40話 絶好のタイミング
季節は夏。
学校は夏休みなので、家でエアコンをつけて妹とぐーたらしていたある日。
ふいに、ボロンとOwatterの通知音が鳴った。
服部からのダイレクトメッセージだ。
『高橋、今度の土日に超乱闘の知り合い達とオフ会するんだが、お前も来ないか?』
おお、オフ会。
服部が誘ってくれたなら当然行く。そういえば、服部とはアパートで超乱闘はよくしていたもののしばらく外で遊んでなかったな。
『行く。何するの?』
『まずはコミケだな。んで用が住んだらどっかに遊びにいく予定だ』
ふむ、コミケ。
言わずと知れた国内最大の同人誌即売会だ。
そういえば、今度あるんだったな。
コミケといえば同人誌だけど、コスプレも名物になっているイメージがある。同人誌にも興味があるけど、コスプレに参加してみたさが強い。
今までは俺の家か服部アパートでコスプレ写真を撮って裏垢にあげるくらいしかしていなかったけど、大勢がいる場所で披露してみるのも一興かもしれない。
この前思考誘導の魔法も教えてもらったし、面倒なことも起こらないだろう。
みーさんを誘ってみるのもいいかもしれない。
ということでみーさんを誘ってみたら、『行く!!』とのことなので、コスプレの内容を決めて、後日、衣装作りに服部アパートに集まることになった。
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『夏コミ2日目のお昼頃から、みーさんとコスプレ枠で参加します!』
場所は服部アパート。
衣装がいい感じに出来上がったので、Owatterで宣伝する。
当日は服部を含めた超乱闘のオフ会に加わるって形になるので、俺たちは超乱闘のキャラクターのコスプレをすることにした。
俺は白髪赤目なので、ちょうど同じ色であり俺の愛用キャラである竜女のコスプレだ。
白い鎧に青いマントと金の剣という、女騎士っぽい格好だね。
そして、このキャラは俺のように耳が尖っているので、俺の耳が見えてしまってもコスプレと言い訳することができるのでかなり都合がいい。
「私も宣伝したよ!」
みーさんは黒髪茶目なので、超乱闘の黒髪茶目キャラであるモンスター使いの少女のコスプレだ。
水色の袖なし服と赤いミニスカ、加えて白い帽子とルーズソックスっていうちょっと露出が多い格好だね。
このキャラは黄色のカバンとモンスターを捕獲できる謎のボールを持っているので、それも用意した。
服部は物作りの専門だし、もともと俺と服部が服飾部だったのもあって、数日でもそれなりの出来になった。
でもコミケのコスプレエリアは屋外らしいので当日はずっと傘を差すか日陰にいることになるが、まあしょうがないかな。
『まじ!?』
『絶対行きます!』
『実物のスノウちゃんを拝める!?』
『スノウちゃんとみーさんだけ見に行くわ』
『沖縄から行きます』
つぶやきにはすぐに数々のコメントが来た。
俺も今から楽しみだ。
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ついにやってきたオフ会当日。
まずは最寄り駅でみーさんと待ち合わせして、2人で春コミ会場に行き、そこで服部たちと合流する。
というわけで、家を出た俺はサングラスをかけて、光が全部消えるバージョンの透明化魔法を使った。
やっぱこれすごいな。
外にいるのに全く体がヒリヒリしない。
いざ、透明化ダッシュ!......って、ん?
今なんか、いきなり目の前に女の子が現れたような。
何もないところから音もなく急に現れる女の子......うん、そんなの1人しかいないね。
そうだ。俺は今透明化してるし、あのでっかいおっぱいでも揉んで脅かしてみよう。
『あっセツナさん、できましたよ』
「......」
普通に気付かれた。
さすが、マナ感知うまいなちくしょう。
俺は日傘を差してサングラスと透明化を解除した。
『できたって、まさか頼んでた魔法!?』
『はい、魔力消費は多くなっちゃいましたが』
そう言ってユーリアは魔法陣を展開した。
『こんな感じです。1陣目は、自分に当たる光を読み込んで、その光が反射した後どうなるか演算する魔法陣です。そして2陣目が、自分に当たる光を消して、演算結果を元に光を再現する魔法陣です』
ふむ。
つまり、光を消しても周りから見えるように魔法で光を生み出すから、その生み出す光を事前に演算してから光を消すということか。
『あと、瞳孔の部分は可視光だけ通すようにしました。演算が難しくてかなり時間がかかってしまいましたが、これで光を全て消しても周りから見えるようになりますよ』
『ありがとう!』
ともかく、この魔法があれば外でも普通に過ごすことができる。
もう日光に苦しむ必要がなくなったのだ。
これは多大に感謝しなければなるまい。
『以前頂いた「量子論」の本がなければできませんでした。日本の科学はすごいですね』
いやそれ大学レベル!!
この短期間でそんなとこまで理解しちゃったの!?
もともと知ってたけど、頭の良さが異次元すぎる。
とりあえず、俺はユーリアが展開している魔法陣を模写して発動してみた。
『見えてる?』
『ええ、ちゃんと見えてますよ』
傘を閉じると......おお、日光が痛くない!
でも、ユーリアが言っていた通り魔力消費はかなり多いみたいだね。特に1陣目にガンガン吸われてる感じがする。
体感だと、妹やみーさんの血でも、吸血1回分で3時間かそこらしか持たないと思う。
にしても、なんていいタイミングだ。もう少し遅ければ今日のコミケはずっと日傘で過ごすことになっていた。
『すごいわ、本当にありがとう!今から出かけるところだったからかなり助かったわ。あ、そうだ、せっかくだしユーリアも一緒に来ない?』
『えっ?うーん、確かに、日本がどういうところなのかちょっと気になっていました。どこに行くんですか?』
『日本の娯楽文化のイベントよ。まあ、ユーリアは退屈するかもしれないけど』
『行ってみたいです。満足したら帰りますので』
来てくれるらしい。
だったらこの機会に日本についていろいろ教えられたらいいね。
......あ、そういえばそろそろ時間がまずいかも。
『ユーリアって全力ならどのくらいで走れる?』
『うーん、まあ、それなりには』
『なら、ついてきて!あと透明化魔法も使って!』
『えっ?』
俺は透明化魔法を使って駅に向かって走った。
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みーさんはもう駅で待っていた。
「みーさんごめん、遅くなっちゃった」
「スノウちゃん!ううん、いいよ、まだ余裕あるし......?その子は?」
「この子はユーリア。私の恩人だよ」
「ユーリア・ターナサイドです」
ユーリアはそう言うと、何かがわからなそうに首を傾げた。
『セツナさん、魔術師って日本語で何ていうんですか?』
『「魔術師」よ。でも、この世界に魔法を使える人はいないから隠しておいて。あと今日は私のことはスノウって呼んで』
『......?わかりました』
自分を魔術師とでも紹介しようとしていたのかな。
みーさんにならいいけど、他の人に魔術師だなんて名乗ったらただの痛い女の子になるし、隠させておこう。
「えっ、スノウちゃんってバイリンガルだったの?」
「うん。まあ、これは異世界語なんだけど」
「い、異世界!?」
「ばいりんがる?」
2人には説明することが結構ありそうだけど、続きは電車でかな。
「まあその辺は後で説明するよ。それで、今日はこの子も連れていきたいんだけど、いいかな?」
「う、うん、それはもちろん!あ、私はスノウちゃんの友達です!みーさんって呼んでください!」
「はい、みーさん」




