20 文明の利器
――ギーコ、ギーコ
――トントン、カンカン
今日は週に一度の安息日。
工房は休みで俺は朝から庭で木材を切ったり、トンカチで釘を打ったりしている。
「兄貴、おはようございます。何してるんですか?」
ちょうど工房前の道を通りがかったガオンに声を掛けられた。
「いや、魔道具を作ろうと思ってな」
「魔道具を!?」
魔力結晶を動力として動く魔道具は辺境のこの村でも使われている。
食堂や肉屋には大型の魔道冷蔵庫があるし、一般のお宅にも魔道コンロが普及し始めているといったところだ。
ガオンがじ~っと俺の手元を見ているが俺は気にせず作業を続けた。
「この箱に魔法陣が刻まれた板をセットして最後に魔力結晶をセットしてと……」
魔道具の一番大事な部品は魔力結晶の魔力を事象変換するための魔法陣だ。
この魔法陣を的確に刻むことが何よりも難しい。
今回使うこの魔法陣は俺が予め工房で刻んだものだ。
刻むといっても物理的に彫るというよりも魔力で描くと言った方が適切だろうか。
魔力を刻み込むにはかなりの魔力量が必要になる。その瞬間瞬間に多大な魔力を必要とするため単に保有する魔力の量が多いというだけではダメだ。
大きな水のタンクと排出口があるとして、いくら大きな水のタンクを持っていたとしてもちょろちょろとしか出ないのではダメだということだ。勢いよく出る水の量が必要でその勢いで魔力を刻み付けるとイメージしてもらえればわかりやすいだろうか。
勿論、排出量が大きくてもタンクが小さいとすぐに空になってしまうのでその場合できる作業が限られてしまう。
必然的にこの作業をできる者は限られ、そういった者たちが魔道具技師と呼ばれる職業に就いている。
魔道具を作るために必要となる魔法陣の知識は魔法陣学と呼ばれ、学院では魔術科魔道具コースの必須科目だ。俺は選択科目でもとっていたし、それ以前に学院に入る前に師匠に教えてもらったこともある。
俺は錬金術師で極めるべき技術は錬金術だがそれはあくまでも仕事の話だ。趣味の一環でいろいろと魔法陣の研究をしたり、こうして魔道具を作ってその成果を確かめたりしている。
「は~、何をしてるのか全然わかんないっすけど、一体何を作ってるんですか?」
「コレか? 今から試運転するから確かめてみたらいいさ」
俺たちの目の前には一見木でできた箱。
正面には溝がありそこから箱の中を覗き込むことができる。
俺は完成した木の箱の側面にある魔力で刻まれたスイッチを押した。
――ブオ~~
箱の中から風が吹き出し始める。
「風が出る魔道具ですか……いや、風が冷たい!?」
どうやら成功らしい。
俺が作った魔道具は単に風を出すだけではなく、冷たい風や暖かい風を出す魔道具だ。
季節は春から夏に移ろうとしている。
暑くなる夏に備えて部屋の中を冷やす魔道具を用意しようというのが今日の主眼だ。
「こんなのを自分で作ってしまうとは流石兄貴っすね」
「そうはいっても素人が作ったものだからな」
魔道具を商売として製造・販売するには魔道具技師の資格が必要だ。
俺はその資格までは取っていないので自分で使うために作ることはできるが商売として他人に販売することまではできない。
「でも魔道具は高いっすからね。修理するにも外に頼まないといけないですし……」
そう、この村では魔道具自体は外で作られた物を取り寄せることで入手できるが修理となるとなかなか大変だ。
肝となる部分の修理は技術的に魔道具技師じゃないと無理なので外から来てもらうか魔道具自体を送って修理してもらうということになる。
「この辺りではどこでやってくれるんだ?」
「簡単な修理なら街でやってもらえますけど、大修理なら領都か王都になるっすね」
「どっちにしても大変だな……」
文明の利器の恩恵を辺境が享受するためにはいろいろとハードルがありそうだ。
俺も簡単な魔道具なら作れるし、修理であればあらかたできるので何か力になれないだろうか。
そう思いながら休みの一日を過ごした。




