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誾千代さま、異世界に転生す 〜 立花 誾千代 異世界道中談 〜 【完結済】  作者: モモル24号


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第二十三話 本物と贈り物

 少し話が戻ります。

 ────我らは領主邸の宝を運び出される前に荷車を制圧出来た。荷車ごとラッハルトに預ける。


「町の治安回復はヒイロ達に任せるしかあるまいの。ワドウ、ホーネはラッハルトやセイドーらと共に荷を守れ。近づく敵は問答無用で排除せよ」


 ザッコの使っていた領主邸は外門が一つと、裏手に使用人が使用する為の小さな扉があるのみだった。


 塀はオーガ並に高い石造りで、攻め込まれた際の、最後の砦に相応しい頑丈さに見えた。


 我はアカネとコバンを連れて領主邸の内部へ乗り込む。邸内は庭が広く、兵達の天幕が設置されたままになっていた。


「守備兵は町の施設や宿を占拠していたようですから、ここは各地の部隊の護衛用のものなのでしょう」


 ザッコは貴族としては中位の伯爵。交友のある貴族を自分の邸にてもてなすだけの施設が邸内にあるが、宿泊出来たのは近習だけのようだった。


「……誾千代樣。敵の首魁の一人ザッマ子爵はザッコ様の仇。私に任せて下さいませんか」


「構わぬ、好きにせよ」


 忠義を示したいのと、けじめをつけたい。そう申すのでコバンに任せた。まあ今の状況下ならば、コバン一人動いた方が怪しまれずに済むだろう。


「アカネ、我らは首謀者どもの首を取りに行くぞ」


 コバンから会合を行うのに都合の良い部屋を聞いてある。退散するにせよ、頭目が集まれば顔を突き合せ話し合いたくなるもの。


「当たりじゃな。門兵まで強そうなやつがおる。白い具足……どこかで見た気がするが、こちらが本物のようだの」


 六名程の白具足の騎士が、会議室とやらの入り口を固めていた。


「ほう……子供が紛れ込んでいると聞いたが、俺達の強さが分かるのか」


「我ら白光騎士団は、ザンス侯お抱えの騎士。いまはロクナーデ公預かりだがな」


「……白具足の騎士は皆お喋りなのじゃな。死にたくなければ道を開けよ」


 戦は我らの勝ちじゃ。大人しく逃げ出すならば、頭目どもに我が名を知らしめておかねばならぬ。


 我らにもこの先軍資金が必要だからザッコの邸の宝、民の蓄えを奪わせるわけには行かぬのだよ。


「何を勘違いしたのか分からんが、子供とは言え反逆者ならば死んでもらう」


 白具足の中でもお喋りな大男が前に出て、我より大きな刃の剣を構えた。会議室とやらの前は確かに広いが、そのような剣を振り回せば仲間を巻き込むぞ?


「白光!」


 少しは知恵が回るらしい。大男は何やら呟くと、我らに向かい剣先を構えて駆け出した。


 我は咄嗟にアカネの腕を取り、突進を躱しながら槍先で反らす。


 ────ドゴォーン!!


 我の雷のように、輝きを纏うことで力が増すようじゃな。


「いまのを躱すか。こりゃ外で暴れていた子供達の話は本当だったという事だな」


 大男の向かった先の壁に大穴が開いた。速さはないが、威力はあるようだ。


「二人は扉を守れ。お前はもう一人の娘が魔法を使うなら射殺せ」


 むっ、対応が早い。アカネを庇いながら戦う我に数の優位を有効に活かして来よる。


「外の奴らは弱かっただろう? あれは子爵の為に用意した贈り物だからな」


「なるほど、影武者か」


 ────ドゴッ!


 大剣を振るいながら、大男は愉快そうに話してくる。二名が槍で我の動きを誘導するように突き刺し、大男が我とアカネをとらえぶつかって来る。


「オーガのような男じゃのう」


「一緒にするな……と言いたいが、よく言われる」


「面白いやつじゃ。殺してしまう前に聞きたい事がある。我は立花 誾千代。そなた、名を申せ」


 数度の交錯で消耗し、大男の息があがっておる。魔力とやらと体力のどちらも激しく労疲したようなので、我はあえて待つ。


 こちらにはアカネを守る以上、不利は承知。だが、あちらも建物に被害を出さぬ戦いを一応選んでいるように見えた。今後のためにも、強きものの力は知っておかねばならぬからの。


「俺の名はウラブル。白光騎士団第二部隊の隊長だ」


「第二と申すと、いくつか部隊がおるのじゃな」


「あぁ。子息共に領地が分かれる前より規模も人数も減ったがな」


「ヒイロやアーガスはザッコの騎士とやらにしては強いが、候補だったわけじゃな」


「ヒイロか? あいつは騎士候補どころか隊長になるはずだ。まあ意見の相違でザッコについたが……」


 体力を回復したいのか、お喋りがしたいのか、ウラブルはけっこう内情を話してくれた。まあ極秘するような内容ではないからだろう。


「さて、ウラブルよ。建物の激しい損壊を防ぐ為に、自身の力の制御に力を倍に使う戦い方はキツかろう。我が応えてやるゆえ、全力で来い」


 大人と童子。相手が大男とあって、体格差はさらに開く。鈍かろうと、相手の一歩に対して我は三歩は要する。制限下では速度は互角。互いに全力ならば果たして……。


「お前らは手を出すな。アバル、俺が倒れたらお前が指揮を取れ。嬢ちゃんにお偉方の首を取る気はないから案内してやれ」


「ほう、そなたわかってて試したか」


「そっちこそ、俺で試したかったんだろうが」


「ふっふっふ、愉快なやつだ」


 立花のものにも、変わり者は多かった。大将の座についたあやつからして変わり者だったから当然か。


 年齢はあやつの方が二つほど上だったが、槍さばきも体捌きも祝言の時まで我が勝っていた。


 男というものは、すぐ図に乗るから我は女子であろうと勝ち続けねばならなかった。我が勝っておれば、我の意見を聞き入れ、ずっと一緒に居られたものを……。


 ────ガッシーン!!


 大剣と槍の打ち合う音と、互いの風圧で衝撃が走る。追憶にふけって初動が遅れたせいだな。


 やつに似た雰囲気を醸すこやつが悪い。我は怯えるアカネにしっかりとしがみつかせて、応戦する。


 動きに使った魔法を、単純な力に絞ると恐ろしいくらいの力になるようだ。


 我も雷を身体に纏い、力を高めておるのだが、技量は互角のようだ。


 戦えているのはウラブルめが今だ損壊を気にして大剣へ力を伝えきっておらぬからだ。振り下ろした大剣は、床板を割ることなく我の身体へと薙ぎ払われる。


 急激な力の変化に力を注ぐため、我も打ち合えておるだけだ。猛者というものは真にいるものだと感心したくらいだ。


「どうした嬢ちゃん。殺す気で来なければ後ろの嬢ちゃん諸共叩き斬るぜ」


「抜かせ。そなたこそ全力ではないではないか。興醒めじゃ」


 こんな狭い建物で出会うべき男ではない。殺り合うのなら戦の場が似合うやつだ。


「害意がないのがわかっておるのなら、剣を引け。あくまで反逆の徒として処分を考えるのなら別だがな」


「いいや、俺達の役割は会合二集う連中の警護だ。文句があるなら自分達で戦えばいいさ」


「それは道理というものじゃな。ならばウラブルとアバルとやら、中まで共をいたせ」


 否とは言わせぬ。面子を気にするような男ではないとわかったが、己の口で話させた方が良かろう。


「アカネ、ゆくぞ」


「うぅ……誾千代さま、無茶し過ぎです」


 アカネは無意識に風の魔法で速度をあげて、 我の体捌きについてきていた。アカネは戦闘向きではないが、こうした戦いへの適応が早い。肝も座っておるし思うたより伸びそうで楽しみだ。


 ウラブルが何やら言葉を発して、会議室とやらの扉から開錠の音がした。ザッコの蔵もそうだが魔法の理はようわからぬが、戦いよりも何気ない生活において使うのに便利な気がする。


 扉のなかは小部屋のような広間のような空間があり、左右に休息用の部屋と給仕達の使う厨、別邸でみた厠の部屋があった。


 突き当りにもう一つ大きな扉があり、ウラブル達と別な白具足の者たちが四名いた。


「ウラブル殿、戦闘が行われていたようですが」

「そちらの方は?」


 ウラブルへの言葉を見る限り、同格の別の隊の者たちのようだ。不審そうに我とアカネに目を向けて来る。


「お偉いさんへの客人だ。念のため、このまま俺達が案内するがいいよな?」


 いいよな、の部分は脅しだな。力関係はウラブル、信頼性は中のこやつらといった感じか。


「いいですが、我らからも二名つけますよ」


 門番をしていた白具足の二名がそのまま我とアカネの背後についた。おかしな真似をすれば刺し殺すつもりだな。


 それでもすんなり通れたので問題はない。扉を開けるとテーブルという長い床机があり、壁は一面硝子で出来た窓があり、陽の光でだいぶ明るい。床机に並ぶ椅子には、ザッコのように着飾ったむさいおっさん共がいた。 


 扉が開いた事に気づかず騒いでおったが、存在感のある大男のウラブルの影に気づき、会話が止まる。


「護衛の白光騎士が何のようだウラブル」


 こやつがデカいせいで、貴族共からは我とアカネの姿が見えないようだ。


「ウラブル、どけ、邪魔じゃ」


「イテッ」


 デカい尻に向かって拳で殴ってどかす。ウラブルが横にズレたので、ようやく部屋の全体がしっかり見えた。


 コーザに集まった貴族の代表達は、我の姿を見るなり再びざわめき出した。


「鎮まるのじゃ。我が名は立花 誾千代。ザッコの世継ぎたる我に謂れなき反逆の汚名を被せ、領土を荒らす者は誰ぞ! この手で成敗してやるから名乗り出るのじゃ!!」


 我の怒号と問いかけに、床机周りの貴族共が怯んだのがわかった。童子と言えど立花の名を前に、身を震わせるのは当然だ。


「──違うと思いますけど……」


 我が名に奮いながら、アカネが何やらボソッと述べた。


「企みを行ったものは、この場におらぬと言うのか。ならばそなたらは我をザッコの跡継ぎと認め、兄を弑逆せしザッマを反逆の首謀と認めるのだな」


 証人はウラブルで良いな。こやつの図太さと強さならば、両兄弟が亡き後に父親が出しゃばって来ようとも跳ね除けてくれるだろう。


「な、なにを言っているんだ」

「ザッコ殿に子がいたなど聞いとらんぞ!」

「立花 誾千代などと言うが、ただの子供ではないか」

「白光騎士は何をしていた。さっさと捕らえよ!」

「ザッマ殿を呼べ。その子供こそ世継ぎを詐称する者だ」


 何じゃ、こやつら。あまりに反応が鈍いので我を認め、大人しく帰るのではなかったのか。


「いま我に敵対すると申すのなら、この場で殺す。手加減はせぬぞ」


 我は手にする槍の石突を床に打ち付け威嚇する。ウラブルめは武器の形態を気にしてなかったからのう。


 後ろの二人が我に対して同じように槍を構える。ただしこちらは穂先を我とアカネに向けているようだが。


「愚かだが、そなたらには自分の首を領土に届けて、立花の名を広めてもらわねばならぬ」


 会議室の外も騒がしい。コバンかヒイロがやって来たか。


「そなたらが逃げ出す算段をしている間に、反逆の首謀者の首が届いたようじゃな」


 すんなり通れた所をみると、やって来たのはコバンだとわかる。微かに血の匂いがする。ならば手に提げた風呂敷包みはザッマの首だろう。


「遅くなりました、誾千代様。ザッコ様を陥れ、周辺の貴族の方々を騙して巻き込んだ真の叛逆首謀者の首をご覧下さい」


 コバンめ、表情一つ変えぬとは恐ろしいやつよの。裏切りの誹りを受ける事など、意にも介しておらぬ様子だ。


 コバンは我らより先へ進み、貴族のいる床机に包みを置いた。ろくな武具も持っていないが、一応白具足のものがコバンにもついて来る。


 戦の場で悠長に茶を啜りながら騒いでおる貴族共には良い刺激になるだろう。






 

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