第167話 ホワイトタイガーの大手柄
まるで道案内をするように、ホワイトタイガーはすんすんと地面を嗅ぎながら前進していく。
その白く美しい身体が頼もしげに道を進む姿に、アメリアたちも無意識にその後ろをトコトコとついて行った。
エントランスから庭園へ、さらに昨日通った森の道を辿る。
ホワイトタイガーは時折振り返り、アメリアたちがちゃんとついてきているかを確認するような素振りを見せた。
距離が少しでも開くと足取りを緩め、アメリアたちが追いつくのを待ってくれる。
その様子はまるで彼らを守りながら導いているかのようだった。
こうして着いていっていると……。
「ここは……」
ローガンが呟く。
湖の澄んだ水面が朝の光を浴びてきらきらと輝いている。
そう、ここは昨日、ローガンとアメリアがボートを漕いで訪れた湖だ。
ホワイトタイガーはその湖岸の近くで足を止め、凛とした姿で「がるっ」と短く鳴いた。
その仕草はまるで「ここを見てほしい」と訴えているかのよう。
ここまでくると、なんとなくホワイトタイガーの意図をアメリアは読み取っていた。
まさか、そんな、という気持ちはありつつも、アメリアはホワイトタイガーにの元に駆け寄り、その場所を覗き込む。すると、そこには小さなきらめきが隠れていた。
「あっ!!」
アメリアは思わず声を上げる。
赤く、きらりと光る物体は、彼女が必死に探していたペンダントだった。
「こんなところにあったのね……!!」
アメリアは震える手でペンダントを拾い上げると、クラウン・ブラッドのダイヤをしっかりと確認する。
幸いにも壊れた様子はなく、傷一つない。
「良かった……」
アメリアは心底安堵し、その場でほっとした表情を浮かべた。
「これは見つからないはずだな……」
ローガンは納得するように頷いた。
おそらく昨日、岸に上がる際に何かの拍子で外れてしまったのだろう。
二人ともその時はあまりに慌てていたため、気づかなかったようだ。
「それにしても、凄いな……こんなに遠く離れたペンダントを見つけるとは」
ローガンか感嘆していると、ミレーユが解説する。
「ホワイトタイガーの嗅覚はとんでもなく優れています。おそらく、アメリアさんの匂いをたどってここまで導いてくれたのでしょう」
アメリアはホワイトタイガーに駆け寄り、そのふかふかの白い体にしっかりと抱きついた。
「ありがとう! 本当にありがとう……!!」
喜びを隠しきれず、愛おしげにその身体を撫でる。
ホワイトタイガーは喉を低く鳴らし、まるでその感謝に応えるかのようにアメリアに身を寄せた。
そんなアメリアにローガンは優しく諭すように言う。
「今度は無くさないようにな」
「はい……お手数をおかけしました……」
アメリアが顔を上げて、ほんのりと頬を染める。
するとローガンはすかさず、アメリアの首元にペンダントをゆっくりとかけてあげた。
ローガンの指先が肌に触れると、アメリアの胸が少し高鳴る。
「ありがとうございます……」
アメリアは元通りに胸元へと帰ってきたペンダントを見下ろして、愛おしそうに微笑む。
そんな二人の様子を、ミレーユとホワイトタイガーが穏やかそうに眺めていた。




