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ナナとナナシって名前被りだな

「ふえ〜っ、疲れた〜」


 あてがわれた部屋にある、硬い床に直接敷かれたマットに横になる。マットといっても、ゴワゴワとした麻のようなもので編まれたなかに、硬く干からびた綿が入っているだけのものだ。

 床材である薄い板の下には、植物の繊維と、動物の糞が敷いてあり、独特な臭いはするが、保温効果が高くて暖かかった。


 あれから集落に戻ると、すぐさま怪我人はどこかに連れ去られて行った。多分病院的な役割の場所があるのだろう。だが俺の出した薬の効果を見て驚いていたから、この集落にはそれほど優れた回復術は存在しないのかも知れない。


 俺はしばらく占婆の部下だという男の元で、体調の変化や戦闘時の怪我がないか、などの検査を受けると、今後のためにと様々な儀式に付き合わされて、ようやく解放された。いまココ。


「初めてにしてはまずまずだったんじゃない? 弓矢の腕も悪くないと思うけど」


 と自分の成果を噛み締めていると、


 〝最後に薬を与えたのは意味不明だけど、おおむね試しの狩りは成功ね。十字弓の有用性が確かめられたのは大きいわ。腕はイマイチだけど、センス的には致命的でもないと思う。後はどうやって効果的な術矢を手に入れるか? そしてできれば製法まで知る事ができれば、なお良いわね〟


 というサバ姉、辛口だなあ。もっと効果的な術矢なんてあるんだろうか?


 〝たぶん、有るわね。最後に音無が見せた術も、呪術のたぐいだと思うわ。この集落はそういった技術で生き延びてきたらしいから、かなり参考になるはずよ〟


 と確信をもって答える。やはりなんとかしてそれらの技術と知識を吸収したいところだな。あと気になるのは、ギョロ見男が戦闘時に大きくなった事だ。サバ姉はあれをスキルと呼んでいたが、


 〝そう、この世界には魔法の他に呪術、神術、スキル、超能力といった超常の力が存在するの〟


 そんなに未知の力が存在するのか。なんだか力が満ち溢れる活気のある世界に来てしまったらしい。それに比べると『便利な指輪を使える能力』ってどのくらいの価値が有るんだろうか? なんだか微妙っぽい。


 それにしても超能力って……ずいぶんザックリした分類だな、俺からすれば魔法なんかも超能力なんだけど。


 〝超能力っていうのは、魔法や呪術など術理にのっとらない力の総称よ。ある意味一番不安定だけど、一番不規則性があって、厄介な能力ね〟


 指輪で収納できる?


 〝空欄があればね。だから今ある一つの空欄は大切に残しておくべきよ。もし埋めるとすれば、相当この世界を熟知してからにすることね〟


 なるほど、手数の多さよりも、万能性という余裕を保つ方が良いという事か。ならば最初に固定されていた食料とかの欄も自由な方が良かったんじゃないか? さすがは残念神、指輪以外の設定が残念だ。そこらへんはどう思う?


 〝……〟


 あれ? これには答えてくれないのか。なんだかんだ言っても、上司である残念神の事は批判できないんだね。


 〝なによ? 上司って。だから中の人なんて居ないって言ってるでしょ? 私は単なるナイフの精よ。分かった?〟


 いやいや、無理があるって〜。と思いつつも、これ以上つつくとサバ姉が本気で怒りそうなので止めておくか……しっかし気持ち良かったな〜、こう十字弓でバシッと決まった時は。


 と指輪の中から十字弓を具現化して、片膝をついて構えをとっていると、不意に木製のドアをコンコンと叩かれた。慌てて十字弓を収納して、


「誰ですか?」


 と声をかけると、


「音無だ、今ちょっと良いか?」


 気持ち疲れたような声がかえってきた。扉についた閂を外すと、防寒のための分厚い木戸を開ける。するとそこには、羽織姿の音無と、先ほどまで一緒に遠征に出ていた接子、そしてギョロ見男が控えていた。


「おや、皆さんお揃いで。どうぞ中にお入りください。熱気も逃げますから」


 俺が奥に誘い入れると、小さな部屋の中、五人の大人がギュウギュウ詰めに座り込む。うん、熱気が凄いな。


「ほれ」


 と音無に肘打ちされた男が少し身を乗り出すと、


「ありがとう」


 と言って、頭を下げた。そして服をめくると治った腹の傷をみせる。そこには大きな傷跡が痛々しく残っていたが、すでに癒着し、ピンク色の痕になっていた。


「おお、良かった。もう大丈夫そうですね」


 と傷痕に手を近づけると、


「お前にもらった薬、凄い効き目だな。薬師どもが驚いていたぞ」


 と告げられた。見た目によらず声が若い。薬効が凄いのは神仕様だからね、今後は分けるつもりは無いけど。


「私からも礼を言う、今回は迷い人殿のおかげで助かった。あれがなければ、こいつの命は無かったかも知れない」


 と頭を下げる音無に、


「俺の事はナナシと呼んでください。この方達は音無……ヅチさんの部下なんですか?」


 と尋ねると、


「私の事も音無で良いよ。我々狩人には長以外の上下はない。単なる先輩ってところだな、こいつらの」


 と言われて頭を下げる男達。聞くと怪我をした接子がスンジャセキ、もう一人の接子がナナムアテと言い、ギョロ見男はミルクユガフというらしい。全員名前の癖が凄いな。


 長いから怪我=セキ、普通=ナナ、ギョロ見=ミルで良いか? と聞くと、一様に怪訝な顔をしされたが、喜んだ音無が、


「良いなそれ、セキ、ナナ、ミルか。呼びやすいしな、うん。若干ナナシとナナが被ってるが、まあ良いか」


 と言うと、他のメンツも不承不承ふしょうぶしょう飲み込んだ。この部族は先輩後輩などの縦関係が厳しいらしい。なんだか思いつきで悪い事を言ってしまったな、まあ反省してないけど。

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