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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第3部

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227「魔の大樹海西部の戦況(2)」

「この春先から、魔の大樹海南縁の魔物が活性化しつつあり、特にこの1ヶ月ほどが酷い。樹海での魔物狩りも、南部では危険で出来ない程だ。悪魔が率いていると思われる魔物どもは樹海の南縁に集結中で、ノヴァへ侵攻する様子すら見せている。

 そこで状況を安定させる為、ノヴァ評議会は急遽魔の大樹海への一定程度の鎮定を決定した」


 話を切り出したジン議員の話だけど、正直面倒臭そうな話だ。

 どうしてこう行く先々で、厄介事が待っているのだろうかと、ため息の一つも漏れそうになる。


「まるで魔王の軍勢ね」


「本当にそうだ。だから本当に、西の魔物の集団を殲滅してくれたのは助かった。犠牲も最小限で済んだしね」


「犠牲は少なくないんじゃない?」


 ジン議員の言葉に、ハルカさんが強く反応した。


「純粋に数字だけで言うと、7人の犠牲であそこを全滅できたのなら、と言ったところだね」


「それ以上言ってたら、この場で街を出てたわよ」


「だろうね。だが事実だ。我々は魔物どもとの戦争をしているんだ。戦争である以上、こちらの犠牲がゼロとはいかないと覚悟しないとね」


 二人が強い視線で見つめ合う。いや睨み合う。

 それ以前に、こんな緊迫した空気は止めて欲しい。胃がキリキリしてきそうだ。

 チラリと見ると、レイ博士も同じ思いのようだ。

 けど二人は、容赦なく言葉の応酬を続ける。


「それ、神官に戦争に関われって言ってるのと同じよ」


「そうだが、違う。『ダブル』全体が仕出かした後始末に関わってもらいたいという要請だ。それにルカ君は、半ば名目上とはいえ評議会議員の筈だが」


「ジン議員、依頼するんならいい加減頭を下げたら。この娘、断れないわよ」


「リン!」


 ハルカさんとジン議員が、厳しい言葉の応酬で半ば睨み合っているところに、銀髪の美人さんが二人の間に入った。

 この人も胆力のある人だ。


「ごめんなさい。けどね、借りられるなら誰の手でも借りたい状態なのよ」


「そこまで大変なの? 飛行場に寄った時は、むしろ閑散としてたけど」


 リンさんが目で謝ると、ハルカさんの表情も少し和らいだ。


「空軍は、既に作戦に備えて樹海の縁の前線に移動している。空輸も市民軍の移動に一部動員している影響で、飛行場には少なくなっている」


「ボク達が飛行場降りた時、知り合いは何も言ってなかったし、訓練しようって約束したんだけど」


「箝口令が敷いてあるからね。それに実戦が近いから、熟練者に教えを請うのは当然だろう」


 魔物と戦争状態というのは意外だった。

 オレ達は、何も知らずに戦争のまっただ中にやって来てしまった、という事らしい。

 しかも何の脈絡もなく、西の魔物の集団を全滅させたのだから、敵も味方も大騒ぎなのは当然だ。

 ジン議員が、ここに押し掛けたわけである。


「状況はある程度理解したわ。けど、数人が加わったところで大した変化はないでしょうに。そこまで悪いの?」


「そうね。今はまだ何とか均衡を保ってるけど、3か月後にはどうなっているか。ハルカ達が西の集団を殲滅してくれたお陰で、1か月くらい稼げたかしら」


「そしてそれを一瞬で成し遂げたルカ君達に、正式に協力を要請したい」


 ジン議員が、一度立ち上がって頭を60度ほど下げた。雰囲気も真摯なものに思える。

 そしてこうして出られると、ハルカさんは断りづらいだろう。

 だからシズさんが機先を制しようとしたが、リンさんに先を越された。


「魔物の大群が迫っているから、最初の作戦はもうすぐなのよ。予定では3日後に作戦開始の予定」


「しかし、西の集団が殲滅されたので、そちらに備える予定の部隊の再配置と指揮系統の変更が必要になる。皆さんを頭数に入れることについても、連動して部隊の再配置を考えないといけない。

 諸々でプラス2日。それに作戦自体は、樹海の縁に集結している魔物どもが逃げるか想定外の事態が発生しない限り、2日、48時間で切り上げる」


 そこまで言われて、ハルカさんが小さく嘆息した。


「一週間で片がつくなら、協力させていただくわ」


「ありがとう、感謝する」


「ごめんなさいね」


 二人がそう言って、座ったまま頭をさげる。


「ううん。その代わりなんだけど、」


「報奨なら出来る限り用意てしよう」


 ジン議員の言葉に、ハルカさんがゆっくり首を横に振る。


「報奨が金品ならいらないわ。それより、取り敢えず半年前に遡って一年分の私の評議員としての休暇と、従者たちにノヴァでの相応の地位を用意しておいて」


「そう言えばお金持ちだったわね。けど、その程度だったら報酬安すぎない?」


「私達をどれだけこき使うつもりなのよ」


「強い人が頼られるのは、この世界の不文律でしょう。そこは諦めて」


 女性二人の苦笑いで、この場は治まったようだ。

 そこに「お茶を入れなおしました」と、クロが絶妙のタイミングでそれぞれのお茶を交換していく。

 そして全員が新しいお茶で一服して、具体的な話を聞くことになった。

 甘い茶菓子も忘れていないのは流石としか言いようがない。


「美味しいお茶だ。ゴーレムが入れたとは思えないな。レイ博士、よく彼を送り出す気になったな。私だったら、このまま仕えさせるが」


「吾輩にはスミレがいるから問題ない。それにゴーレムとは言え、男を侍らせる趣味は持っておらん」


「ジン博士らしい。で、他のゴーレムについては?」


 軽いトークから、そのまま本題へと入っていく。

 交渉に慣れているのがよくわかる。オレでは、会話に入り込む隙間すら見つけられない。


「魔の大樹海の境界で、開拓と雑魚掃除をしておるやつらは動かせんぞ。ただでさえ最近は、魔物どもにジワジワと数を減らされておるからな」


「その点は理解している。作戦にはどの程度集中させられそうだ?」


「主力の中型50体は、すでに中央を進んでいる。それに一昨日、後発で同じく中型10体を中央に送り出した。作戦には間に合うだろう。ノヴァに残っているのは、普通の開拓に使う補充用だ」


「西の方のゴーレムは全滅したのよね」


「開拓用と館の警備を除くと、もともと数が少なかったからな。それに地龍相手では、開拓用のゴーレムでは歯が立たん」


 憮然といった風に嘆く。それに、用途を間違えるなと言っている風にも聞こえる。この辺りは技術者っぽい。


「地龍相手なら、ファイアブレスを防ぐ時の盾に使えるでしょう」


「それだけだ。ゴーレムは質量自体が武器みたいなもんだから、相手がよりデカくてはな」


「ねえ、ハルカ、地龍と戦った感想は? どこから湧いてきたのか、ほとんど新参の敵で情報がないのよ」


 そこでオレ達は顔を見合わす。


「私達の戦い方は参考にならないわよ。空から背に降りて、ドラゴンが気付く前に頭を貫いて頭の魔石を砕いてお終いだもの」


「それに、だいたいはヴァイスが潰すか吹き飛ばしたしね」


「それでしたら、わたくしが代わりに報告させて頂きますが?」


 と、給仕をして後ろに控えていたスミレさんが小さく挙手した。


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