしばらくないんじゃないか?」
「かもしれないけど」
「あと、領地への報奨を断ってでも、無理に呼びつけたりしないように魔法の文書で契約したらと思ってるんだけど。普通の国なら命令を断るとか無理だろうけど、ノヴァならそういうのもありだろ」
「なるほどな。満点じゃないが、十分じゃないかな。今の話を柱にして、文章を考えておこう」
「お願いできますか」
「いいのシズ? シズはあくまで私の従者って立ち位置で、エルブルスの家臣じゃないのよ」
ハルカさんの声色は少し遠慮気味だ。
仲間としてはともかく、と言ったところが態度にも出ている。けどシズさんは、気にした風はない。
「似たようなものだろう。それにエルブルスはいい所だと思う。ドロップアウトも隠居もする気がないなら、こっちで落ち着ける先も欲しいしな」
「シズがそう言うなら」
「シズさん、エルブルスに来てくれるんですか!」
「ハルカの探し物が終わったら、だけどな」
「やった!」
乱入してきた悠里が、嬉しそうにシズさんに抱きついている。
悠里が戻って来たと言うことは、エルブルスの竜騎士隊も今日は店じまいのようだ。
見れば、ボクっ娘も野営地側の臨時飛行場に降り立ってきていた。お互い視力がいいので、遠くなのに手を振り合う。
さらに少し遠くには、別の飛龍の編隊が見えた。東の方からだから、おそらくノヴァの竜騎兵隊の主力部隊だろう。翼を上下に振る友好の合図もしている。
そしてその予測は正しく、さらに日暮れまでには疾風の騎士たちも戻ってきた。
10体ものジャイアント・イーグルの編隊は、見せつけるように一度友軍の上空を編隊飛行してから降り立ってきた。
初めて見る情景に圧倒されそうだった。
しかもこの情景は、神殿関連を除くとノヴァトキオでしか見られないものだ。
何しろ疾風の騎士は、神殿に仕えても国に仕える者達ではなく、集団で行動することが極めて珍しいからだ。
だからノヴァは、オクシデント最強の空中戦力の保有国と見られている。
そして彼らの帰投は、今日の戦いの終わりを示していた。
そしてその夕刻。
野営地の野外の特設食事会場では、夕食とともに報告会と今後の方針が話された。
加えて、新たに参陣したオレ達、エルブルス辺境伯領警備隊の事が、ノヴァのみんなに紹介された。
しかも、その場にいなかった人達の為に、戦果まで添えて。
オレ達の紹介の時、市民軍のこっちの人達からは心からの拍手や賞賛の言葉をもらえたが、『ダブル』の人達からは形だけの拍手といった雰囲気が強く、陽性な言葉もほとんど無かった。
この事から、ハーケンとは随分雰囲気が違うのだという印象を受けたけど、多くの人にとってオレ達は突然割り込んできたのだから仕方ないだろうと思う事にした。
なお、食事中に難しい話をするのは無粋ということで、食事の席では食事前の当面の勝利宣言と勝鬨の後、簡単な報告と功績を挙げた人を拍手で讃えるという程度で済ませる。
今後のことを話し合うのは、お茶や簡単なお菓子が並べられて仕切り直されたからだ。





