17 バカンス
暑中お見舞い申し上げます
熱中症にご注意下さい
「ひろいの!」
丸太でできたコテージはいわゆるログハウスと呼ばれる造りだった。
「荷物を置いたら早速散歩にでも行きましょうか」
「いいですね。行きましょう」
俺はソフィアさんの提案に賛同してみんなとコテージを出ると直ぐに目の前に広がっていた湖にへとやって来た。
湖の水は澄んでいてとても綺麗で日の光の加減なのだろうか。
鮮やかな青色というかエメラルドグリーンの様な色合いに見えてとても幻想的だった。
「湖から吹いてくる風が涼しくて気持ちいいですね」
湖の周囲には遊歩道のようなものが設けられている。
俺たちは並んで遊歩道を歩いた。
しばらく歩くと木でできた桟橋があった。
変わったことに興味深々のミリーとミリーと一緒のシロが桟橋の先にまで掛けていった。
「おーい、落ちるなよ~」
ミリーが桟橋の上から身体を乗り出して一生懸命に湖面を見ている。
俺とソフィアさんが追いついてミリー達の後ろから同じように桟橋の下を覗き込んだ。
遊歩道から見る景色とは違って湖の中の様子が手に取るように分かる。
黒い影がいくつも見えてそれがあっちにいきこっちにいきとせわしなく動いている。
小さいものから大きいものまで様々だ。
「魚がいますね。釣りができそうですけど、ちょっと用意してなかったですね」
「そうですね。でも、今回はそんなに時間もありませんし、ここに来たのは今回が初めてですからまずはこの周辺をしっかり見て回りましょうか」
湖から少し離れた場所にはちょっとした森がある。
そこでは季節の果物が採れるらしく、村長さんからは自分たちが食べるのであれば好きに採ってもいいと言われている。
今はどんなものが成っているかを見てみると夏甘瓜が熟れていた。
たくさん成っているのを見たミリーが張り切って採り始め、途中で止めるのもアレだったので結局かなりの量を収穫することになってしまった。
今日だけでなく、明日の食後のデザートもこの瓜を食べることになりそうだ。
「そろそろお昼にしましょうか?」
ちょうど太陽が真上にきたところでソフィアさんからそう言われた。
「では戻りますか?」
「いえ、実はお昼ご飯を作って持ってきていまして。よかったらこのまま外で食べませんか?」
ソフィアさんはそう言って手提げ袋を掲げて見せた。
何か貴重品を持ってきているのかと思ったら今日のお昼ご飯だったとは盲点だった。
それをずっと彼女に持たせていたわけだから申し訳なくなる。
これがエレンだったら直ぐに持つように言ってくるんだろうけど。
ソフィアさんが木陰になっている芝生の上にシートを敷いてくれたので俺たちはその上に腰を下ろした。
「お口に合えばいいんですが……」
ソフィアさんが用意してくれたのはパンに具を挟んだものだった。
具の中身はオーク肉を甘辛く味付けしたものやしゃきしゃきの生の葉野菜や炒り卵といったものだった。
「とても美味しいです。ソフィアさんは料理がお上手なんですね」
「とってもおいしーの」
もきゅもきゅと食べるミリーもご満悦だ。
「昔から料理はさせられてきましたから」
ソフィアさんは平民だし、幼い頃から自分のできることは自分でさせるということだったんだろう。
「ソフィアさんはどうして聖職者になろうと思われたんですか?」
「そうですね。本当は信仰に目覚めた、と言いたいところなんですがわたしに聖属性魔法の適正があったことと、あとはほどほどに安定しているからといったところでしょうか」
聖属性魔法は回復魔法や浄化魔法がその代表とされているが、これらの魔法に適正があるとされる者は決して多くはない。
そのため、教会はそういった才能がある者を囲うというのが以前からの風潮だったが、魔石を魔力結晶に変える仕事を錬金術師に奪われてからはそういうことは少なくなったとは聞いている。
そんなわけで、今は聖属性魔法に適正がある人は、教会に入る以外に冒険者になる人もそれなりの数がいるという話だ。
冒険者の側もパーティーに回復役がいれば戦略の幅が広がるということで重宝しているらしく、引く手数多で待遇もいいと聞いている。
その結果、錬金術師が作るポーションの需要は昔に比べれば減ったらしいので教会側からすれば結果的に錬金術師に対して一矢報いた形になったのではないだろうか。
「ソフィアさんは冒険者に興味はなかったんですか?」
「冒険者ですか? いえいえ、とてもではないですけどそんなことはできませんよ」
ソフィアさんはそう言って謙遜するけど、今や辺境の村に飛ばされて土地の浄化を行っているわけで、結構最前線で働いていると思うんだけどな~。
でもやっぱりそれだけ冒険者という職業は女性にとってハードルが高いのだろう。
まあ、仕事は無理にさせるものではない。
自分が好きで納得できるものをするのが一番だろう。
そう思いながら、さっき採ったばかりの夏甘瓜を食べながら湖の景色を眺めた。




