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7 新商品

 外のお客さんがユミル村にやってきた次の日の朝。


 村長さんは馬車で冒険者たちをダンジョンに連れて行った。


 そのダンジョンの封印を解くため、ソフィアさんも馬車に乗ってダンジョンに同行している。


 ソフィアさんが出掛けて村にいない間は孤児院で預かっているミリーの面倒は俺がみることになっているので朝早くからミリーの世話を引き受けた。



「それにしても」


 俺は工房の裏手に鎮座している大木を仰ぎ見た。


 この前まで俺の身長よりちょっと高いくらいだったミリーが植えた木がみるみる成長してしまった。


 木ってこんなに早く大きくなるものだろうか?


 いや、そんな訳がないことは俺も分かっている。


 これはいわゆる様式美という奴だ。


 実のところ、俺は既にその理由を何となく予想できている。


 ヒントは昨日、外の冒険者たちがこの村に来て魔力酔いになったことだ。


 俺は気付かなかったが彼らの様子からこの村は外と比べてどうやら魔力が濃いのだろうと思う。


 師匠が言うには俺が保有する魔力の量はかなり多いらしく、俺は自分ではそのことに気付くことができなかった。


 魔力が特別濃い場所では普通とは違った植生になることがあり、植物の成長具合に異常が生じることがあると言われている。


 村全体を見ると畑の作物にはそこまでの違いがあるようには見えないからこの村でも場所によるのだろう。この工房の周りはその特別魔力が濃い魔力スポットになっている可能性が高いと思っている。


 工房の庭に普通見ることがない錬金素材となる草花が生えていたり、植えたばかりの木が急に成長したりという事象はその結果だろう。


 そこまで濃い魔力空間が近くにあるとすればちょっと心配になるが、俺はこれまでここに住んでいて体調に問題はないし、お客さんたちも工房に来て具合が悪くなったという人もいない。

 自宅兼工房の建物がある場所は問題ないようなので、本当にスポット的なものなのだろう。


「とっても大きくなったの」


「キャンキャン」


 ミリーがシロと一緒に大きくなった木を仰ぎ見ている。


 ミリーは勝手に他の場所に遊びに行くということはせず、いつもここでシロと一緒に遊んでいるので手が掛からなくて楽ではある。

 俺もスローライフの一環としてミリーと遊びたいのはやまやまだが、外に卸すポーションもまだまだ作らないといけないし、他にもしようと思っていることがあったりする。


 ここ最近、忙しかったからまずは自分がやるべきことを整理してみよう。


 まず俺がするべきことはこの村に招聘された錬金術師としてこの村の人たちの需要に応えることだ。


 もう本格的に夏になって太陽はギラギラと辺りを照り付けている。


「ブラン~、いる~?」


 工房の玄関から聞き慣れた声が聞こえた。


 この声はキャロルだ。


「あ~、こっちだ」


 工房の裏から玄関にまわってキャロルに声を掛けた。


「あー、そっちにいたんだ。裏は木の蔭になっていて涼しいねー。そういえばこんな木、ここにあったっけ?」


「さあ? あったんじゃないのか?」


 この村の住人とはいえ、工房の裏に生えている木にまで気を付けて見る人はいないだろう。


 適当に誤魔化しておいた。


「それで、今日は何の用だ?」


「ああ、そうそう、例のアレできた?」


 例のアレとは以前キャロルに相談されて用意しておくと言ったとあるアイテムのことだ。


 この真夏の時期、キャロルから農作業をするのに『マジヤバい、死ぬ』と泣き言を言われたのだ。


 さすがにこの時期の真昼間まっぴるまに農作業をすることはないようだが朝夕とはいっても暑いものは暑い。


 そんな時期にぴったりなアイテムとして身体を冷やす冷却薬というものがあると話したら、それを一度試したいと言われたのだ。

 元々火山地帯を探索するときに熱にやられないようにという目的で開発されたらしいが、今やレシピは広く公開され、こうして日常生活に活用できる時代になったのはいいことだと思う。


 飲むタイプのものと身体に塗るタイプのものがあって俺はどちらも作ることができると伝えると、どっちも使ってみたいということで既にいくつか作って用意はしている。


 俺はミリーたちに敷地から勝手に出ていかないようにと伝えるとキャロルを伴って工房の中に戻った。


「飲むタイプのものは特に炎天下で暑さが酷いとき用だ。あと、使用量は絶対に守ること。誤って多く飲んでしまったら命にかかわるからそのときは中和剤を飲むこと」


「わかった。塗る方は何か気を付けることは?」


「そうだな、塗る場所は慣れないうちは身体の一部分から少しずつ慣らすようにしてくれ。塗る場所は額とか首筋、背中あたりだろな。こっちも塗り過ぎると健康に影響しかねない。あと……」


「あと?」


「まあ、その、敏感なところには塗らない様にな。その……後が困るから」


「敏感なところ? あっ……」


 キャロルも年頃の女の子だし恐らく意図は伝わったと思う。


 いや、決してセクハラをしたいわけじゃなくて、プロの錬金術師として販売する商品の注意事項はやはりきちんと伝えておかなければならない。


 ちょっと微妙な空気になったが、冷却薬を試用として少量をキャロルに販売した。


 そんな俺の心の内は残念ながら伝わらなかったようで、帰り際にキャロルに「エッチ」と言われたんだが俺は悪くないと思う。

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