4 木種
――エリクサー
エリクサーはポーションとはまったく異次元の性能を誇る極めて貴重な代物だ。
それを作ることは全ての錬金術師にとっての憧れであり最高到達点でもある。
このエリクサーの主な入手方法としてよく知られているのはダンジョンの奥深くで入手できるというものだ。
あとは噂話の域を出ないがエルフが作ることができると言われている。
エルフとはいわゆる森の民で、独自の文化や技術を持っている。あまり人間と交流がないこともあり秘匿された技術によってエリクサーを作ることができるのではないかという話がまことしやかに言われている。
いずれにしてもエリクサーという物は大変貴重でおいそれともらえるようなものではない。
明日は村長さんやソフィアさんが改めてあの娘と村中を回って村人たちに心当たりがないかを聞いて回ると言っていた。
それが終わった頃にでも会いに行ってみよう。
翌日。
お昼過ぎに工房にやってきたのはソフィアさんと件の幼女だった。
「お仕事中に失礼します」
「どうされました? この子のこと、何か分かりました?」
「いえ、今のところは何も。村中聞いて回ったのですが……」
ソフィアさんはそう言って手を繋いでいる幼女に視線を送った。
「それで今日はどういった?」
「この子がここで遊びたいというものですから……。もしお邪魔でなければ夕方までここの庭で遊ばせてあげてくれませんか」
「それは構いませんけど……」
ソフィアさんはそう言うと夕方にまた迎えに来ると言って幼女を置いてどこかへ行ってしまった。
この子とは話をしたいと思っていたのでちょうどよかった。
俺は幼女に昨日別れてからの話を聞いた。
夕食に何を食べたのかとか、ソフィアさんとどういった話をしたのかとか雑談をして場を暖める。
そして本命の話をすることにした。
「昨日もらったお薬なんだけど、あれは誰からもらったの?」
「?」
「お嬢ちゃんのお父さんかお母さんにもらったんじゃないの?」
目の前の幼女は首を横に振る。
「このお薬はとても貴重なものなんだ。だから簡単に他の人にあげちゃダメだよ」
俺は昨日もらったエリクサーの入った小瓶を幼女に差し出した。
勿体ないという気持ちもないことはないがやはりこんな高価なものをおいそれともらうことはできない。というか小心者の俺は正直落ち着かない。
「う~ん、でもおにいちゃんのおくすりなの」
「そうだね。とても大切なお薬だから自分で持っていようね」
「いらないの?」
「いらないことはないけど僕がもらったらお嬢ちゃんのがなくなっちゃうだろ?」
俺の言葉に幼女は何やらゴソゴソとし始めた。
そして
「まだあるから大丈夫なの」
そう言って幼女はもう一つ小瓶を手に取って俺の方に差し出した。
幼女の手の中には白い液体の入った小瓶。
俺の手にもまったく同じ白い液体の入った小瓶。
「はっ?」
「わたしもおくすり持ってるから大丈夫。それはおにいちゃんの」
「……あっ、そうですか」
「うん!」
そんなわけでエリクサーを返すことはできなかった。
まあ、そこまで言うんだったら取り敢えずは預かっておこう。
もし保護者の人がわかればそのときに返せばいいし。
「それよりおにいちゃん。おにわに木を植えてもいい?」
「木?」
「そう、木」
「邪魔にならないところだったらいいけど……」
花じゃなくて木か。
そう思いながら幼女に手を引かれて庭へと移動する。
結局、工房の裏にあるスペースだったら邪魔にならないから許可することにした。
幼女にスコップを貸して欲しいと頼まれたので園芸用のスコップを貸してあげる。
地面をスコップで軽く掘り返して穴をあけ、そこに幼女が手をかざした。
どうやら種を撒いているようだ。
(種から木を育てるのか。これはかなり時間がかかるだろうな)
苗木からではなく種から木を育てようとすれば発芽するのを待つだけでも結構な時間がかかるだろう。それまでこの子はここにいるつもりなんだろうか?
水の入った如雨露を用意してあげると幼女は楽しそうに種を植えた場所に水を撒き始めた。
まあ、楽しそうだしいいか。
俺は特に気にも留めなかった。




