10 宝の山?
「あっ、レナじゃない。そっちはひょっとして新しく来た人?」
声がした先を見ると道に面した畑の奥から女の子がこっちに近づいて来た。
ちょっと濃い紫がかった色をした短い髪の女の子だ。
「あっ、キャロルちゃん。そうよ、このお兄さんが錬金術師さん」
「へ~、あっ、あたしはキャロルです。よろしく」
「ブランです。こちらこそ」
恐らく同年代ということで少し砕けた返しをして話し始めたが、キャロルと名乗った女の子は俺と同じ16歳だった。
キャロルとは同じ年齢ということでお互い呼び捨てで話すということになった。
「ブラン、レナには気を付けなよ。レナはビッチだから直ぐに男に色目使うからさ」
「ちょっ、キャロルちゃん、変なこと言わないでよっ!」
「でもあんた、前はクエストで宿に泊まったAランク冒険者の何とかって人がカッコいいとか何とか言ってなかった?」
「そっ、それはしょうがないでしょう! ホントにかっこよかったんだから……」
女の子の方が早熟だという話を聞くがこの辺境の地でもそれは変わらないようだ。
しかし、学院ではエレンや姫様とはそういった話をしたことはなかったな。
まあ、異性である俺相手にそういう話にはならないか。
「ところでキャロルは何をしてたんだ?」
「今は畑の雑草を抜いてるところね。あそこに抜いた雑草を集めてるの。しばらく干して乾燥させたら燃やすのよ。この辺りはもう終わってるからきれいだけど、奥の方はまだかなり残ってるわ」
キャロルはうんざりした表情で吐き出すように言った。
「それは大変だね」
俺はそう言って何気なく集められている草の山を見て、そして固まった。
工房の庭にも生えていた薬癒草と同じ物のように見える。
「ちょっ、ちょっといいかな?」
「んっ、何?」
「あそこの草の山って、ひょっとして薬癒草?」
「薬癒草? なにそれ? 名前何て知らないわよ。雑草は雑草でしょ?」
「そんなことないぞ。薬癒草は錬金術の素材になるんだ。街ではちゃんとした値段で取引されている」
「あはは、ブランって面白いこと言うのね。王都ではそういう冗談が流行ってるの?」
いやいやいや。
確かに初級ポーションの材料である薬癒草はそこまで高価な素材ではない。
しかし、一束いくらで取引されるれっきとした錬金素材だ。
そこらに植えられている野菜よりも高い金額で取引されていると思う。
「じゃっ、じゃあさ。あの草の山ちょうだいって言ったらくれる?」
「えっ、あんなのが欲しいの? 別にいいけど」
何と、宝の山を無料でいただけることになりました!
でもいいんだろうか?
いいよね。
一応説明したからね。
後でやっぱりなしって言ってももうダメだからな。
俺は雑貨屋へダッシュで行って草の山を入れる麻袋を買って直ぐに戻ってきた。
「はぁはぁはぁはぁ、ひっ、久しぶりに全力で走ったら息が……。じゃっ、じゃあ、ホントにもらっていくからな」
「はいはい、まだたくさんあるし別にどっちでもいいわよ」
俺はホクホク笑顔で麻袋を担いで宿へ戻った。




