表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
楽士伯の姫君は、心のままに歌う  作者: 汐の音
エピローグ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

240/244

240 砂漠と草原の星

 菱の花のようなレガート島。東西南北の突出した岬に港は備えられており、北は基本的に皇室専用。よって、各国は他の三方より入国する手筈となる。

 エウルナリアが任ぜられたのは東の草原(オルトリハス)砂漠(ジール)。南のセフュラ。そして西のウィズルだった。


 細かな人員の管理や流れは外交府の担当官が引き受けているので、エウルナリアが負うのは実際の接待や案内だけ。どちらかと言うと官吏の指示に従い、臨機応変に摩擦を減らして国益をとることを期待されている。


 はず、ではあったが。



「ようこそ、レガティアへ。ステラ陛下にリザイ様。それに……カイザ・ハーン陛下。キオン様」


 予定時刻。東港にて。

 思いもよらず勢揃いした両国首脳陣に周囲の官吏らがこぞってドン引きするなか、少女は全く動じることなく前へと進み出た。優雅な礼をさらりととったあと、平然と話しかける。


「乗り合わせておいでになったのですか?」


「まぁ、そんなところね」


 ふふ、と相変わらず艶かしい褐色肌の女王も冬の湖は寒いと見える。ふかふかの銀豹の毛皮の外套をまとい、以前見た薄衣(うすぎぬ)姿とはがらりと趣を(たが)えていた。


「申し訳ありません、エウルナリア殿。我が君が気まぐれで」


 同じく褐色の肌。長身の女王よりなお高い位置にある生真面目な(おもて)には、ありありと“痛恨の極み”と書いてある。

 エウルナリアは、「いえ」と(かぶり)を振った。


 実際のところ、馬車は予備も用意してある。迎えが一度で済んだのなら、両国が険悪でもない限り(かえ)って助かる。

(険悪……じゃないよね?)

 窺うように、同じくらいの目線の少年の顔を覗き込むと、なぜか赤面された。


「? カイザ様?」


「久しぶり……です。エウルナリア殿。会えて嬉しい」


 こちらも、相変わらず少女のような可憐さが漂う美少年ぶりだった。懐かしさと慕わしさに、思わず笑みほころぶ。


「わたくしも。再びお会いできてとても嬉しいですわ、陛下」


「おや。僕には?」

「キオン様」


 ずい、と、砂漠のリザイほどもある長身の青年が屈み込んでエウルナリアに迫った。

 ――ところ、ふっと離される。

 キオンはカイザに。エウルナリアはレインによって、同時に肘を引かれていた。


 みずからの隣まで少女を連れ戻したレインが、にこり、と一見友好的な笑顔を浮かべる。視線は真っ直ぐキオンに向けられていた。


「星読みの君には、ご機嫌麗しゅう。今も、うつくしいものを愛でるのがお好きですか?」


「きみ……たしか従者の。髪、切った? 似合うね」


 残念ながら会話が噛み合わない。

 げんなりとした少年王が、連れの青年に肘打ちを食らわせて代弁する。


「すまない。うちの変態が……。ご覧の通りさ。今回は初の外遊だからって浮かれてて」


「なるほど」


 うんうん、と納得した様子のレインが腕組みで頷いた。すかさず言い添える。


「実は、結婚しまして。現在はレイン・バードを名乗っております。以後、お見知りおきを」



「え」

「へぇぇ……凄いな。おめでとう」

「あら。やっぱり?」

「…………!」


 四者四様。なかでも、たった一言呟いて悲愴な表情(かお)になってしまったカイザ・ハーンにはちょっと心配になったが、空模様をちらり、と気にしたエウルナリアは、一行にほのぼのと笑いかけた。


「あのぅ……。宜しければ、もう参りませんか? 皆様を無事に迎賓館までお連れするよう、此度の開催主であるマルセル今上陛下より厳重に申し付けられております。若干、雪も降りそうですし。差し支えなければ六人用の馬車を二台、用意してございますが」


「あぁ、……うん。わかった。そうだね」


 灰鼠色(はいねずいろ)の冬空に、光明がさすような麗らかさ。多少強引ではあったが、全員が彼女とその夫になった青年に、さまざまに興味があるのは否めない。


 よって。






「こう……なりますか」


「なるわ。せざるを得ないわ、エウルナリア」


 ――――と。

 カタタン、カラカラカラ……と車輪が廻り、()()()豪奢な大型馬車が主街道(メインストリート)の中央、噴水広場を右折して北上する。目指すは北の皇宮。隣接する迎賓館だ。


 エウルナリアは、外交上問題とならぬ程度の情報を開示しつつ、レガートでの自分達のなれ初めや、ウィズルでの出来事を喋らされた。


 『自分は御者席で構いませんよ』と提案したリザイはもちろん丁重に断り、エウルナリアの右隣に。左隣はレイン。

 進行方向に向かう形で座る対面席には、キオン、カイザ、ステラの順に掛けている。


 キオンは、真ん中の少年の肩をぽん、と叩いた。何事か互いに耳打ちあっていたが、結局また少年が星読みの巫覡(みこ)の頬を緩く殴ったりと、じゃれている。


(元気に……なられたのかな? よかった)


 ほ、と息を()き、安堵も束の間。キオンが切り出した。


「ところで。ウィズルのディレイ王はどうだった? 同じ迎賓館で泊まれるのかな。ぜひ、かれとは(じか)に話してみたいんだけど」


「オルトリハスの。それ、抜け駆けなの?」


 艶然と微笑み、ステラが問いかける。

 磨きたての黒曜石のような瞳で見つめられ、同じく黒髪黒目――しかし象牙色の肌、草原の民そのものの風貌の青年は、軽やかに微笑んだ。


「いいえ、砂漠の星の名を戴く女王。僕は草原の《星読み》として、かれに興味があるだけだよ」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ