30 帰路
街での用事を済ませると、俺は再び村長さんの操る馬車の客になった。
とはいえ、ずっと荷台にいても暇なので御者台に出て村長さんの近くに座った。
荷台を牽くのは立派な体格をした大きな馬だ。
ユミル村に最初に来たときにも思ったが他で乗った馬車を牽く馬よりも身体が一回りも二回りも大きい。
今さらだが、これって普通の馬なんだろうか?
「あの~、村長さん? この馬って普通の馬ですかね?」
「ははは、何を言ってるんだい? どこをどう見てもただの馬だろう? うちの村の牧場で育てられてやつだよ」
そう言いながら馬車を牽引する馬はすごいスピードで走っていく。
一般的な馬車よりも明らかにスピードが出ている。
「おっ、野犬の群れだ」
街道とまでは呼べない村へと続く道をしばらく走っていると、村長さんがそう言って道の先を指し示した。
うん、あれは犬じゃなくて狼ですね。
体格も普通のペットの犬の何倍もある大きな身体をしている。
銀のタテガミに鋭そうな牙。
ひょっとしてあれはシルバーウルフじゃないでしょうか?
俺は冒険者じゃないから確信は持てないが、冒険者ギルドの騒動のときに耳にした魔獣の特徴にピッタリだ。
「どっ、どうするんですか?」
「いや、よくあることだからね。このまま突っ切るよ」
村長さんは「はいよー」と声を上げて手に持った鞭を振るう。
すると馬がより気合を入れて走り出した。
「ちょっ、ちょっと!」
「ははは、揺れるからしっかりつかまってるんだよ」
――ぴしっ、ぴしっ
村長さんの振るう鞭の音が聞こえる。
道の先にいた野犬(?)の群れがこちらに襲い掛かろうと道を塞いでいたが、馬は圧倒的なスピードでその中へと突っ込んでいった。
――ばしっ、どかっ
『何かいたか?』とばかりに馬は野犬(?)の群れを弾き飛ばし、止まることなく道を進んだ。
後ろからは「キャイン」という野犬(?)の叫びが聞こえる。
へー、狼も「キャイン」って鳴くんだ~。
初めて知ったな~。
そんなどうでもいいことを考えるほど何事もなかった。
「ほら、何の問題もないだろう? 最近野犬が多いけど何かあるのかね」
村長さんは涼しい顔をしながら馬を操る。
結局、この日は俺が最初に村に来たときよりも多少早くに村へと着くことができた。
工房兼自宅に続く道を歩きながら俺はこれまでを振り返る。
薄々感じてはいたが、どうもこの村、というかこの村の人たちはちょっとおかしい気がする。
ごく普通の錬金術師に過ぎない俺が果たしてこの村でやっていけるのか。
そんな不安がないわけでもない。
ただ、この村の人たちはみんないい人たちだし、俺にとって害があるわけでもないので、まあ、なるようになるだろう。
俺は俺で自分の仕事をしていくだけだ。
俺はそんなことを思いながら、もう慣れた我が家へと戻った。
第1章の本編終了です。
次話は閑話です。




