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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第3部

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252「前倒し(2)」

「そこまでは考えてませんでした。けど、オレらは不確定要素だから、ここの魔物どもを使って本命の作戦に行かせないために、タイミングよく動いたのかなって。

 もしくは逆に、魔物どもはオレ達を頭数に入れずに、ここの警備隊が動けないように騒動をおこしたのかな、とも」


「よく考えついたわね」


 ハルカさんが本気で感心している。

 ま、そう言う事もあるだろう。虫の知らせみたいなもんだし。

 それよりも、だ。


「偶然だよ。それより、ここの情報を魔の大樹海の魔物が知るのはどれくらいかかるかな?」


「魔物といえど、超遠距離で思念を伝達できるわけではないから、飛んで知らせるしかない。つまり、私達と変わらないな」


「じゃあやっぱり急ごう」


「何の話ー?」


 そこに、ヴァイスを飛行場脇の厩舎に入れ、軽快に駆け足してきたボクっ娘が、これまた軽い調子て問いかけてくる。


「ノヴァトキオが気になるから、明日の朝には出発したいと思うんだ」


「ショウは、ノヴァで戦闘が始まっていると思うの?」


 首を傾げているが、それだけじゃない感情が瞳に籠っている。


「取り越し苦労なら、それで構わないけどな」


「ボクもなんだか心がソワソワしてるから、早く出発するのは賛成だよ」


 なるほど、オレだけが何か虫の知らせ的なものを感じてたわけじゃなかったらしい。


「レナもそう思うのね。けど、何が起きるのか分からないって想定にするなら、魔力と体力の回復はしておきたいわ」


「途中一泊するし、ノヴァに戻る頃には魔力は十分戻っているでしょ」


「それでも、少し強行軍になりそうね」


 ハルカさんは少し不安げだけど、最悪襲撃されたことを伝えてオレ達だけで戻るのもありなのではとこの時は思っていた。

 それでも万全ではないので、何か策はないかと考えを廻らせていると、なんとなく流していた視線の先に一つのものが目に止まった。



「なあ、あれ使えないかな?」


 指差した先には、来た時にも見たかなり大きな飛行船が止められている。

 そして指差した先を見たハルカさんが、軽く首を振る。


「どうかしら? 以前世界竜を退治しに来たおバカさん達が残したものらしいけど、多分動かせないと思うわ。ちょっと待って」


 そう言うと近くの人(竜人)を呼んで、誰かを呼びに行かせた。

 そうしてやって来たのは、ラルドさんと他数名のドワーフだ。


「どうした嬢ちゃん」


「領主様が、今回の援軍派遣に当たり、あの飛行船が使えないかとご質問よ」


 その質問に、ラルドさんの横にいた左目に黒い眼帯を付けた渋目のドワーフが、我が意を得たりといった表情を見せた。


「俺が答えよう。俺はフェンデル。錬金術士だが、飛行船技師もしている。で、修理と整備の方は、暇を見てやっていたから船自体の修理などは終わっている」


「じゃあ!」


「まあ聞け領主。船を動かすには、色々と足りてない」


「今から用意は?」


「無理だな。明日の朝では、全く無理だ」


「そう、ですか。えっと、動かすには何が足りないんですか?」


 せっかく前向きな言葉が聞けたのだから、状況は改善しておくべきだろう。

 飛行船が使えれば、領地としての何かと便利なはずだからだ。

 そしてなるべく真剣にフェンデルというドワーフを見つめると、少し考えるそぶりを見せた後、口を開いた。


「まずは充填型の魔石。浮遊石に送り込む魔力には人が直接してもいいが、こいつがかなり足りてない」


「それなら、オレ達かなり持ってますよ。龍石が多いですけど」


「龍石ならむしろ向いているな。次に、船を引っ張る大型の飛行生物。と言っても、あの大きさの船だから天馬や飛馬じゃ何頭いても足りない。最低でも雲龍が2体。あとは、大量のエタノールだ」


「エタノール?」


 最後のファンタジー的ではないアイテムを前に、頭にクエスチョンマークが浮かんでしまう。

 しかし、そばで聞いていたシズさんが納得したように「そういう事か」と呟いた。


「シズさん、何か知ってるんですか?」


「ああ。ノヴァで使うあっちの技術を応用した動力装置は、たいていアルコール系の燃料を触媒とした魔法装置になっている。それと似た様なものじゃないのか?」


「そうだ狐人よ。あんたなら、エタノールがあれば雲龍抜きでもあの船を動かせるだろう」


「エンジン代わりにはなりたくないんだがな」


「エンジン?」


「なんでもない。で、動かすのかショウ?」


 シズさんが言葉とは裏腹に真剣な眼差しを向けてくる。エンジン代わりになってくれるという事だろう。

 しかしゆっくり首を横に振った。


「簡単に動かせるなら、人や荷物を運ぶのに便利かなって、少し思っただけです。手間なら、今回は抜きで構わないでしょう。ノヴァにこっちの手の内を色々と見せて、こき使われたくもないですし」


「違いない」


「そうね。私も飛行船には反対。ごめんなさいねフェンデル」


「いや、今まで見向きもされなかった事を思えば、整備してきた甲斐もあった」


「うっ、ごめんなさい」


 ハルカさんがかなり引け目を感じている。

 となると、ここはオレがフォローするしかないだろう。


「それじゃあ、今後は使えるように整備とか進めておいてください。必要な金と資材とかは、領主の資金から使ってもらって構いません。いいよな、ハルカさん」


「え、ええ、構わないわ。けど、今回使わないのに、何に使うの?」


「色々。兵隊運ぶ以外でも、エルブルスの交易とか連絡にも使えるだろうし、場合によっては巡礼にも使えそうだし」


「了解した。物も人も整えておこう」


「ノヴァでもエタノールや使えそうなものがあったら、送る様にします」


「うむ、頼む。いや、頼みます領主」


 とフェンデルさんが立ち去り始めたところで、会話を聞いたボクっ娘が「えーっ」と非難の声をあげる。


「雲龍との併走とかイヤだよ。速度が違いすぎて、こっちの負担が大きすぎるよ」


「その心配なら大丈夫だ」


 と、オレの命令を聞いて立ち去ろうとしていたフェンデルさんが、振り向きざまに答える。


「あれは龍巣船だ。だから双胴船で、二つの船体の間に飛び立つ為の甲板がある。船体も、飛龍なら4体程度載せられる作りになっている」


「貨物船とかじゃないみたいですね」


「ああ。元の持ち主がどこで調達したのかは知らないが、あれは軍艦だ。丈夫に出来ているし、空中で使える武装も幾つか載せている」


「へーっ。龍巣船なんだ。ヴァイスも乗れる?」


 フェンデルさんの言葉に、ボクっ娘の機嫌が直った。

 しかも珍しそうにしている。


「厩舎の少し仕様を変えれば問題ないだろう」


「じゃあ、一応そういう風にしておいてね。いいよね」


「うん。それじゃあ、そっちも頼みます」


「承った。他にはもうないか?」


「他に急ぎがないなら、作業を進めておいて下さい」


 そうしてドワーフたちは俺たちの前から立ち去ったが、すぐにもその飛行船に数名のドワーフが取り付いて何か作業をはじめていた。

 そこまで急がなくてもいいんだけど、ドワーフって見た目によらずせっかちな人たちなのだろうか。


 まあ、ドワーフは職人気質や凝り性な性分というから、暇つぶしのネタを与えられた、くらいに思っているんだろう。


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