第二十一話 ヒイロ、覚醒?
作戦は我の予想通りに展開して進んだ。領主町コーザを占拠していたのは、ザッマ子爵率いる騎士団五十名と、子爵軍千の兵だった。他にもこちら同様に黒ずくめの傭兵達が見受けられた。
報告を受けていたのか町の門は閉ざされ、町の防御機能を利用して戦うつもりだったようだ。
しかし戦うべき兵がおらず、荷馬車六台と各荷馬車に数名しか兵の姿が見えなかった。
打ち合わせ通り、ラッハルトは慌てた様子を見せて我とヒイロとアカネを置いて踵を返した。中々良い演技をする。
戦わずして逃げる姿に、戦闘開始を今か今かと待っていた連中は拍子抜けを食らう。
堰を切るように門扉が開き、奴らが来る。
「奴らと入れ違いに飛び込むぞ」
あちらから門扉を開けようというのだ。遠慮なく通らせてもらう。
ヒイロと童子二人を見てニヤつく兵達を、我とヒイロで斬り結びながら進む。アカネは我から離れず魔法の力も温存していた。
血飛沫が上がるが先に荷馬車を追ったもの達は惨状に気がついていない。
「つ、強いぞこいつら」
「あれは剣鬼ヒイロだ!」
「ちっこいのになんて槍さばきだ」
失礼な奴らめ。ヒイロ目当てに群がる兵達は全て血の海へ沈んだ。
荷馬車目当てに駆け出したもの達や、女子供と見て飛び出したものなど無視して門扉が閉められると不味かった。
動揺した町の中に残る敵兵は、駆け込む我らにしか注視していなかったようだ。
「作戦は成功じゃ。このまま突き進む。アカネ、離れるなよ!」
槍と剣を振るう速度が増す。アカネを挟むように、我とヒイロは互いの正面の敵を回舞して斬り進んだ。
敵の数が予想より多い。中央貴族や北の貴族の動きを見て、東の公爵とやらも本気で争いの渦中に乗り出したようだ。
「旗色はザッマ子爵のものですが、盾や鎧の紋章がバラバラです。あちらも連合ではないでしょうか」
ヒイロめ、余裕があるのう。数は厄介だが強くはない。ヒイロの剣幕に腰が引けとるからの。
「ここで貴族どもが集結しているとなると、ザッコ領は既に陥落したな」
ザッコの生死は問わず、機先を制したようだ。しかし、退くわけにはいかぬ。
「ヒイロ、アカネ、作戦は変更じゃ。大将首を取りに行く」
集まる兵の数を見るに、町中には、五千近い兵がいると思われた。
こちらの底がバレては元も子もない。余力あるうちに大将首を取り、動揺を誘う必要があった。
「白光騎士隊だ!」
「魔法に巻き込まれるぞ!」
「退がれ、皆退がれ!!」
何やら騒がしい。この忙しい最中に、やつらの主力がやって来たようだ。
「剣鬼ヒイロ、お久しぶりですね」
白い具足で統一された優男を筆頭に、十名もの白い騎士とやらが我らを囲う。雑兵共が退いてくれて、こちらは助かったというもの。
「私の誘いを断ったばかりに、ザッコなどという愚物に言いように使われた挙げ句、反逆者の汚名を被る事になるとは……」
「なるほど、そういう魂胆か。根回しで負けておるようじゃの」
ヒイロに因縁があるのと自信家なせいか、こやつは自分からぺらぺらと欲しい情報を吐いてくれた。
「……なんです、この子供は」
我に言葉を遮られ不快な表情を浮かべる優男。我を知らぬか、不運なやつめ。
「死装束とは良い覚悟じゃ。我は立花 誾千代。そなたらの覚悟に免じ、槍を馳走してやろうぞ!」
「────来たぁぁぁ〜〜!!」
ヒイロの阿呆め、力が抜けるではないか。我が名乗りでヒイロとアカネに力が宿る。
ザシュ────!!
我の横では、アカネが魔法を発した。風の刃が、白い具足の男の首をスパッと斬った。首が落ちると同時に血が間欠泉のように吹き出した。
「やるではないか、アカネ」
「う〜〜、昂ぶって魔法が出ちゃいました」
言うが早いか我の槍とアカネの風刃でまた一人血飛沫をあげ白い騎士が崩れた。
ヒイロは狂喜に満ちた表情で、三名の騎士を切り裂いた。
「なっ……」
ヒイロにガン無視された優男などポカンと口を開けたまま首と胴が離れた。
「フリオール様が一瞬で……」
「白光騎士隊だぞ、何が起きてる?」
「魔法で聖騎士様がやられるはずがない!」
おぉ、こやつらのお陰で計らずとも恐慌を作り出せた。
「立花の前に、白光騎士なるものなぞ物の役にも立たぬわ!」
我の叫びに、呼応するようにヒイロの力がさらに増した。
────待て、我よりそなたが暴れてどうする。
「────漲ります、高まります、荒ぶります〜〜!!!」
ヒイロは駄目だ、我にも制御不能だ。義姉妹の絆なるものを外せば制御可能だが……敵兵をしっかり屠っておるようだし、大丈夫そうだの。
アカネは白具足の騎士を三名倒して満足したようだ。ヒイロよりもしっかりしておるようで頼りになる。
町の外から門扉へと敵兵が逃げ帰って来た。アーガス達が追撃し敵兵が敵の……つまり我らの援護の大軍が来たと騒ぎ立てた。
雪崩混む両軍の区別など一瞬で判断など難しい。そこかしこで同士討ちが発生した中、ヒイロに恐れをなしたもの達が逃げ出して大混乱となった。
アーガスらは守りを固めながら冷静に敵の数を減らしてゆく。自滅する兵達がさらなる混乱を生み、コーザの町から逃げ出してゆく。
ようやく出番が来たとばかりに、ルデキヨ男爵のネヨーカ部隊が押し寄せる。敵兵は恐慌を来たし、武具を投げ捨て次々と逃げ出して行った。




