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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第3部

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256「援軍派遣開始(2)」

 なお獣人は、基本哺乳類でも温帯に住む肉食もしくは雑食の動物の特徴を持つ者が殆どで、ヴァリエーションはオレ達の世界のサブカルチャーものと違って少なめだ。

 だからか、人に近い猿、類人猿の獣人もいない。

 豚(猪)獣人もいないらしいので、どうやら西遊記のヴィジュアル面での再現は絶望的のようだ。


 研究者曰く、目の向き、歯の形や消化器系の違いの影響で草食動物系もいないそうなので、象、牛、馬など有蹄類系の獣人もいない。

 ついでに言えば、オタクが大好きなバニーな種族もいないし、世界のアイドルなネズミなヤツもいない。


 逆に犬科、猫科は多い。

 犬の場合は、狼、各種犬、狐、狸と一通りいる。ただし、狸の獣人はオクシデント地域にはいない。

 さらに猫科は例外的に種類が多く、今回は不参加だけど、この辺りにも熊人がいるらしい。


 また、人とほ乳類の混ざった種族が獣人であり、魚類や爬虫類、両生類、鳥類の特徴を持つ種族などはまずいない。人型の昆虫、昆虫の特徴を持つ人もあり得ないそうだ。

 仮にそうした動物と人の間の子のような存在がいても、それは魔物か魔獣でしかない。


 そんな関係なので、ファンタジーでは良く見かけるリザートマンなどと呼ばれる蜥蜴人はいない。

 竜人がその変わりと言えなくも無いが、竜人は翼がある時点で骨格が人とは完全に異なるので獣人とは全く別種で、どちらかと言えば竜から派生した種族だそうだ。


 また、獣と人の間で変身できるような獣人は、少なくとも生き物としてはいない。だからオレ達の世界での狼男とは、かなり違うイメージだ。

 他にも、オレ達の世界だと化け物に分類される下半身が蛇だとか、両腕が翼だとかいう部分的に人から外れたタイプもいない。

 アンデルセンな人魚もいないし、深き者どもな魚人もいないそうだ。

 獣人の分野においても、意外に夢のないファンタジー世界だ。


 そして今回連れて行く獣人達だけど、全員魔力持ちだ。

 獣人は人より魔力持ちの比率がかなり高いが、この場の全員が魔力持ちというのは精鋭を選んだからだ。

 ホランさんが見た感じAランクだけど、他にも何人かAランク程度の魔力の持ち主がいる。ニオさんも多分そうだ。尻尾の数もみんな複数持っている。

 尻尾が2本あれば、最低でもCランクだそうだ。

 ただし、流石にというべきかSランク級はいない。


 Sランク級の魔力を持つのは、上位龍を除けば留守番の竜人のバートルさんくらいで、他は見かけなかった。

 つまり、それだけオレ達が目立つ。

 普段は魔力を抑える指輪をしているが、昨日の戦闘前から外しているので、魔力を感じられる人からは見られる事が多い。

 こういう事は、エルブルスに来てからだけなので、それだけエルブルスは魔力を有する人が多い証拠だ。


 そしてシーナの町のみんなに見送られる訳だけど、一つイベントが待っていた。



《待たせたな。これが領主の証だ。真なる主人様より預かった、受け取るがよい》


 そう言った上位龍の『まだらの翼』から渡されたのは、大きな宝石のように蒼く輝く小さな鱗だ。

 裏には何かの魔法陣が描かれていて、鱗全体からかなりの魔力を感じる事ができる。


「ありがとうございます」


《礼は不要。それは領主のものだ。後は、それに自らの血を少し吸わせておくように。それと普段は魔力を抑える袋か小箱に入れておく事を勧める。世界竜の気配は、魔物に察知されやすいからな》


「分かりました。おいそれと見せないようにします」


 と言うが早いか、アクセルさんと交換したミスリルの短剣を抜いて、親指を少し切って血をたらしておく。

 こういうのは、みんなの前でしておくものだろうと思ったけど、そうでもなかったようで、バートルさんには苦笑されてしまった。


《気の早い事だ。しかし、早くて悪いという事も無いか。さて、時間を取らせてしまったな。これでショウ殿は名実共にシーナの領主。存分に行かれるが良かろう》


「はい。ありがとうございます」


 そう言って『まだらの翼』からみんなの方へと視線を向けると、全員が整列していた。

 エルブルスの飛龍や翼竜達も住人としての意識があるらしく、律儀に人の後ろの方で整列に加わっているのは少しかわいい。


 ノヴァへの援軍の総数は、オレ達を含めて33名。

 エルブルス辺境伯領として初めての援軍であり、同時に初めての遠征となる。

 また今まで、まとまった数では領内というか縄張りから出た事がないので、お披露目という面もある。

 緊張するなという方が嘘だろうが、変に気負わない方がいいに決まっている。


「ノヴァトキオへの顔見せが、今回の一番の目的です。くれぐれも功を焦ったりしないで下さい。それと、全員無事に帰ること。これが領主としての一番の命令です。じゃあ出発しましょう」


「「おおっ!」」



 道中の飛行ルートは行きの逆ルート。ただし単騎ではなく、3騎ずつ固まっての9騎編隊で向かう。

 各ドラゴンの同乗者は多いが、黒海沿岸で襲ってくる魔物はいないので、1日目の移動は滞りなく進んだ。


 そして夕方手前で、往路でオレ達が利用した砂浜へと着陸する。

 潮位の変化が激しいこの世界共通で砂浜自体は小さいが、平らな場所はそれなりの広さがある。

 9騎、33人でもなんとか滞在できる広さがあると思ったが、もう少し多くても大丈夫そうだった。


「なかなかに良い場所ですね。直ぐ近くに水源もあるし、周りからも視界が遮断されていて、しかも人が住んでいる場所からも一定距離離れている」


「こういう機会があれば、今後も使いたいところだな」


 ガトウさんとホランさんの評価もまずまずだ。

 「じゃあ、今度ここに小屋でも建てとくか?」と、ドワーフ的思考なラルドさんも乗り気のようだ。


「援軍はともかく、空の連絡手段の確保のためにも小屋はあれば便利ね」


 ハルカさんが話をまとめ、今後の課題となる。

 もっとも今は、野営の準備と明日の打ち合わせだ。

 クロも実体化させて夕食と野営の準備をして、その夕食後に話し合いとなる。

 ただし全員参加ではなく、オレ達以外は幹部だけ。それだけの空間は確保できなかったからだ。


「取り敢えず、既に戦端が開かれていた場合だな」


 シズさんが取り仕切っている。

 すっかりオレの参謀役だ。というか、もう全部任せてしまっていいくらいだ。

 ただし、オレに一つだけ提案があった。


「戦っているかどうかは別にして、ちょっとしたい事があるんだけど」


「何だ?」


「ノヴァの街の上を、編隊飛行で通過して飛行場なりに入れないかな?」


「目立つ為ね。確か街の上空は飛行禁止じゃないから、友好的と判断されれば上空を飛んでも問題ない筈よ」


 すぐにハルカさんが察してくれた。

 そう、エルブルス辺境伯領としては、顔見せが一番の目的だ。


「どうせなら、低めの空を格好良く行きたいな」


「それなら雁行編隊か斜め編隊で並ぶのが綺麗だね」


「雁行?」


 オレの言葉にハルカさん達も乗り気だ。

 ただ、ボクっ娘の言う雁行についてはオレも聞きたいと思っていたので、悠里の言葉でちょっと助かった。


「雁の群れが飛ぶの見たことない? くの字に並んでるでしょ」


「ああ、動画で見たことある。いいね、それ頂き!」


 ボクっ娘が両腕を使って表現したので、動画が何か分からないこっちの人たちも理解できたし、それぞれが賛同した。


「あと、魔法の旗を掲げならがら飛びましょう。味方だって知らせるにも丁度いいし」


「じゃあ、ボクが先頭?」


「いや、中心は領主騎であるべきだ。旗手も同乗してもらいたい」


「それにエルブルス領は世界竜が居るって知られているから、竜騎兵が旗騎の方がいいでしょうね」


 ガトウさんの重々しい言葉に、ハルカさんが賛同したので、それで決まりだ。

 それを受けて、シズさんも頷く。


「では私とハルカが交代しよう」


「レナ殿の巨鷲と私で旗騎となるユーリの両脇を固め、その先にそれぞれ連なる形でいいかな?」


「何にせよ、俺たちゃ脇役だな。布の旗でも持って来るんだったな」


 というわけで話も決まり、明日は昼前にはノヴァトキオに到着予定とするべく、士気高揚のための食事をした後はすぐにも就寝した。


 そして眠ると現実世界での目覚めとなるが、その日もシズさんとの勉強とバイト、そしてまた夜には妹の相手をするだけだった。

 28日には玲奈とデート予定なので、それまでにはノヴァでの戦闘は終わっていて欲しいところだ。

 ノヴァ側の作戦予定だと、丁度終わっている筈なのだ。


 けど、物事が予定通り行かないのはいつもの事だった。


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