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誾千代さま、異世界に転生す 〜 立花 誾千代 異世界道中談 〜 【完結済】  作者: モモル24号


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おまけの追話 かわいい人形


 我とアカネは店構えのしっかりした表通りではなく、裏通りの怪しげな露店通りに向かう。裏通りは漂うなんとも言えぬ臭気があるはずだった。しかしヒイロ対策に微弱な風をまとい、痕跡は消しているため臭いもかがずに済んだの。


「あら嬢ちゃんたち、子供だけで買い物かね」


 気さくに声をかけて来たのは、何やらもろこしのような焼き物を売る店主だ。髪を雑にまとめて鉢巻で抑え、袖のない衣服は煤で汚れ黒ずんでいたが、洗濯はしているようだ。


 アカネ使うの風の魔法に紛れ込んだ匂いは香ばしく、食欲をそそる匂いだ。見た目は雑多としていたが、裏通りは我の思うより、美味そうな香りに満ちていたようだ。


「すまぬな、店主」


「なんだい嬢ちゃん。何か悪さしたのかい。あぁ匂いかい? 酷い店もあるが、まあ大半は気を使っているさ」


 我は見た目で判断した事を詫びる。思えば戦禍の中、彼らも戦っていたのだ。今後我の治める地に人を集めるのならば、この者達が街の人間を支える屋台骨となる。


「あぁ、見てくれは悪いが、腹を壊されても商売上がったりだ。この通りの連中は他所の街より気を使ってるよ。ほら、食ってみな」


 マナコシという実のタレ焼きらしい。我とアカネは気のいい女店主から、もろこしに似た焼きマナコシを貰う。


 ホフホフ‥‥これは熱い。だが甘くて美味いのう。溜‥‥いや醤油だったか。味噌のようにねっとりしたタレが絡み、ずっと齧り付いていられるのう。


 アカネのやつも熱がりながら美味そうに齧り付いておる。この店主、やるではないか。


「気にいったようだね。そいつはサービスしてやるから、次からは買ってくれよ」


 ニコッと拳を突き出して笑う女店主。いい笑顔だのう。


「次と言わず今買うぞ」


 我は財布から大銀貨一枚を取り出し店主へ渡す。


「追加でもう三十本焼くのじゃ」


「焼くのは構わないが、嬢ちゃんこれは大銀貨じゃないか」


「多いと言いたいのじゃな。何、詫びと言伝の手間賃じゃ」


 我は後から目の血走った女侍がやって来ると告げた。そやつにこの焼きマナコシを城へ届けるように伝言を頼んだ。


「そやつが現れなければ、すまぬが店仕舞の後にでも、邸まで届けてほしいのじゃ」


 口止め料とは言わないが、察しの良い女店主はわかったようだ。これでヒイロがやって来ても、少しまた時間が稼ぐことが出来よう。


「そなたの名と店の名があるのなら、我に教えてくれ」


「あはっ、変わった嬢ちゃんだと思ったよ。あたいはスアンよ。店はスアンのマナコシ焼き屋ってとこさね」


 我はスアンとガシッと握手を交わした。職人のしっかりした厚みのある手。先ほどの店主と違って、スアンは人を見る目があるようだ。


「服が欲しいなら、表通りに戻って、緑の看板のエミンの針屋へ行きな。子供好きの奥方が店番をしているだろうから」


 最初に立寄った店がスアンの店で良かったようだの。我はもう一本ずつマナコシ焼きをもらいアカネと食べながら歩く。思ったより腹にたまらないので、童子の身体でも軽く食べれてしまうのう。


「アカネ、この懐紙で口と手を拭いたあと、残った芯を包め。処分するにも場所を考えんとのう」


 マタギ共が狩りをするのに猟犬を使うのがわかる。追われる獲物は我らなのだが、匂いを消しているつもりでも、ヒイロが実際どういう匂いを嗅ぎ分けているのか不明なのだ。


「コバンも誾千代さまに執着されてましたね」


 アカネが、少し気持ち悪そうに話す。たしかにあいつもそうだったな。ヒイロとコバンの二人共、山のような金子よりも我の身につけていたものを欲しがる変態だ。我は指金のせいだと睨んでいるがの。


 アカネがヒイロやコバンに敬称をつけなくなったのも、そのせいだ。齢七つにして、大の大人を汚物を見るような目にさせる奴らが悪いのだがのう。


 我とアカネはスアンから教わった道から表通りに戻った。ヒイロの姿や気配はない。元の道を戻るとヒイロのやつに鉢合わせしかねないから避けたが、こちらへ来ているかもしれぬからの。


 エミンの針屋は建物自体も薄く緑がかっていて、わかりやすかった。


「見てください誾千代さま。可愛らしい帽子です」


 大きな薄橙色の南瓜をくり抜いて、顔のようにした頭に、先の尖った緑の帽子が被せられた人形が立っていた。あの南瓜というやつは唐の南で取れる瓜だったか。


 もろこしに似たマナコシといい、我の国と似たような作物があるのだな。こうして下見に出て体感せねば、知識があろうと何事もわからぬことばかりだ。


「どういう絡繰なのか、箒を使って掃除しておるようじゃな」


 店の前の石畳の通りを、綺麗に掃き清めているのがわかる。近づくと客と認識するのか入口近くに戻り止まっておじぎをした。


「せっかく除けてくれたのだ。入るとしよう」


 入口は少し段差があり、広く厚い板の階段になっていた。踏むとカチッと音がして、ゆっくりと扉が開く。それほど大きな店ではないが、静かで童子の大きさの服が沢山飾られていた。


「あらあら、コレは珍しい小さなお客さんだねぇ」


 店の脇の机と椅子の一つに座る初老の女から声が掛かった。店番をしているという奥方だとわかった。


「我らは服が欲しいのじゃ」


「はいはい。うちはたしかに針子を生業にしてますが、ご覧の通り、服を売っているわけではないのですよ」


「じゃが、マナコシ焼き屋のスアンから、童子の服を買うのならここへ行けと教わったのじゃ」


 針子屋というよりも、人形の服屋と、いうのが正しいようだ。飾られている服は壁の棚に座った状態で並べられている大小様々な人形のための服のようだった。


「あらあら、お調子者のスアンにからかわれたんだね」


「どういうことじゃ?」


「可愛らしいお人形さんみたいな子たちだから、ここへ来させたのよ。いたずらっ子なのよ、彼女は」


 むぅ、またもかつがれたのか。約束は守ってくれるだろうが、素直に信じた我は悔しかった。市井には百戦錬磨の父上のような男に匹敵するような知恵者がゴロゴロおる。


 戦略や戦に関しては、我とてあやつや父上に負けぬ自負があるが、こうした生活に根付く知恵とはまた別だ。悔しいが民草の知識に疎い我はまだまだ学ばねばならぬわ。 

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