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マギア・ミステリー 魔法少女たちが綴る本格ミステリーデスゲーム  作者: イノリ
Chapter3:たった一人の姉妹 【解決編】
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【解決編】Why?

《どうして?》




◇◆◇【桃井 夢来】◇◆◇


 ――この事件を解く鍵は、どこにあるのだろう。

 これまでに解けた謎は、[外傷治癒]の発動条件をすり抜ける方法と、凛奈ちゃんがこの事件で務めた役割だけ。

 佳奈ちゃんの役割も、萌さんの役割も、依然として不明。

 その他の証拠の数々も、全く繋がりが見えない。

 何をどうすれば、これらの証拠を一本の糸に縒り合わせることができるのだろうか。


 棺無月さんは、きっともう、全てわかっているのだろう。

 わかったうえで、わたしたちを弄んでいる。

 ――人の命が懸かった場面で、どうしてそんなことができるのだろうか。

 わたしには、それが理解できない。

 だけど、それは今考えるべきことじゃない。


 とりあえず、真っ先に解けそうな謎は……。

 そうだ。一つだけある。


「殺害場所は……もうわかりますよね?」

「ま、そうだね。よっぽどの馬鹿じゃなきゃ、カナリン姉妹の部屋って答えるんじゃないの? それともまさか、ムックは石像で死んだなんて思ってる?」

「……思ってないです」


 棺無月さんが指摘した、大量に消えたタオル。雪村さんの部屋に残された血痕。

 遺体を運んだことを示唆する証拠と、元々遺体があった場所を示唆する証拠。

 仮に石像で被害者が殺されてしまったなら、雪村さんの部屋に血痕は作り得ない。それに先に石像を落としたのでは、生きた被害者に釘を大量に打ち込んだことになる。一度石像を落とした後に釘を打つなんていうのは不可能だろう。

 だから殺害場所は、まず雪村さんたちの部屋で間違いない。


「雪村さんの部屋で殺害されたなら……。被害者の死因は、たぶん、手足と首を切断されたことによる失血死です」


 棺無月さんが証言した、遺体にあったいくつもの傷。

 そのうちの長釘はあくまでも、被害者の遺体をあの場所に縫い留めておくための道具だ。

 浴場以外で使う意味はないだろうから、雪村さんたちの個室で殺された以上、死因はそれ以外の傷になる。


「ほんとに失血死? わかんないよ? 案外、痛みによるショック死かも( ̄д ̄)」

「……それは、どうでもいいです。それより大事なのは……棺無月さん。[外傷治癒]で治療された傷の中に、打撃痕はなかったんですよね?」

「うん。それは保証するよ。カナタンが('ω')ノ」

「……他の傷がなかったのなら。【犯人】は被害者を気絶すらさせず、最初に、生きている被害者の手足と首を切断したことになります」

「うわ、グロっ……。あーし、そういうの苦手で……( ;´Д`)」


 一人だけ石像の下を覗いた棺無月さんが、何かを言っている。

 わたしはそれを無視して、話を続けた。


「だけど……。雪村さんの部屋に、争った形跡はなかったんですよね?」

「ええ。私と彼方さんが調べたから、それは私たちが保証するわ」


 香狐さんが肯定する。彼方ちゃんも、それを否定しない。

 ……沈んだ様子で、頷きもしなかったけれど。


「……全く抵抗されずに、手足と首を切断する方法は、二通りあります。一つは、石像と同じ、[存在分離]を使うこと。これで即座に手足と首を切断すれば……可能なはずです。もう一つは、[呪怨之縛]で――萌さんの魔法で相手の動きを止めて、他の凶器……例えば、ノコギリなんかで切断する方法です」

「……ま、それなら確かに、可能だろうね。でも、わかってる? それ、どっちもおかしいよ( ̄д ̄)」

「…………」


 結論を言い放った直後、棺無月さんに否定される。


「確かに、方法はそれしかないように思える。だけどさ。[呪怨之縛]でぶっ殺すとしたら、ここにいるのが妹ちゃんな以上、双子のお姉ちゃんの方を殺したってことになるでしょ? その後の仕込み、どうするの? 殺す前の被害者に、石像を落とす下準備を手伝わせた、なんて言うつもりじゃないよね?┐('д')┌」

「…………」

「それに、[呪怨之縛]のストックって、一しか残ってなかったはずだよ。無謀でしょ。そりゃ、カナリン姉妹の部屋は鍵が壊れてたし、侵入するのは簡単だろうけど……。強引に押し入って、双子のうち片方だけを殺すって、できると思う? それとも、どうにかして(・・・・・・)片方を外に追い出したんだー、なんて言っちゃう?( ;´Д`)」

「……いえ」

「確かカナタンに聞いた話だと、カナリン姉妹は絶対引き籠もり宣言してたんだよね? マユミンがどんなことをしても、一人きりにする方法はないと思うけど。それとも偶然、マユミンが押し入ったときには姉妹の片割れしかいなかったんだ、なんて言っちゃう?( ̄д ̄)」


 棺無月さんは、わたしが提示した方法を徹底的に論破する。


「じゃあ逆に[存在分離]でなら殺せるかって言われれば、できるだろうけどさ。でもその場合、石像の下でペシャンコになってるのはマユミンでしょ? どうして急に双子のお姉ちゃんに入れ替わってるのさ。また自殺説でも推す? 双子のお姉ちゃんは、自分で手足を首を切り落としたんです、ってさ。その場合、死体運んだり、釘打ったりした人って誰よ(〟-_・)?」

「…………」

「お姉ちゃんが妹ちゃんを殺したって言うのも、あり得ないからね。その場合、石像を落とす方法とか、引き籠もることを許されたマユミンとか、色んなことに矛盾するし(=_=)」


 ……そうだ。どちらの方法も、決定的に破綻している。

 不可能だ。どちらも、反証材料を複数抱えている。


「萌さんが【共犯者】……ってことはないですよね」

「ルール上、何のうま味もないからね。――ああいや、どうなんだろ。この場合【犯人】になるのって双子のお姉ちゃんの方だろうけど、お姉ちゃんは死んじゃったし。【共犯者】が【犯人】に繰り上げになったりするの?(。´・ω・)?」

『しないよ! 【共犯者】は【共犯者】、【犯人】は【犯人】! どう足掻こうと、【共犯者】が報酬をもらえる可能性なんて一切ないからね! 仮に【共犯者】を作ろうとしてる人がいたら、このルールはちゃんと事件を起こす前に説明するよ』

「――だってさ(´Д`)」

「…………」


 萌さんが【共犯者】であれば、個室に籠っている謎は解けた。【共犯者】なら、【真相】を知っていてもおかしくないから。

 けれど、【共犯者】が【犯人】になり得ない以上、殺人の片棒を担ぐ意味がない。


「…………」


 ダメだ。行き詰ってしまった。

 ――一旦、整理しよう。


 ここにいるのは凛奈ちゃん。そうなると、石像の下で押し潰された被害者は佳奈ちゃん。

 ――けれど、石像を落とすことができる魔法少女は佳奈ちゃんだけである以上、【犯人】は佳奈ちゃん以外にあり得ない。


 これで、被害者と加害者の枠が埋まってしまった。萌さんが事件に介入する余地がどこにもない。


「やっぱり、棺無月さんはもう……。全部、わかってるんですか?」

「え? さぁ、どうだかね」


 棺無月さんは薄く笑う。

 その笑みからは、嘲り以外の一切を読み取ることができない。


 ……【犯人】と被害者を同時に努めるなんて、そんなことをしても何にもならない。無駄に命を散らすだけだ。

 それでもそういう状況になっている以上、可能性は二つ。

 それをするだけの動機があったか、あるいは……。

 その構図自体が間違っているか、だ。


【犯人】か被害者か。そのどちらかに萌さんが入るだけで、この事件は納得できるものになる。

 しかし、萌さんが被害者であることはあり得ない。石像の下の遺体が、それを物語っている。


 ――この殺人は、【犯人】の特定が不可能な殺人?

【犯人】を特定できる証拠は、既に処分されてしまった?

 だって、【犯人】は証拠を処分し放題だ。鍵をかけた個室に持ち去ってしまえば、誰にもそれを見つけられない。現に、棺無月さんが減っているのを確認したというバスタオルは、今も見つかっていない。

 だから……。解決するための決定的な証拠は、わたしたちに与えられていない?


 だけど、それじゃあどうして棺無月さんは余裕そうな表情をしていられる?

 ――棺無月さんの態度は、ただのハッタリ?

 彼女自身、未だに【真相】に至れてはいない?


【真相】――この事件で何があったのか。誰が佳奈ちゃんを、死に至らしめたのか。

 考えるべき、二つの要素。


【犯人】は雪村さんたちの個室で殺人を行い、その遺体を浴場に運び、石像で――。

 石像で――。

 ……どうして、石像で?


「……違う。そう、そうだ」


 そうだ。これだ。わたしはずっと、視野狭窄に陥っていた。

 それをようやく自覚する。


 最初の事件と第二の事件。それらの議論の焦点になったのは、【犯人】がどうやって(・・・・・)被害者を殺害したかだった。だから今までずっと、方法論ばかりを考えてしまっていた。

 今まではそれで上手くいっていたし――それに、魔王が定めたルールも、そういう形になっている。

 だから思い違いをしていた。『なぜ(・・)』が重要じゃないだなんて。


 ――殺人を成し遂げて、どうして(・・・・)石像を落とすなんて大掛かりなことをする必要があるのか。

 被害者の死因を偽装するため? でも死因の偽装なんて、いくらでも他の方法を取ることができた。

 石像を落とすなんて――佳奈ちゃんにしかできないことを、わざわざ実行した理由はがあるはずだ。


「石像を落としたのは……。被害者の遺体を隠すため?」

「はぁ? 何言ってるのかな、ムックは。あんな派手な音と、血が混じったお風呂があって、死体の存在は完璧にあーしらにバレてる。全然隠せてないじゃん。それに、外の世界じゃ殺人事件を隠すのは自然なことだけど、ここじゃ【犯人】が殺人を隠す意味なんてないんだよ? そうしたら、脱出と願い事のチャンスも得られなくなるんだから、人を殺す意味もない( ̄д ̄)」

「……いえ。隠したかったのは、遺体の状態だと思います。石像の下に、見られたくないものを閉じ込めておきたかったから、【犯人】は石像を……」

「証拠隠滅ってことね。でも結局、あーしらに石像の下は見られちゃったわけだけど。それを前提に、さっきからずっと議論してきたんだよ? だったら、あーしらはみんな、重要証拠を握ってることになる。それでまだ、【真相】に至れてない。とんだ体たらくだね?( ꒪⌓꒪)」

「…………」


 棺無月さんは暗に、そんな重要証拠はなかっただろうと攻め立ててくる。

 そうだ。石像の下は、既に暴かれた。【犯人】がここまでして隠したがったのなら、それは相当にわかりやすいものなのだと思う。――それらしきものは、依然として見つかっていない。


 ペシャンコにされた遺体。切断された手足と首。大量に打たれた釘。薄められた血に染まった、白い髪。修復されなかった傷。セーラー服の下の、確認できなかった傷。

 ――この中で、【犯人】が隠したがったもの?

 釘以外、その存在は極めて自然なものだ。だけどこの釘はおそらく、被害者の遺体を石像の下に縫い留めておくためのもの。お湯が張ったお風呂に遺体を浮かべたのでは、遺体は勝手に動いてしまうから。確実に石像の下に留め置き、遺体を潰すために固定する道具だ。

 石像の落下を利用するために用意した釘を、石像の落下で隠すなんて。それじゃあ馬鹿げている。全く意味がない。

 けれど他に、おかしなものなんて――。


「――っ!!」


 そうだ。どうして気づかなかったのか。

 それ(・・)がここにあるなんて、どう考えてもおかしいのに。


 全身に鳥肌が立つ。

 ――これだ。これが、【犯人】を特定する唯一の手がかりだ。

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