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7 一か八か

 突然茂みを掻き分けて俺たちの目の前に現れたのは一体の魔物だった。


 魔物そのものはさして珍しいものではない。


 俺も自警団の一員として何度も目にしている。

 

「兄貴っ、下がって!」


 目の前の光景が凄くゆっくりと見えた。


 俺の目の前に現れた魔物は植人種、マンイーターとかそういった系統であることは直ぐに分かった。


 しかし、魔物がこちらへ攻撃しようと準備を始めてようやく目の前のソレが何なのかようやく気付いた。


 話には聞いていたが俺が実際にコイツを目にするのは初めてだ。


 その特徴からまず間違いなくヤツだと気付いた。


 コイツの対策のために集めた情報は良く分かっている。


 終わっていないのに最早過去のモノになりつつあった『茨の王』に初めて謁見した俺は完全に不意を突かれてしまった。


 既に目の前の魔物は攻撃の態勢を整え、その凶悪な棘をこちらに向けている。


 俺は普段使いの汎用防具しか身に着けていない。


 いつかの血だらけになっていたリセルさんの姿が目に浮かんだ。



 ――詰んだ



「うおおおおおっ!」


 大盾を抱えたガオンが俺と茨の王との間に割って入ってきた。



 ――バシュッ、バシュバシュッ



 茨の王から大きな音を立てて放たれた棘は、ガオンが持つ大盾にぶち当たりドコっ、ボコっという大きな音を立てた。


「ぐぅっ! 足がっ!」


 ガクンとガオンが腰を落として膝をつく。


 一瞬のことで訳がわからなかったがどうやら足をやられたようだ。


 立つことはおろかまともに盾を構えることもできていない。



(このままでは二人ともやられる!)



 ガオンは動けない、俺が何とかするしかない。


 俺はガオンの手から大盾を取り上げると茨の王に向かって突進した。


 少なくとも俺が前に出ないとガオンが危ない。


 腰に提げていた護身用の鉄の剣を抜く。


 そして奴の身体に突き刺した。



 ――パキン



 剣を突き刺したその瞬間。


 鉄の剣はその半ばにひびが入りそして砕けた。

 




 武器を失った。


 俺の手には地竜の鱗で覆われた大盾のみ。


 後ろには怪我を負い身動きできないガオンがいる。


 何かできることはないか、頭をフルに回転させる。


 俺は攻撃魔法を使えない。


 しかし、錬金術師である俺にしかできないことがただ一つ思い浮かんだ。


 実際にほとんど試したことはない。


 しかし、このままではどちらもやられてしまう。


 かつて師匠に禁止されたアレを使う。


 錬金術では魔力を使って物質の『製錬』を行うことができる。


 鉱石から不純物を取り除き純粋な金属を取り出すというやつだ。


 この『製錬』の工程を細分化すると『分解』と『合成』という錬金術のスキルに分けることができる。


 この『分解』スキルの対象となるもの。


 錬金術において生き物は普通その対象とされていない。


 生き物が保有する魔力の量は鉱石や錬金素材などとは比較にならない量だ。分解を行うためにはその対象が有する魔力を圧倒的に凌駕する魔力量が必要とされるため生き物を分解することはできないとされている。


 それ以前の話として生き物を分解するということは倫理の面でも禁忌ともされていることから表立って論じられることもない。


 ただ、俺には人並外れた魔力がある。


 かつて師匠の元で生き物を対象にした分解ができないか一度だけ試したことがある。


『その力、いざという時以外には使ってはならんぞ』


 師匠の言葉が脳裏によぎる。


 今ここで使わなければ俺もガオンも生きて戻ることはできないだろう。


 今使わないでいつ使うのだ。


 しかし、それでも目の前の魔物はかなり高位の魔物だ。


 保有する魔力の量もそこらの魔物の比ではないだろう。


 俺の力が通用するかどうかはわからない。



 一か八か!



 俺は腹を括った。

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