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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第3部

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243「『夢』を描く人(1)」

 自分の部屋で目が覚めると、目の前に妹の悠里がいた。厳密には悠里に起こされた格好だ。

 勿論だけど、オタクが妄想する起こされ方じゃない。逆にそんな起こされ方をされてたら、ドン引きしてただろう。


「ったく、こんな早い時間に起こさなくてもいいだろ」


「なんだよ、予想してましたみたいな顔して」


「してたんだよ。話があるんだろうけど、もう少し目が覚めてからでいいか?」


「じゃあ、さっさと顔洗ってこいっての」


「ハイハイ」


 そう言ってパジャマのまま部屋を出て、用を足して顔を洗い、そして二人分のコップに冷蔵庫から取り出したお茶を注いで部屋へと戻る。

 すると妹様は、オレの机で向こうの事を記録したまとめノートを熱心に見てる。隠しているつもりは無かったが、机の引き出しが幾つも開かれたままだ。


 ていうか、悠里も寝巻きのままだ。この間に着替えとけばいいのにと、相変わらず無防備な姿に思ってしまう。


「それ読んで満足したか?」


「いいや、ぜっんぜん。やっぱこれってメモだし。それより、公認二股とかマジ有り得ないだろ」


「いきなりそれか。まあ同感なんだけど、オレは受け入れるだけだよ。話聞いただろ」


「聞いたけど、なんか納得いかない」


 こっちも納得はしてないので、軽くため息が出る。


「全員完全には納得してないよ。ベストじゃなくてベターだからな」


「おま、お兄ちゃん的にはどうなの?」


「どうって?」


 悠里の言いたいことは分かっているが、あえて問い返してやった。

 すると少し顔を赤らめている。


「だ、だから、どっちが好きなの? て言うかさ、今お前がハルカさんと同じ部屋とか、マジ信じらんない!」


「あそこで違う部屋とか、家臣、領民の皆様に説明つかないだろ。オレ、あそこの領主になるために来たような形になってるし」


「じゃあ、彼氏とかもフェイク?」


「いやマジ」


 「アレ? フェイク?」的な顔だったので即座に否定すると、すぐに不機嫌と言うか納得いかない表情に戻る。


「それこそマジ有り得ない。ハルカさんすっごく素敵な人じゃない」


「まあ、釣り合ってないのは自覚してる」


「だろ。けどハルカさん、マジでお兄ちゃんの事好きでしょ。めっちゃラブラブじゃん」


「いいだろ」


 初対面でもそう思うという事に、思わずニヤリとしてしまう。


「よくない。あ、でも、いいのかも」


 言葉の途中で妹様がニヤリと笑う。突然の方向転換に、こっちが戸惑いそうになる。

 何かを思いついた表情だ。


「何がいいんだ?」


「いやさ、ハルカさんがお兄ちゃんと結婚すれば、私のお姉さんになるんでしょ。これって超アリじゃね?」


 もうニヤニヤ笑顔になっている。気の早さは、オレと似たようなものらしい。


「なに当たり前の事言ってんだ。ていうか、昨日まではシズさんにデレデレだったくせに、心変わりしすぎだろ」


「シズさんはシズさん、ハルカさんはハルカさんっ! 私的にはもう両手に花だっての。けどさあ、どうすんの玲奈さんは? ていうかあっちのレナも」


「玲奈とは、こっちでちゃんとお付き合いするよ。ボクっ娘は友達だ」


「いやいや、あれは好意あるでしょ。ハルカさんと玲奈さんがいるから、一歩引いてるだけじゃん」


「生意気な分析すんなよ」


「生意気じゃないっての。お前気づいてないのか、このクソ鈍感!」


 遠慮なく人様の人間関係や気持ちをポンポン言ってくる。

 しかもあの短時間で、オレ達の間合いとか関係を、もう分かった気でいる。だからコミュ強、陽キャは嫌いだ。

 しかも大体合ってるのが、少し悔しい。


「ボクっ娘とは折り合いついてるよ。多分だけど」


「ちゃんと言葉にしてないんだ」


「ボクっ娘も今はそれでいいって雰囲気だし、オレも今は結構一杯一杯なんだよ。公認二股も、まだ1週間くらいしか経ってないんだぞ」


 そう、たったの1週間だ。

 逃避になるけど、高校1年の陰キャに何もかも受け入れたり出来るわけがないのだ。


「フーン。けどさあ、ハルカさんをこっちでも蘇らせるんでしょ。成功したらどうすんの?」


「どうって、万々歳だろ」


「公認二股は? 二人がそれぞれ片方にしかいないから成立するわけじゃん」


「ハルカさん的には、復活する可能性は限りなくゼロって思ってるからなあ」


「けど、方法探すんだ」


「口にした以上、やるだけやってみる。今はそれ以上考えない事にしてる」


 改めて口にしてみたが、今はそれ以上考えが及ばない。


「あっそ。まあ、私もこっちでハルカさんには会ってみたいし、ガチで協力する」


「おう。頼りにするよ」


 そこで悠里が「じーっ」と、オレの顔を見てくる。


「お兄ちゃんがなんか変わったのって、どっちのおかげ?」


 そんな事を聞いてくるとは思わなかったが、自分でも少し変わったかもと思うことはある。

 そして誰のおかげかは、言うまでもない。


「……もし変わってるなら、ハルカさんだろうな。認められたかったから」


「なんか、そういうのは分かる気がする」


「逆にさ、悠里も最近ちょっと変わってきたと思ってたけど、『アナザー』に行くようになったからだったんだな」


「そう? 私、飛んで戦ってみんなと騒ぐ以外なんもないけど」


「そうでもないだろ。ライムにまた会えたんだろ」


 その言葉に、悠里が呆気にとられたような表情を浮かべた。そして、小さく笑顔を浮かべる。


「そっか、確かにそうかも。雰囲気と瞳が何となく似てるんだよね」


「へーっ、良かったな。じゃあ、明日ちゃんと会わせてくれな」


「うん。ちゃんと紹介してやる」


 そう言えば、最近は悠里とちゃんと顔を見て話すようになっていた。

 妹が向けてきた顔を見ながら、そんな事を思った。




 結局、その日はそれ以上悠里と向こうでの事を話すことはなかった。

 シズさんの家というか神社の社務所に勉強に行った時は、悠里がシズさんを引っ張って行って少し話し込んでいたが、どっちもオレには何も話してくれなかった。


 そしてその日は、夕方からバイトなのだけど、昼は部活と称したオレの『アナザー・スカイ』独演会の予定が入っていた。

 二週間ぶりな事もあって、午後1時からバイトのギリギリまでの時間の予定だ。最悪、バイトが遅刻しそうな場合はタクミがフォローしてくれる事にすらなっている。

 おかげでレナと二人で話したりする時間は、シズさんの神社から学校行く時間くらいしかないという虚しさだ。


「ゴメンな、今日は色々忙しくて」


「ううん、全然平気。むしろ毎日会って話するのは、学校行ってる時より多いし」


「言われてみればそうだな。しかも学校でも部活でも隣ってこともないし」


「だよね。私はそれだけでも嬉しいよ」


「そっか」


「何の話だ〜?」


 移動中、学校内を部室に向かっていると、聞き慣れたその上、上機嫌な声が走りながら響いてきた。

 タクミこと、元宮拓海だ。


「うーっす」

「うーっす」

「こんにちわ」


「で、何の話?」


「向こうの話じゃないぞ。ただイチャイチャしてただけ」


「自分でイチャイチャとか言うか普通? そんなんだと、2学期にクラスの連中に弄られるぞ」


 周りに誰もいないので、こんな大胆な事も平気で言えるのはタクミ相手だからだ。

 そしてちゃんとフォローしてくれるのが、タクミというやつだ。


「相手は選んでるって」


「そりゃそうか。で、昨日はなんかあったか?」


「そっちもどうだ?」


「そうそう聞いてくれ。魔法が使えそうだ」


「マジか、やったな。属性は?」


「属性とかはまだ全然。魔法陣が浮かんできて、魔法の基礎ってヤツを勉強させられている感じだな」


 タクミは、話しながら両手で魔方陣がどの辺に現れたとかを表現する。


「ふーん。で、出現の方はまだ大丈夫そうか?」


「全然だと思うぞ。まだ抽象的な雰囲気強いし」


「そりゃ良かった。出来ればあと10日くらい粘ってくれ」


「何か動きが?」


 オレの言葉にタクミが少し思案顔になる。

 気遣いが出来すぎる奴なので、どうせ自分が迷惑になるかもとか考えてそうだ。

 とはいえ、今こっちから言える事は現状報告以外にない。


「世界竜の居るっていう場所に着いただけ。動きがあるなら明日以降だろうな」


「まあ、そうそうイベントはないか」


「でもないって。この二週間、ハーケンで色々ありすぎたし、ノヴァでの話もあるから、話す事一杯だよ」


「二週間ぶりだもんな。ま、頑張れ」


 その辺りまで話したところで部室に到着した。


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