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飛沫式呪物

 ジュリンを得た日から、その解析に力を注ぐ呪術窟は忙しさに拍車がかかった。

 先代迷い人の力として伝わる数々の伝説の内、どれかが指輪に受け継がれているに違いない、との憶測の元、ナナシは連日拘束され、様々な試薬を飲まされている。

 そればかりか血液検査や毛髪検査、排泄物から、時には肉体の一部を削られるといったハードなものまで、検査漬けの毎日は、修行の日々よりも過酷なものとなった。


 だがナナシとて新たな能力を事前に知ることができれば、それに越した事は無い。サバ姉の、


 〝これくらい我慢なさい〟


 という叱責に、勘弁してくれよ〜、こいつらのやり方乱暴なんだもん。と泣き言を零しつつも、辛抱した。結果ーー


「最初に試した雫に近い能力じゃろうて、ウムウム。

 もっともあれはほんの試し用の飛沫式呪物、この神器から発するものが、どれほどの威力を発揮するかは、発動してみないと分からんのう、ウムウム」


 占婆の言葉に、


「それでどうやったら発動するんですか? その飛沫式ってのは」


 と尋ねると、


「迷い人様の呪物じゃからのう、ウムウム。間違いなく機を見て発動するはずじゃが、お前さんがコントロールできるとは限らんよ、ウムウム」


 と肩透かしの回答を得た。おいおい、じゃあ持ってるだけかよ。本当は分かってる事があるんじゃ無いの? と訝しんでいると、


 〝絶対なにかあるね、試験の間に得た情報を総合すると、少なくともナナシの血液から得た情報を隠しているはずさ〟


 サバ姉の鋭い推理が俺を後押ししてくれる。


「俺の血と何か関係してくるのでは?」


 と珊瑚色のジュリンを前に突き出すと、ニヤリと笑みを返した占婆は、


「神器のナイフかえ? やはり侮れんのう、ウムウム」


 と言いながら、鋭い視線で射すくめられた。


「迷い人様の力とお主の血、その相乗効果で実際に何が起こるか? そこまでは突き止められなんだ、ウムウム。それを検証したら、また集落の半数が壊滅するかも知れんからのう、ウムウム」


 それほど強力な力を不安定な俺に預けるのは、相当覚悟がいっただろうと想像すると、重い責任が直接肩に乗ったような錯覚を覚える。


「じゃが、一つ話を聞かせてやろう、昔々の迷い人様の逸話じゃ」


 手近にあった椅子を引くと、よっこいしょと腰を下ろす。俺も近くの箱に腰をおろしたーー何せ年寄りの昔話は長いと相場が決まっているからなぁ。

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