続編への招待状
◇◆◇【色川 香狐】◇◆◇
私の罪は、殺し合いを主催し多くの命を踏み躙ったこと。
本当にその罪を償うというのなら、私がすべきことは、殺し合いを食い止めて多くの命を救うこと。
罪と罰が等価でなければならないとしたら、罪と対をなす罰こそが相応しい。
「そう、よね……」
ここに、一枚の招待状がある。
差出人の名前は確認するまでもないし、そもそも添えられていた手紙にしっかりと書いてあった。
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こちらの準備が整いましたよ。ようやく、デスゲームが始められます。
アナタのおかげで有意義なデータも取ることができ、ワタシのゲームも更に洗練されたものとなりました。本当に、感謝いたしますよ。
それはそれとして、何やら小耳に挟んだのですが。物語の中でもとりわけ悲劇を好むあの魔王が、贖罪を望んでいるという。まったく、おかしな話ですよね? 聞いた瞬間、思わず笑ってしまいましたよ。どうせただの噂、根も葉もない出鱈目なのでしょう?
……いやしかし、もし、もしですよ?
それが本当だとしたら……面白いことになりますね?
さて、用件をお伝えしましょう。この手紙には、招待状が同封されていたかと思います。何の変哲もない紙切れのように見えるでしょうが、もちろんそのようなことはありません。
それが、ワタシの殺し合いへの招待状です。同じ魔王、ましてや共に殺し合いを作った同志としては、ご招待するのが筋というものでしょう?
いえ、まあ、当然お分かりのこととは存じますが。アナタであろうと、参加する以上は命を賭していただきますよ? これは殺し合いですからね。絶対安全圏で過ごす参加者など、面白くもない。ですから、命が惜しいなら参加しなくて結構です。
ですが……。ええ。もしかしたら、アナタが参加すれば、この殺し合いの犠牲者が少なくなるかもしれませんね? ああいや、まさかあの物語の魔王ともあろう方が、たかだか魔法少女ごときの犠牲を食い止めようとするなどあり得ないことですが? 万が一、いや億が一、いやいや無限小の可能性としてもその意思があるなら――すべきことはわかっていますね?
どちらを選ぼうとも結構です。ですが……。
ワタシは、アナタにご参加いただけることを心から願っていますよ。
それでは。アナタが狂気に身を委ねる愚者でありますよう。
狂気の国の主 ルナティックランドより
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ルナティックランド。私の殺し合いの協力者。
何を言ったところで、あの魔王が殺し合いを中止するなんてあり得ない。私が参加せずとも、間違いなく殺し合いは開催される。……そしてまた、多くの魔法少女が犠牲になる。今度は本当に、ただ悲劇と狂気に彩られた結末で幕を閉じるかもしれない。
……それを想像して、愉悦を感じる自分と、嫌悪を感じる自分がいる。
私の魔王としての部分は、殺し合いに、その悲劇がもたらすであろう物語に歓喜している。けれど彼方さんに与えられた人としての部分が、私の罪の意識を喚起する。
「…………」
招待状を見る。
それは、遊園地のチケットだった。ファンシーな絵柄で、お菓子をモチーフにしたアトラクションが描かれた一枚の紙切れ。『楽しい楽しい魔法の遊園地にご招待!』『魔法少女だけが招待される特別な楽園』『奇跡のような体験をあなたに』などというふざけたメッセージと共に、集合の日時や現地への行き方が示されている。日付は――今日。現地への行き方は、ただこのチケットの裏に自分の名前を記すこと。それだけで、たちまち殺し合いの開催場所に飛ばされる。これに込められた魔法によって、そういう仕組みになっている。
以前の私ならむしろ、嬉々としてルナティックランドに協力を申し出たでしょうね。ゲームマスターの側として。けれど……。
私は、償いをしなければならないから。
――こんな場所での殺し合い、放っておくわけにはいかない。
「……すぐに、行った方がいいわね」
指定された日付は今日。おそらくは、殺し合いが始まる直前まで私が余計な行動をしないように、敢えて今になってこの招待状を届けたのでしょう。なら、迷っている暇はない。
私は配下の魔物にこの出来事を告げて、出立の用意をさせる。
指定された日付は今日だけれど、集合時間にはまだ少しある。……今なら、殺し合いを未然に防ぐことができるかもしれない。
もとより、あの殺し合いで失うはずだった命。全てを捧げる覚悟はできている。
「……ふぅ」
私は深呼吸をして、それから、意を決して名前を――魔王ワンダーランドではなく、色川 香狐の名前を書き込んだ。
私は魔王ではなく、あの殺し合いで罪を背負った者として行くのだから。
――今度の殺し合い、絶対に私が、食い止めて見せる。
そんな覚悟と共に、私は、第二回目の殺し合いの地に飛んだ。
目的地には心当たりがあった。私の知る相手が治める世界。
しかし、そこは狂気の国ではない。別の魔王の世界だ。
……行き先は知れたというのに、拭いきれない違和感があった。魔王同士の交流で、全ての魔王の性格は概ね把握している。その魔王は、殺し合いのために自らの世界を提供するような性格ではない。むしろその対極にある思想の持ち主のはずだ。殺し合いなんて、何が何でも食い止めようとする。そういう魔王。
何か裏がある。そう予感しながら、私は第二の殺し合いの地に降り立った。
――甘美の国、スイートランド。
ファンシーな色彩に彩られた、お菓子の遊園地。異界の楽園。
第二の殺し合いの会場は、血生臭さとは無縁の甘い空気で私を出迎えた。




