閑話3 冒険者2
※ 第三者視点です
「あーっ、もうなんなのよコレー!」
ユミル村のある王家直轄領の隣はマントフィル辺境伯の領地である。
その辺境伯領の領都ズレスデン。
領都とはいえ城壁を出れば郊外には広い荒野が広がっている。
その荒野の端、森に近い人気のない場所で一人の女性冒険者がそう叫んだ。
彼女の名前はマーガレット。
従者であるリセルとともに今は自身の周りを囲む魔物たちに対峙していた。
「次から次へとっ、姫様っ! そちらは大丈夫ですか?」
「だいじょうぶだけどっ、だいじょうぶじゃな~い!」
「大丈夫そうですね。あと少し辛抱して下さい」
自分たちを囲んでいたブルーボア10体を何とか倒して二人はようやく人心地つくことができた。
ブルーボアはCランクの魔物であるものの数が集まれば高ランクの冒険者であっても苦戦することがある魔物だ。
「あいたたた……。リセル、そっちは大丈夫?」
「はい、何とか。しかし姫様は手ひどくやられましたね、ポーションを使いましょう」
リセルはマーガレットの身体にできたいくつもの痣を見て言った。
ちょっとした切り傷や軽い打ち身であれば初級ポーションで足りるが目の前の怪我だとそれでは足りなさそうだ。
そう判断したリセルは鞄から中級ポーションを取り出し、目の前の主に使った。
「あれっ? 痛みが引かないわ」
「おかしいですね。確かに中級ポーションのはずなのですが……」
以前に彼女たちがブランの工房で購入したポーションのうち、いざというときのためにとってある上級ポーションはまだ残っているものの初級や中級といった汎用性の高いポーションはこの1か月の冒険者生活で既に使いきっていた。
「この印はズレスデンにあるお店で買ったものですね」
「いったいどこの工房のよ、とんだ粗悪品ね」
仕方なく中級ポーションをもう一つ使ってようやくマーガレットは怪我を癒すことができた。
「それにしても魔物の動きが活発ね。この辺りではこれが普通なのかしら?」
「ズレスデンの冒険者ギルド支部で事前に確認しましたが、他の場所とそれほど違いはないはずです」
「そうなの? まあ、いいわ。それでこれからどうしようかしら? 何か面白いクエストでもあればいいんだけど」
「ここではそろそろ1か月になりますが目ぼしいクエストはないですね。そろそろ他の街に行きますか?」
「そうね。粗悪品のポーションを売りつけた店に文句を言ってからそうしましょう」
二人はそんな会話をしながら荒野を歩いてズレスデンへと向かった。
「ギルドマスター、ご報告が」
ブランたちの住む国。
レグナム王国の王都レグリス。
その中心部にある冒険者ギルドの堅牢な石造りの建物。
その最上階にあるマスタールームでこの部屋の主である元Sランク冒険者の中年の男は細身のメガネを掛けた女性秘書から報告を受けた。
「由々しき事態だな……」
「王都周辺では大きな問題にはなっていないようです。しかし、辺境では影響が出始めているとの報告が上がっています」
冒険者ギルドではここ最近、特に辺境地域での魔物活発化の動きが報告されていた。
しかし問題はそれだけではなかった。
「ポーションの粗悪品か……」
「はい、元々辺境ではポーションの供給量は少な目でした。それでも回復魔法を使える冒険者の数が以前に比べれば多くなっていましたのでそこまでの問題にはならなかったようなのですが……」
秘書の声が尻すぼみに小さくなる。
「魔物が活発化してポーション需要が顕在化したことでその問題が無視できなくなったと?」
「はい、そのご認識で間違いはないかと」
「そうか。では、あまり評判の良くない工房のものはギルドでも扱わないようにしよう。あと、冒険者たちへの注意喚起も必要だろう」
ギルドマスターの言葉に秘書の女性は「直ぐに」と頭を下げてマスタールームを足早に出ていった。
スローペースでしたが第1部完です。
まったりと第2部に続きます。
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