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皇王亡命編14



「陛下の魔法だ……」

 どこからともなく、兵士の声が聞こえる。

「きれいな魔法」

 この声はイルミーノだな。まぁ、綺麗かどうかは分からないが、派手ではあるだろうな。

 何せ、やってることは指先からビームを出しているんだから。

 魔法で重要なのはイメージだ。そしてこの世界の魔法使いは、威力の高い魔法を撃とうとすると、巨大なものをイメージする。巨大な火球・巨大な氷塊……そういうのばかり見慣れた兵士たちにとっては、光線(ビーム)は見慣れないものだろう。そもそもイメージが難しいかもしれない。

「おい、この魔法っ!」

 今度は別の兵士の声だ。俺の魔法だとバレなさそうなタイミングでは、俺は何度か使ってるからな。実は俺が使っていたと気付いたのかもしれない。

「あぁ。クローム卿の魔法だ」

 ……おいふざけんな! こっちが本家だぞ!!

「クソ、あの野郎」

「集中してください」

 思わず悪態をつくと、ティモナに注意された。

「分かってる、問題ない」

 分厚い鎧も一瞬で溶かして貫通する魔法とか、間違っても味方に当てる訳にはいかないからな。


「ちゃんと狙いを定めて撃ってるよ」

 何より、馬上からなら歩兵たちの頭越しに狙撃もしやすい。あと、ちゃんと突破されそうなところとか、味方が負傷したところをカバーするように撃っている。

 ただ、あまり殺しすぎると敵が浮足立って逃げてしまうかもしれない。そうなると作戦は失敗だ……だから基点は一つだけで、やりすぎないようにしている。

「一本ずつとか、逆に新鮮だ」

 いつもは十とか二十とか出すからな。いやビームの数え方、本で正しいのか分からないけど。

 あと、一本ずついつも以上に丁寧に撃っているせいで、無駄に力んでいるのか普段より貫通力が高い気がする。さっきから一人だけじゃなく後ろの兵も何人かまとめて撃ち抜いちゃってるし。


「それだけではなく、敵の弓矢や銃弾にも警戒してください」

「分かってる。射線が通りそうなら優先して撃っている」

 とはいえ、弓兵は当たり前だが歩兵の後ろにいる。銃兵に関してはそもそも白兵戦に弱いからここには向かってきていない。

 おかげで、最初の一回以降は矢も飛んできていない。

「ひま」

 そのせいか、イルミーノはそう言って欠伸をした。


 その態度にキレたのか、ティモナが彼女に注意する。

「集中してください。陛下に何かあれば、貴女は殺します」

「できるの?」

 何やってんだ? こいつら。

「イルミーノ、暇だからってティモナにケンカ売るな」

「だってひまー」

 なんで魔法使って人殺しながら、喧嘩の仲裁までやらなきゃならないんだ。

「ティモナも。そいつはそういう生き物だ」

 ゲーナディエッフェが言ってたの、こういうところなんだろうな。他人の命に関心が無いってやつ。俺自身、こうやって魔法で人を殺すのに慣れてしまった。それでも、何も感じない訳じゃない。

 殺した相手が夢に出てきたことも一度や二度じゃない。


 なのに、何も感じないってのはある意味才能だ。まぁ、人を殺して興奮するタイプもいるらしいし、そうでは無かっただけマシだろう。

「大丈夫、将来の旦那さまはちゃんと守るよ」

 ……絶対に側室にはしたくない。


***


 それからもしばらく、俺は炎の光線(フラマ・ラクス)を撃ち続けた。

 戦況は悪くない。近衛は崩れることなく、敵の攻撃を跳ね返し続けている。問題は戦場全体の状況が分からないってところだろうか。まぁ、これはゲーナディエッフェを信じるしかない。

 ただ、味方の歓声が定期的に上がるから、たぶん優勢なんだと思う。


 ……宙に火球が浮かんだのはそんな時だった。

「魔法兵部隊か」

 俺が呟くと、ちょうど複数の火球が弧を描いて飛んでくる。

 近くに来たら防ごうと思ったが、その魔法攻撃はかなり遠くに着弾した。あの辺りは……皇帝直轄兵の銃兵隊がいるところだろうか。

「魔法は射程が読めません。下がりますか」

「私も魔法は防げない」

 警戒するティモナとイルミーノに、俺は問題ないと言葉を返す。

「あの程度なら問題なく防げる。それに……」

 魔法の威力はそれほど高くない。近くに飛んでくれば防壁魔法で防げる。だけどそもそもここには飛んでこないだろう。


「敵も馬鹿じゃない。魔法兵相手に魔法を撃つより、効果的な相手に撃つ」

 魔法攻撃の天敵である防壁魔法で防がれないように、魔法兵のいなさそうなところに魔法を撃つっていうのは基本中の基本だ。

 さて、どうしたものかなぁ。魔法が使えない兵士にとっては、あの程度の魔法でも十分すぎる威力だよなぁ。

「敵の魔法兵部隊の位置は今の攻撃でおおよそ割れたが……」

 あまり派手な魔法を使うと敵が撤退してしまうかもしれない。かといって、俺が魔法攻撃の着弾しそうなところまで走って行って防ぐっていうのも、さすがにちょっとリスクが高すぎる。


 ……それにしても随分と前線に出てきたな。相当近いぞ、これ。

「こちらの魔法兵は?」

「最低限しか残っておりません。主力は別働隊の方ですし……」

 ティモナの言いたいことは分かる。そもそもサロモンが鍛え上げた魔法兵の部隊は、全てアプラーダ攻略の方に回してしまっている。

 この戦場にいるのはラミテッド侯軍の魔法使いばかりで、その魔法兵の練度はあまり高くない。

「防ぐのが精いっぱいで、反撃は厳しいかと」

「だよなぁ」

 そもそも、敵は魔法戦力で優位に立っていると思っていたはずだ。だからここまで魔法を温存していたのだ。



 この世界における魔法兵の戦法は二つ。他の兵を温存するために魔力を消耗して召喚魔法を使うか、強力な魔法を相手に叩き込むために他の兵を盾にして接近するか。

 ただ、この世界の魔法は基本的に空気中の魔力を使う性質上、例えば自分たちが強力な魔法を叩き込もうと魔力を温存していても、相手が積極的に召喚魔法を使い魔力を消耗してしまえば、自分たちが魔法を使う前に魔力枯渇となり、一方的に不利になってしまう。

 だから大抵の戦場において、指揮官は魔法兵に召喚魔法を使わせる。ついでに言うと、召喚魔法はかなり魔力を使う。あと、理論とか仕組みをよく理解せずに使ってる人間が多いのも召喚魔法の特徴だ。


 これは推測だが、恐らく召喚魔法のメカニズムは、どこかに生きている魔獣などの個体を実際に呼び寄せているのではなく、魔力をイメージしやすい既存の生物の形に当てはめて打ち出しているのだと思う。

 だから召喚した魔獣は素直に言うことを聞くし、自発的な思考能力などは無いから複雑な動きはしないことが多い。

 あとほぼ魔力百パーセントの存在だから、銃弾の一発二発ですぐに消滅するし、発動時の消費魔力が大きいのではないだろうか。まぁ、人によっては本当に召喚している人もいるかもしれないが。


 それでも戦場で多用されるのは、比較対象が人の命だからだ。だから弾除けとしてみんな召喚魔法を使わせる。

 ……ちなみに、俺は召喚魔法が大の苦手である。よく言われるのは「精霊を呼び寄せるイメージ」なのだが、「それ実際には呼び寄せてないじゃん」と思ってしまうのでそれでは発動しないのだ。

 むしろ「伝承とか神話でよく使われるから」ってだけで使えてしまう人間の方が異常だと思う。そういう人多いらしいけど。


 閑話休題、そういった事情で召喚魔法は戦場で多用されるのだが、今回は使われなかった。

 敵将の思考は分かる。恐らく魔法兵の戦力で自分たちが圧倒的に優位なことを感じ取っており、火力の高い魔法攻撃で一方的に打撃を与えられると思ったのだろう。

 そして戦闘を進めていくうちに、こちらに魔法兵だけでなく、騎兵戦力もほとんどないことを感じ取った。だから敵はあんなに前線まで魔法兵を出してきた。十分な威力の魔法を確実に帝国軍に当てるために。

「いや、そもそも敵の魔法兵もそれほど練度は高くないのか」

 俺がそう呟くと、ティモナがそれに答える。

「強い、という噂はあまり聞きません。それと密偵の報告では、精鋭はベニマの援軍に向かっている可能性が高いと」

 あぁ、そんなことも言っていたなぁ。だからこんなに近くまで来て、この威力か。


 そんな話をしているうちに、また魔法が投射される。なんというか、すごい手ごろに狩れそうなんだけどなぁ。

「しかしまぁ、あと少し耐えていれば別働隊が魔法を使うか」

「でも取り逃がしてしまうかも」

 うーむ。イルミーノの考えも真っ当だな。まぁ、取り逃がしても良いかなって思えるくらいには練度低いんだけど。でもなぁ、魔法兵は低練度でも貴重だからなぁ。潰せることに越したことは無いんだけど。

 でもそれやると敵、撤退しちゃうかもだしなぁ。


 まぁ、こんな考えができてしまうのは、兵数的に劣勢なはずなのに優勢で戦えているからなんだけど。いや、ほんと凄いわゲーナディエッフェ。

 敵軍は相当攻めあぐねている。たぶんだけど、劣勢になる前に危ないところに援軍を送っている。

 というか、攻めあぐねているから敵は魔法兵を出して来たのか。だとしたらやっぱり、魔法兵を潰してしまうと敵は諦めて撤退しそう……。



「……ん?」

 そんなことを考えていると、左手の木々生い茂る丘陵地帯から一斉に鳥が飛び立ったのが見えた。

 

 ……来たか。いや、もしかするとそういう習性の鳥なだけか。一羽飛び立ったら一斉に飛ぶみたいな。

 いや、だとしてもだな。今ので敵軍の注意は森の方に割かれた。攻撃すべきタイミングで無くとも、勘づかれた可能性があるなら伏兵は動くだろう。俺ならそうする。

「ティモナ、前進するぞ」

「危険すぎます」

 即座に反対する彼に、俺は詳しく状況を説明する。

「左手の丘陵から一斉に鳥たちが飛び立った。たぶん伏兵の軽歩兵隊が動き出した」

 あるいは伏兵がバレて敵に攻撃されたかだが、その場合もやるべきことは変わらない。

「この位置からは見えないが、恐らく騎兵隊がもう敵の背後に迫っている」

 ここまで一切動かずに潜んでいたのに、急に動き出したということは、たぶんそういうことだ。


 さすがに戦況を理解したティモナだが、彼は尚も反論する。

「反撃の際には、伏兵からもゴティロワ族長からも合図があります。もう少しお待ちください」

 なるほど、そういう話が事前にあった訳か。

「反撃の合図と同時に魔法兵を殲滅したい。この位置からだと流石に余の魔法でも厳しい。もう少し近づきたい」

 魔法兵は貴重だから、敵は優先して逃がそうとするだろう。その場合、取り逃がしてしまう可能性が高い。

 何より、敵の魔法はさっきから火球だ。万が一、敵が咄嗟に丘陵の方に向かって撃てば、こちらの伏兵の出鼻がくじけてしまう。


「それでも、目立ちすぎます」

「いや、そっちはもう十分だと思う。皇帝旗などはここから動かさない。なるべく目立たないようにしよう」

 味方の兵士に俺が魔法使ってることを堂々とアピールしていたが、それはもう十分だろう。これからやろうとしているのはどちらかと言えば奇襲の(たぐい)だ。



「……はあ」

 ティモナの口からクソデカいため息が出た。

 常に俺の身の安全を優先するティモナにとって、許しがたい行為だろう。それでも、それがこの戦場において決定打になり得ることも分かっている。

「防御の魔法は」

「減らさない。その代わり、今までと比べ物にならないくらい集中する。たぶん会話もできない」

 俺が今から使おうとしている魔法はかなり地味だ。その代わり、十分な威力がある。


 まぁ、さすがに敵魔法使いを全滅させられるかは分からないが、少なくとももう魔法攻撃ができないくらいの被害は出せるはずだ。

「イルミーノ、死ぬ気で陛下を守りなさい」

「最初からそのつもりだけど」

 馬の手綱はずっとティモナに任せている。俺が命じても、ティモナが動かなければ、前には進まない。それくらい俺はティモナを信用している。

「進みます」

 そのティモナが前に進むことを選んだ。ティモナなら、命がけで俺を守ってくれる。

「陛下が出られる! 近衛第三分隊! ついて来い!!」


***


「近衛長に伝令! 前進せよ!!」

 これから使おうとしている魔法は、炎の光線(フラマ・ラクス)に比べれば地味だ。あれは分かりやすく手元からビームが伸びていく。だから皇帝が魔法を使っているというアピールには最適だった。

 それに比べれば、この魔法は誰が使った魔法か分かりにくいだろう。だが仕方ない。

「ティモナ、合図が来たら教えてくれ」

「かしこまりました」

 仮に敵の魔法使い部隊を討ち漏らしても、魔法が使えなければ脅威ではない。相手の魔法兵が魔法を使えなくなるような威力が必要。となると、相当溜めないとな。


 まず俺は、防壁魔法で箱状の結界を作った。この防壁は、熱を通さず魔力は通す仕様にする。この辺りの条件付けは、昔から得意なんだよね。

「敵を陛下に近づけさせるな!」

 そして俺は右手を天に向け、結界の中で魔力を熱エネルギーに変換する。そしてそれを圧縮……これをひたすら繰り返す。

 たぶんこれ、結界の中でやらないとすぐに周囲の空気と反応してしまうと思う。


 普段から使ってる炎の光線(フラマ・ラクス)は、貫通力を増すためにビーム状にして放出している。鋼でできた重鎧だろうと一瞬で貫通し敵を殺せるように。

「イルミーノ! 左を!!」

「分かってる!」

 ただこれは、逆に言えば非魔法使い向けの攻撃だ。強固な防御魔法には防がれる。


 だから今回は、一撃で敵の魔法兵部隊を戦闘不能にする。とっさには防げない、いわゆる初見殺しの類だ。

「陛下! ……陛下?」

 暴発したら、周りの兵士はみんな死ぬと思う。だからそうならないよう、細心の注意を払っている。

「すごっ。なんか発光しはじめたけど」

 魔力を熱エネルギーに変換し、それを圧縮。熱エネルギーに変換し、圧縮。

 何度も何度も何度も、同時進行で繰り返していく。


「なんか太陽みたいで綺麗だね」

 熱はすぐに冷める。だから炎の光線(フラマ・ラクス)のときは、常に熱エネルギーを継ぎ足している。だが今回の魔法は、一度手元から離れたらエネルギーの追加はできない。それでも問題ないようにしなければ。

「目立たないと言ったのに……!! 矢弾に警戒! 陛下に射線を通すな!」

 あ、敵魔法兵の魔法が見えた。さっきと比べても移動してないらしい。つまりあの辺、魔法使いたちの頭上で結界を解けばいいか。


「矢の射程範囲みたい! そっちも気をつけて!!」

 もし咄嗟に、熱を完全に遮断する防壁魔法を使われたら大したダメージは与えられないだろうな……そうなっても度肝は抜けるように、もう少し溜めるかぁ。

「陛下、合図です! ……陛下?」

 うーん、こんなもんかなぁ。いや、もうちょいかなぁ。正直、こんなにエネルギーを圧縮したことないからなぁ。


 というかこの魔法、完全に欠陥だらけだな。

 速度は出せないし貫通力もないし、正確なコントロールもできないし、射程もかなり短い。そもそも、こんなにも溜めの長い魔法、実戦じゃそうそう使えないだろう。

「周りの兵士さんたち、ひいちゃってるけど大丈夫?」

 しかもこれ、魔法っていうよりただ超高温なだけもんなぁ。単純な、エネルギーの暴力。


「陛下! 合図です陛下!!」

 ん? あぁ合図か。じゃあ反撃の狼煙ということで。

――魔法、投射。

「あれ、なんでこんな光ってんの」

――結界、解除。

落日(カド・ソリス)


――斯くして大地に陽は落ちる。


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― 新着の感想 ―
…うん? カーマイン…何しやがった!?w
[一言] 皆の元気を使わない元気玉かとも思ったが、フリーザが惑星破壊する際に使うヤツ的なイメージの魔法だな
[一言] おお、魔法解禁 無双とまではいかないけど、圧倒的なエネルギーの放出はキモチが良いですね 強力ですが戦術兵器の範疇は超えないレベル。攻城兵器として使用すればチートになるのかな? でも、周りの…
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