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楽士伯の姫君は、心のままに歌う  作者: 汐の音
エピローグ

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243/244

243 仲良きことは

 晴れて翌日。

 レガート主催による第二回大陸会議は、そうそうたる各国代表らが(つど)って執り行われた。

 進行役は皇王マルセル。議題提唱者はウィズルのディレイ王。


 ある程度の紛糾も予想されたが、主催国の一部面々が奔走した事前の根回しが効いたのか。はたまた(くだん)の青年王の、存外に等身大な態度に毒気を抜かれた者が多数現れたことが幸いしたか。

 どの国も、相応の代価を設定しての《鷹便》導入を決定した。

 なかには不躾な態度でかれを怒らせ、支払い能力ギリギリの痛いところを吹っ掛けられた東方都市群の太守もいたが。


 ――実際、どこも喉から手が出るほど欲していた通信技術だ。農業国アルトナは全面的な食料支援を。

 サングリード聖教会は慈善事業と教育の質の向上を。難民支援に関してはなんと、大国セフュラが名乗り出た。


 プラチナの短い髪。紫水晶の瞳。灼けた肌の造作は雄々しい美形の見本市。壮年に差し掛かってなお、派手さに衰えの見えぬ国王ジュードは軽く挙手し、しれっと発言した。


『うちは、人手はいくらあってもいい。食料も物資も豊富だ。寄越しさえしてくれれば、食い扶持(ぶち)は自分達で稼いでもらう。だが……』


 さっと、旧知の仲である皇王と臨席する皇国楽士団団長アルム、及び芸術府長官であるイヴァンに視線を流す。


『なかには、労働に向かない高齢者や子ども、女性もいるだろう。軽い仕事も無くはないが。

 男も含め、学者肌や繊細な感性の者は貴国(そちら)が得意なのでは?』


 ――……ふぅむ、と、一応の納得の色を見せて皇王が頷いた。


『善処しよう』


『……』


 こいつの、こんなところが狸だよな……と顔をしかめつつ。

 ジュードは『うちからは、以上だ』と告げて口を閉ざし、椅子に身を沈めた。


 すると、予想外な国からも声が上がった。


『すまない。提案があります。学者肌の人間や、視力のいい人間に関してですが』


 列強と呼ばれる白夜(びゃくや)国の王太子も。マルセルもジュードも。ほとんどの首脳陣はかれを見たことがない。

 列席した一同は、もれなく青年を凝視した。


『貴殿は?』


 元はといえば、ウィズルの民だった者達の行く末に関する議題だ。

 ディレイは進行のマルセルの(げん)を待たず、低く問いかけた。


 問われた青年――オルトリハスの《星読み》キオンは笑みつつ、どこか嬉しそうに名乗った。その、誰も予想し得なかった発言の意図も含めて。




   *   *   *




「見てレイン。あのかた達、同窓会みたい」


「あぁ……まさに。実際そうですよね。皇王陛下に雪花(ゆきはな)妃殿下。それにアルム様とジュード王。皆さん、こっちの学院に籍を置いておられたそうですから」


「そっか。なるほど」


 会議を終えて。

 肩の荷をとりあえず下ろしたような人々がさざめき、グラスを片手に談笑を繰り広げる宴の間。

 迎賓館の大会議室から場を移し、国家の代表達は全員皇宮へ。随伴も含めての労いの夜会となっている。

 外は夕闇の(とばり)が降りて静かな雪の夜。しんしんと昼過ぎから降り続け、流石に今夜は積もりそうだと曇る窓の外を眺めた。


 そこに。

 雪の庭で、まるで少年のように互いを小突き合う、残念な『いい大人達』を目にしてしまったわけだ。

(※もちろん皇妃殿下は手を上げたりしない。淑やかに、ころころと笑っている)


 同じようにやや屈み、エウルナリアと同じ目線で窓の外を見つめたレインは、ふっと(まなじり)を和らげた。


「僕たちも、あぁなるんでしょうか」


「なりそうね……」


 二人同時に会場内を振り向く。

 あくまでも今回は国内における外交府特使としての務め。パートナーは夫のレインがいるため、グランはこの場にいない。――が、きっと。


 視線の先では白夜国の王太子とレガートの皇子・皇女らが楽しそうに語らっている。


 今年、第一皇子である皇太子ノエルは白夜の大学を卒業して、春に帰国するという。

 滅多に会えない長兄を交え、弟妹がたはとても嬉しそうだった。

 エウルナリアの頬も自然とほころぶ。


「仲がいいのは、良いことね」


「仲、ですか。……そう言えば『あちら』は意外ですね。ずいぶんと意気投合してますが」


「あぁ……、あのひと達ね? わかるわ。多分、あそこに居れば私もうずうずしちゃうと思う」


(!!!?)

 何気なく指した方向に紛れもない羨望のまなざしを送る妻に、レインはぎょっとした。


「正気ですか、エルゥ? 『触れるな危険』の断トツ一位と僅差の二位、ディレイ王とキオン殿ですよ???」


「あ、うん。確かに困ったかた達だけど。()()()()()()()大体わかるから」


「…………」


 ほわほわとする少女と反比例し、レインのまとう空気がぐんぐんと冷えた。


「エルゥ。ひょっとして、さっき『ちょっと席を外すね』と、単独行動を希望されたのはまさか」


「え。ちょっと待ってレイン、怖いです。笑ってるけど目が怖いよ?」


「当たり前です!!」



 ――――参った。凄い剣幕で怒られてしまった。

 本当に後ろ暗いことはなく、ただ()きの馬車で聞いた『ウィズル王と(じか)に話したい』という、キオンの希望を叶えた――つまり、女王(ステラ)にも釘を刺されていた抜け駆けにならぬよう、会議のあと、内密に二人を引き合わせただけなのに。


 しどろもどろと後退(あとずさ)りし、背後の床まで届くカーテンに埋もれてしまう少女を。

 レインは、ばさっと自分もろとも隠してしまい、あらゆる手段を用いて問い詰めた。






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