29 販路開拓
「納品、ですか……」
ギルドマスターのテオドールさんに頼まれたこと。
それはこの街の商店にポーション類を卸して欲しいということだった。
この街は街と呼んではいるもののそこまで大きな街ではない。
ユミル村と比べれば栄えているというだけで近くにある他の街と比べるとどちらかと言えば小さな部類かもしれない。
辺境伯領の領都からこの街まで馬車で2日の距離だ。
領都には錬金工房がなくはないが数件程度で、この街に卸されるポーションは領都の工房からのものと辺境伯領の外の工房からのものとが半々程度のようだ。
初級ポーションはまだしも中級ポーション以上のポーションや特殊系と言われるポーションは仕入れが不安定だという。
よほどのときには領都から取り寄せることもできなくはないが早馬を使っても2日はみておく必要があるので本当に緊急のときには心もとないということだ。
村長さんとの契約では村以外に俺が商品を売ることは特に禁止されてはいない。
だからといって程度の問題は当然ある。
ちょうど村長さんもこの街に来ているのだから後で村長さんと話をしてできれば村に戻る前にある程度の下話をしておきたいところだ。
俺は冒険者ギルドを出ると村長さんと合流して説明をすると、一度、冒険者ギルドのギルドマスターとポーションを扱う商店の店主とを交えて話をすることになった。
さっき俺が話をした冒険者ギルドの部屋で膝を合わせて話し合いをする。
ユミル村が自費で錬金術師である俺を招聘している以上、少なくとも村に損害が出るようなことは認められない。
また、そんな手間とリスクを負っている村にとっても多少の利益があって然るべきだろう。
そういった視点からお互いの損得について調整をしていく。
そして結局は、俺はあくまでユミル村に招聘された錬金術師ということで、まずユミル村の需要を満たしたうえで、余剰となるものを村長さん経由でこの街の商店に卸すということで話がついた。
有償で輸送を村長さんにお願いすることと俺が多くの錬金をするのであれば村の商店経由で多くの素材が動くということで村側にも経済的な利益が出ることになる。
それだけでなく、街用として作ったアイテムも1つ2つは村の工房に残ることもあるので、急遽村でそういった物が必要とある場合に備えられるという利点もある。
今回の合意はお互いにとっていい話になったんじゃないだろうか。
話がついた後、俺は早速この街で需要の高い商品について聞き取りをする。
「中級ポーションに毒消しやマヒ消しポーションといった冒険者用のポーションに、二日酔い用のポーションもか」
二日酔い用の一般的な薬もあるにはあるが、魔法薬であるポーションの方が即効性があるから特に上流階級には引き合いが強い。
この街でも富裕層の引き合いがあるらしく品薄のようだ。
他にもネズミ駆除の薬剤や汚水浄化の薬剤なんかもあればいいという話だった。
ユミル村ではまだ収穫期を迎えていないが、ネズミ駆除の薬剤はこれから引き合いがあるかもしれないな。
俺はメモをとって、頭の中で必要な素材について一つ一つ確認をする。
足りない素材については仕入れの段取りをしなければならない。
こうして俺の意図しないところで販路が開拓されることになった。
ユミル村ではゆっくりと仕事してスローライフを送るつもりだったのに段々と忙しくなってきた。
まあ、これも何かの縁だ。
まだそこまでの忙しさではないが俺もひと頑張りするとしよう。




