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誾千代さま、異世界に転生す 〜 立花 誾千代 異世界道中談 〜 【完結済】  作者: モモル24号


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第二十四話 破算と打算

 ────会議室の中でコバンが包みを広げて見せたのは、人の首だった。我の所からは金の髪と血の色しか見えぬ。


 当人を我は知らぬが、コバンの様子から、おそらくザッマの頭部で相違ないのだろう。


 貴族たちは悲鳴のような叫び声をあげた。


「たかが首一つに騒ぎ過ぎじゃ、腑抜けどめ。コバンよ、この首は反逆者のザッマ子爵のもので間違いないな?」


 コバンには確認を取る。まあ、味方のこやつらの反応で間違いはなさそうだがの。


 我に槍を向ける白具足共まで震えとるが、そなたらはその槍で何人ものもの敵を殺めておるのだろう。


「習慣の違いですよ、誾千代様。この首は間違いなくザッマ子爵のものです。私が討ったので確かです」


 無表情だが褒めてほしいのが丸わかりじゃ。気色悪いのでコバンは無視する。


「既に聞き及んでおるじゃろうが言っておくぞ。ヒイロやネヨーカらの手により、コーザに駐屯するそなたらの兵は討ち取り逃げ出した」


 ザッコの財宝の取り分を巡る話し合いの内に、貴族達は自分達が取り残されたとようやく気がついた。


「我はひとまず父の意思を継ぎ、ザンス領を取り戻すつもりだ。我に協力するのなら、その胴体と頭はそのままにして帰してやるぞ?」


 我がニヤッと笑うと、貴族共が青ざめて震えた。


「反逆者を焚き付けて、我が領内を荒らした者達については……今回は不問と致す。どのみち父と叔父の争いは避けようがなかったからのぅ」


 略奪しようとした品は、色をつけて返してもらう。こやつらに貴族としての誇りがあるのなら、ここでの貸しは大きなものとなるだろう。


 恥知らずな輩でも、しばらくは大人しくせざるを得まい。戦の役には立たぬが、外敵に対して囀る口は有効だ。ロクナーデ公爵とやらもウラブルから話を聞けば、すぐにちょっかいは掛けぬと思う。


 血塗れのヒイロが駆け込んで来て、屠った人数を嬉々として語り出した所で会合は終了した。


 ヒイロの阿呆め、武具が駄目になったからと素手で敵兵どもを殴り殺して回ったらしい。


 ケタケタ笑いながら町中を走り回り、敵兵を殴り殺すかつての剣鬼。狂気じみた強さに、敵兵どころか民衆まで怖れを成したのは言うまでもない。


 最高の結果を望みたい所だが、中々算段通りには行かぬものよ。


 おかげでヒイロを使わして救いの手を述べ、我の片腕として称賛を得る作戦が台無しだ。


 ────指金よ、ヒイロの称号には【阿呆の救い主】と追加しておけ。



 コーザの町を制圧しかえした事で、ザッコ領の掌握は終わった。ザッコ領は、領主町コーザ以外の都市は数はあっても大きくない。


 大半の都市は冒険者ギルドや商業ギルドに管理を任せているため、領主への忠誠という点では、当主に誰がなろうとも変わらない考えが強かった。


 駐屯する門兵も、治安維持の面が強い。魔物退治も賊徒討伐も冒険者達の仕事で、門兵らは引き渡された犯罪者の対応を行う程度だ。


「やり方はいずれ考えねばならぬが、いまはそれで助かっておるの」


 領境にはよくある話だ。王国そのものは安定しているので壁に飾る紋章は王家のものにしておけばいい。


 貴族派閥の影響で当主や領土がコロコロ変わる地は、旗をいくつも用意していると聞く。傭兵もそうだが、戦の多い我のいたような世界ならば、決まった当主がいないギルドのような連中の方が当たり前だった。


「そう考えると、我の家は特殊だったかもしれんのう」


 配下のものも、民も我に非常に懐いておった。あやつを当主にすると決まった時も、我より先に配下のものが父上に抗議しに行きおったからのう。


 阿呆だがヒイロは立花の侍に似ておるのだな。あやつもこの世界に呼ばれてきたのではないか。


 会議室で雁首揃えておった貴族達は奪った荷と、戦の為に持って来た荷も全て差し押さえてやった。道中に入り用な路銀だけ渡してやり追い返した。


 殆どが東から来た貴族達なので、敗残兵をまとめつつ、大人しく帰ってゆく。領土に戻って飼い主にピーチクパーチクと雀のように囀ることだろう。


 口約束に過ぎぬが、我らがザッマ領の併合の為に動いても手出し無用を誓ってくれた。



「あらかた片付いたようだの。町はどうなっておる」


 接収したコーザの領主邸の会議室で、我は主だったものを集めていた。


 本来ならば、働きに応じて報酬をやらねばならぬ。だが、こやつらは勝手について来たからいらぬと申す。


 すでに不相応の給金を分けていたので、ザッコの手のものはわかる。しかし、ラッハルトやネヨーカらは外様だ。


「高潔なのは良いが、貰えるものは貰っておくが良いぞ」


 得るものを得なければ、部下達に不満が残るというもの。


「はっ。ではありがたく頂きます」


 部下達もホッとしたようだ。傭兵達にはネヨーカとは別に報酬を与えた。略奪行為に乗っからず、真面目に働いた礼だ。


「ザッマ領の平定にも乗り出す。出来れば荒らさずに抑えたいゆえ、そなたらが協力してくれるとありがたい」


「こ、光栄でさぁ、誾千代樣! この銀級冒険者メーナード、傭兵隊のメンバーを代表して約束しまさぁ」


 我が傭兵共の手を取りそう告げると、平伏し協力を約束してくれた。


 正規の兵と違い、傭兵共は根無し草。真面目で使えるものは、我が領内に残って働いてもらいたい考えがあるからの。


「おぉリーダー、誾千代様に手を握ってもらったのか」

「異界の姫様というのに何て気さくな」

「あの幼さでヒイロ殿より強いそうだぞ」


 追加報酬を得て何やら傭兵共が騒がしい。


「まだひと仕事残っておるのだから、気を引き締めよ」


 我が注意を促すと、何故か傭兵共は雄叫びをあげた。解せぬやつらよ。まあ働きぶりが良ければ、我の領地で、兵として雇い入れてやるぞ。

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